第20話 貴婦人の母

「ロー…ミカエラとのお買い物に武器屋に行ったんですって⁉ レディを連れて行くようなところじゃないでしょ? 部下との買い物じゃないのよ⁉」

「いえ母上…最初は服を買おうと思ったのです。ですが母上からたくさんいただいているという話だったので…」


先日の買い物について、ローヴァンはジュリエッタ夫人から説教を受けていた。

ジュリエッタ夫人は昨日から機嫌が悪い。

買い物の騒動を父に報告し、父から母に報告があり、ホリンの…自分のセンスを貶されたことよりもミカエラに心無い言葉を投げつけたことに怒り心頭なのだ。

事を知った郷士が今朝方謝罪には来たが母は許さず、ホリンは遠縁の…山深い村に預けられることになった。

余程のことがない限り、顔を合わせることは無さそうだ。


「帽子屋でも靴屋でも良かったでしょう! どうしてこんな朴念仁に育ってしまったのかしら…。フレデリックと違って自由にさせすぎたのがいけなかったのかしら…」

「あの…武器屋に行きたいと言い出したのはミカエラなんです…」

「そんなの! 貴方に気を遣ったからに決まっているでしょ!」


こんこんと説教は続く。


(でもミカエラは通常の令嬢たちと違って衣装やアクセサリに、目を輝かせて喜ぶという感じではないし…花の方が良かっただろうか…)


母から放免されたのはそれから1時間後だった。


「随分絞られてたね。廊下の方まで聞こえていたよ」

「兄上…」


ミカエラの勉強用の資料を自室に取りに戻り、勉強室に向かうところだったらしい。


「ミカエラが喜ぶなら、僕は武器屋でもいいと思うのですがね」

「うーん…武器だとさすがに華はないけれど…。でもミカエラは煌びやかなものを好かないようだし、次は植物園にしては?」

「そうします…」


面白がって笑うフレデリックと、深いため息をつくローヴァン。

窓の桟に肘をつき空を見上げると、今にも泣きだしそうな空模様だ。

今日はボールルームでトレーニングをした方が良いな。


「雨が降りそうだね」


フレデリックもローヴァンの視線を追う。そして口を開く。


「ローヴァン、ミカエラにダンスを教えてよ」

「は? 社交界に出ないのだから必要ないのでは?」

「教養の一つとして身に着けておいてもいいんじゃないか? 他の令嬢たちからバカにされるような弱点は潰していった方がいい。それに母上の機嫌も良くなる」


最後の言葉にローヴァンの気持ちが揺れる。


「…しかし、僕は兄上ほど上手くないのですが…」

「運動神経は良いのだから、真面目にやれば私より上手いんじゃないか? ローヴァンも一緒にしごかれるといい。…ミカエラの脚は踏まないようにね」

「…さすがに踏みませんよ」

「本当は私が教えたいのだけど…ローヴァンの領分だからなぁ」


フレデリックは少し寂し気な目をしながら教材をひらひらと振って去っていく。

ローヴァンは茶化しながらもフレデリックの本気を垣間見た気がして、少し気分が沈んだ。


「…? 兄上と一緒になるならそれでめでたいことなのに…」

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