第47話 聖女Ⅰ

シスターが言っていた。

アタシはどっかのゴラクインなんじゃないかって。

身分の高いオトコが使用人か奴隷に産ませた子じゃないかって。

上等なおくるみに包まれた状態で孤児院の扉前に捨てられてたって。

でもそんなの、生きていく上では役に立たないわ。


上等なおくるみはパンやスープに替わってしまったから、アタシの親は分からずじまい。

でもアタシがいらなくて捨てたんだから、親がどんな人なのかなんて知る必要はないわ。

養い親の元へ行ったけれど、10日後に切り傷やアザだらけで帰ってきた子もいるから、きっとロクでもない大人のことを「親」って言うのね。


アタシは一部の人の顔を見ると、映像が流れてくることがある。

映像が見えた子たちの中には怪我をする映像があった。でも今は傷を負ってない。 随分前の話? それともこれからの話?

よく分からないから訊いてみると「いつもあちこちケガをしているから分からない」と言われた。 まぁそうだよね。

でも1週間後、映像と同じようにその子がケガをしたので、未来のことが見えるんだな と思った。


危ない目に遭いそうな子に限り事前に注意をしていた頃、教会前でシスターと話すお年寄りに”見えた”。

なのでシスターに近づき、おばあさんに話しかけた。

「おばあさんはお金持ちなの? この通りの先、左側で5人のおじさんがおばあさんが持っているレティクールを狙っているよ」と。

おばあさんが一緒にいた若い男の人たち―護衛に見てくるよう言い、半信半疑で向かったトコロに5人のゴロツキがいたのであっさりと捕まえた。

おじいさんとおばあさんは強盗を未然に防げたことを喜び、アタシを養女として迎えてくれた。


おじいさんとおばあさんは大きなお店をやっているそうで、アタシも軽いものを棚に並べたり輸送用の箱に詰めたりと手伝いをしている。

そのうちおじいさんとおばあさんはある人物を指さし、あの人に何が見えるかを聞いてくるようになった。

指さす人はいつもおじいさんのところにお話に来た相手だった。

アタシが見たことを伝えるとおじいさんは「じゃあこのショウダンは進められそうだね」とか「さっきの話にはトウシはしない方がいいね」とか言った。

お店は大きくなり、働く人も増えて、アタシは商品を並べたりすることはなくなった。


綺麗な部屋がアタシの部屋になり、そこにおばあさんが未来を知りたい人を連れてくるようになった。

アタシはそんなに1日に何回も未来を見ることは出来ない。

「そんなにたくさん見ることは出来ない。頭が痛い」と訴えたが、「当たり障りのないことでも言えばいい」と言われた。

アタリサワリノナイ ってどういうことなんだろう。

おばあさんはたくさんの宝石とドレスに囲まれて幸せそうだ。

アタシの服は4着だけ。綺麗な服になったけれど、孤児院の時と差があまりない枚数のままだった。


少しすると王様の使い と言う人がやってきた。

おばあさんは「”別の世界からやってきた”と言うように」アタシに何度も言って馬車に押し込んだ。


そうやってアタシは善意で助けた人たちに利用され、売られたのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る