恋愛ゲーム

口羽龍

恋愛ゲーム

 戸村翼(とむらつばさ)は都内に住む小学4年生。勉強はそんなに得意じゃないが、スポーツはそこそこできる。そんな翼はテレビゲームが好きで、学校帰りや休日によく同級生らと遊んでいる。


 今日も翼は同級生らとテレビゲームをしている。時々やって来る母は笑みを浮かべてその様子を見ている。みんなが楽しくテレビゲームをやっている様子が楽しそうで、ほほえましいと思っているんだろう。


 その中には女性もいる。その中の1人、梅崎千春(うめさきちはる)は今年の秋に転校してきたばかりで、翼の同級生だ。すっかりここでの生活に慣れ、多くの友達ができた。


 時計はもう午後4時だ。もう帰る時間だ。楽しかったけれど、もう時間だ。帰らないと親が心配する。


 翼はテレビゲームの電源を切った。それと共に、遊びに来ていた子供たちは帰る準備を始めた。持ってきたソフトを袋に入れ、部屋を出っていった。すると、翼もついて行く。階段で別れるようだ。


「じゃあねー、バイバーイ!」


 みんなは手を振り、家に帰っていった。翼は玄関で彼らに手を振っている。母はその様子を笑顔で見ている。


「はぁ・・・」


 翼は肩を落とした。今日も疲れた。しっかり体を休ませて、明日に備えよう。翼は部屋に帰っていった。


 夕食までの間、翼はベッドに仰向けになっている。翼は考え事をしている。ここでどうすれば勝てるんだろう。翼はゲームの事で頭がいっぱいだ。


 翼は立ち上がり、テレビを見た。テレビはついていない。とても静かだ。その下では母の作るカレーの匂いがする。今夜はカレーだ。そう思うと、自然に笑みがこぼれる。


「あれっ?」


 と、翼は1枚のソフトの入ったケースを見つけた。自分が持っているソフトではない。誰かが忘れたと思われる。知らせて戻さないと。


 翼はケースをよく見た。すると、裏面の左下に名前がある。『うめさきちはる』と書かれている。どうやら千春が忘れたと思われる。早く届けないと。


 翼は1階にやって来た。1階では母がカレーを作っている。千春がソフトを忘れた事を伝えないと。


「どうしたの?」


 翼に気付き、母は声をかけた。母はカレー作りに集中していて、振り向かない。鍋から目をそらすと、焦げるかもしれない。集中しよう。


「ちーちゃんがソフトを忘れてったみたい」


 母は驚いた。まさか、今日遊びに来た千春がソフトを忘れていったとは。早く戻してやらないと。


「ふーん、返してやりなよ」

「わかった」


 翼は受話器を取った。目の前の壁には学校の連絡網がある。その中に、千春の電話番号もある。翼は電話番号を押した。着信待ちの音が流れる。


「もしもし、梅崎ですけど」


 電話に出たのは千春の母だ。優しそうな声をしている。まるで母のようだ。


「梅崎千春ちゃんの同級生ですけど、お宅の千春ちゃんがうちの家にソフトを忘れたみたいなんですけど」

「そ、そうですか?」


 千春の母は驚いた。まさか、忘れたとは。早く届けてもらわないと。だけど、もうこんな時間だ。明日、こっちに来て返してもらおうか?


