煙と嘘
さぼん
第1話
トイレから帰って来ると急に部屋が涼しくなっていた。酔いすぎたわたしの体にはちょうどいい。
「また吸ってるし」
ベランダの柵にもたれかかっているあいつの顔は部屋が明るく見えないが、確かにそのシルエットからは白い煙がみえる。
「んーまぁね。」
「そろそろ辞めたらどうなの」
「あー彼女できたら辞めるわ」
「出来るわけないでしょそんなの吸ってるやつに」
そう。
わたしはあいつの彼女なんていい場所になんていない。小さい頃から何でも一緒にさせられていた、言わば幼なじみと言うやつだ。
手にするものがコーラからお酒になってもこの腐れ縁は続き、こんなふうにあいつの家でダラダラするなんてことは日常茶飯事だ。
私の気持ちなんてものはあいつが吸ってる煙草の煙のように一瞬でふわふわどこかへ飛んでいってしまうのだろう。
煙草の匂い、あいつが煙草を吸ってる姿何もかもが嫌なのにあの質問をされる時だけは煙草が私の味方をする。
「ねぇ、吸ってみる?」
「馬鹿なの誰がそんなの吸いますか。」
「ですよね」
この瞬間だけはあいつの顔が良く見え、その顔は小さい頃から変わらない笑い方で煙を吐く。
この質問には正直に返したことは1度もない。
いつかあいつが煙草を吸わなくなる時がやってくるのかもしれない。わたしを向いてあいつから関節キスを誘われなくなる。
吸わなくなる理由が私になればいいのに。
煙と嘘 さぼん @nsabonn
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