第8話 ようこそダンジョンへ


 ――第1階層の奥に扉を見つけたカシラは、大鉈を引き抜き恐る恐る押し開ける。


 そして目の前に広がる、2度目の花畑。


「またっすか」


 部下が火をばら撒き足元を確保する中、しかしカシラはある1箇所を注視していた。


 部屋の中央、その部分だけが妙に盛り上がっている。


 「……それで隠れてるつもりかよ」


 溜息を吐いた彼は、生み出した炎を槍状に変化、振りかぶり、


 「『イグニ・ハスタ』」


 投擲した。


 風を切り裂き、空気を唸らせ、爆進する炎槍。


 部下の誰もが直撃を疑わなかった、瞬間、


「「「――っ」」」


 地面から這い出た10本の太い蔦が迎撃。辺りに爆発を撒き散らした。


「……カシラ、あれ」


 爆発によって露わになった、盛り上がりの正体。


 全長は3mを超え、根本に大きく開く毒々しい赤色の花弁。

 その中に起立する、白色の棒状の本体。そして本体を取り巻く、数10本の触手に似た蔓。


「アモルファルス。魔花の中でもまぁ危険な部類だな」


 カシラの纏う空気が変わる。


「前に出るなよ。火を飛ばして俺の足場を作れ。他の奴らは全力で迎撃」


「「「うすっ!」」」


 カシラは大鉈のグリップを再度小指から順に握り締め、ウォーミングがてらその場でジャンプする。


 軽い着地音が2度続き、3度目が鳴る――


 「ぅし――ッ」


 と同時に、前傾姿勢となった彼が大地を踏み抜き突貫。


 振り抜かれた鈍色の銀線が、のたうつ蔓を5本纏めて切り飛ばした。


 「――ッッ‼︎ッ⁉︎」


 声にならない悲鳴を上げるアモルファルスに、間髪入れずに火球が着弾。着弾。着弾。


 カシラは部下の作った炎の道を走り抜けながら、敵に向けて火球を放ちまくる。


 最後の1発を放った後、進路を直角に曲げ焼け散る花々を蹴り抜く。


 大鉈を引き絞り、


 「フゥッ」


 円を描く様に振り抜いた。


 頭上左右から彼を襲った蔦3本が、同時に切り飛ばされ紫の体液を撒き散らす。


 直後突き出される2本の蔦を半身で躱し、くるりと回転。

 目の前に迫った植物に向け、


 「『イグニ・ハスタ』」

 「――ッッッッ⁉︎‼︎‼︎」


 ゼロ距離で炎の大槍をぶっ刺した。


 炎上するアモルファルスを蹴り倒し、カシラは一息つく。


 大鉈を拭う所作までに一切の無駄がなく、その一連の動きはまさに達人の域。


 この技量こそ、彼が何10年も盗賊として生き抜いてきた証なのである。


 「カシラっ!流石っす!」


 「わぁったわぁった、さっさと次行くぞ」


 「「「うっす!」」」


 1度目同様、奥に見えた扉まで歩き、部下2人に開けさせる。


 一体この施設は何なのか、十中八九エルフの農場か何かだとカシラは考えていたが、それもどうも怪しくなってきた。


 ただならぬ魔力を発していた大樹。

 奥に行くほど強力になる個体。


 何かを、隠している。


 未だ嘗てない未知に、カシラの中の冒険者が鎌首を擡げた。


 その時、


 「……あ?」



 扉を開け放った2人の頭部が、吹き飛んだ。



 「え、おい、おい!」「クソっ」


 重りのなくなった首から噴き出す血が、段々と広がってゆく。


 力なく倒れる骸を挟み、盗賊達の視線の先には、三度目の花畑。



 ……その中央で、彼らは待っていた。

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