「はい」


 一旦、千春の母は受話器から耳を外した。千春に声をかけるようだ。千春は2階にいる。


「千春ー、ソフト忘れてないー?」


 母の声を聞いて、千春はソフトの入った棚を見た。すると、1枚がない。全く気付かなかったが、やはり忘れていた。


「あっ、ごめん、忘れた」


 その声を聞いて、母は少し厳しい表情を見せた。忘れ物はいけない事だ。気を付けてほしいな。


「確かにそうだって」

「明日、僕が返しますんで」


 翼は思った。もうこんな時間だ。返すのは明日の朝にしよう。


「あっ、そうですか。ご迷惑をおかけします」

「いえいえ」


 翼は電話を切った。それを確認して、千春の母は受話器を取った。そして、母は2階に向かった。千春に注意しようと思っているようだ。


 母は2階の部屋にやって来た。部屋の中には千春がいる。千春は下を向いている。忘れ物をしたのを反省しているようだ。


「こら、何やってんの」

「ごめんなさい」


 千春は頭を下げ、謝った。明日、翼が来たらどう答えよう。


「ちゃんと謝るのよ」

「はい」


 結局明日、翼に届けてもらう事にした。翼が来たら、しっかりと謝ろう。




 翌日、翼は千春の家に向かっていた。千春は隣町に住んでいるらしい。隣町に入った事があるが、最近は行っていない。


 家を出てから数十分、翼は千春の家にやって来た。千春の家は最近建てられたようだ。どうやら転校した時に建てられたようだ。


 翼は家の中に入った。家は2階建てで、翼の家に似ている。庭には雑草がなくて、端には木が生えている。とても美しい庭だ。


 翼は玄関の前にあるインターホンを鳴らした。すると、物音がする。母がこっちに向かっているんだろうか?


「はーい」


 玄関のドアが開いた。そこには千春の母がいる。母はめがねをかけた優しそうな女性だ。


「お邪魔しまーす」

「あら、翼くん」


 翼は家に入った。そこには千春がいる。母の後に続いてやって来たようだ。


「あっ、翼くん。ごめんね、忘れちゃって」

「いいよ」


 翼はゲームソフトを出した。千春はそのソフトをじっと見ている。忘れたのは確かにこれだ。


「はい、これ」


 翼はゲームソフトを渡した。千春は笑みを浮かべた。反省しているみたいだが、いつまでも引きずってはいけないと思っているようだ。


「ちょっとうちに寄っていかない?」

「うん」


 翼はしばらくここで遊ばせてもらう事にした。忘れ物を届けに来ただけで、こんな事になるとは。でも、いいか。遊べるのなら、それでいい。


 2人は千春の部屋に入った。千春の部屋は清潔で、色んなぬいぐるみが置いてある。そして、棚には何本ものソフトがある。


「へぇ、こんなにソフトを持ってるんだ」


 翼は驚いた。自分よりも多い。2倍ぐらいはある。こんなにも持っているとは。ここで遊んでも面白そうだな。


「すごいでしょ」


 と、翼はあるソフトを手に取った。それは、以前から翼がやりたかったソフトだ。まさか、千春が持っているとは。


「これこれ、僕もやりたかったんだ」

「やろうか?」


 突然、千春がやろうと言ってきた。忘れ物を取りに来ただけなのに、どうしよう、やっちゃおうかな? 翼は少し戸惑った。


「う、うん」


 戸惑いつつ、翼はうなずいた。本当にいいんだろうか? 忘れ物を届けたらすぐに帰らなければならないのに。


 結局、翼は遊んでいく事にした。本当はそうじゃないのに。でも、歓迎されたんだから、やっていこう。


 リビングで翼と千春はゲームをしている。以前から気付いていたが、千春はゲームの腕がよい。それは同級生も気づいている。


「面白いでしょ?」

「うん」


 しばらく、翼と千春はテレビゲームに没頭した。まさか、こんなに楽しいとは。自分もいつはこんなにソフトを持ちたいな。


 遊んでいると、いつの間にか正午近くになってきた。今頃、母はお昼ご飯を作っているだろう。そろそろ帰らないと。


「あっ、もうこんな時間。家に帰らないと」


 それに気づき、千春はテレビゲームをセーブして、電源を消した。


「そう。また遊ぼうね」

「うん」


 翼は立ち上がり、リビングを後にした。その後を千春が追いかけていく。


 2人は玄関にやって来た。忘れ物を取りに来ただけで、こんなに時間を食ってしまうとは。


「今日はありがとうございました」

「いえいえ」


 翼は自転車に乗り、家に帰っていった。今日はいい1日だった。いつも自分の家でゲームをしているけど、別の人の家でゲームをするのもいいもんだな。また遊びたいな。


 だが、その様子を同級生がこっそり見ていた。翼が千春の家に来ているのを知って、やって来たようだ。


「あいつ、何してるんだろう」

「わからん」


 その隣には別の同級生もいる。彼も翼と千春の関係が気になっているようだ。


「付き合ってんじゃないの?」

「そうみたいだね」


 と、同級生が笑みを浮かべた。何かを考えたようだ。


「みんなに言いふらそうぜ」

「うん」


 明日は月曜日、登校日だ。それで2人の関係をみんなに言いふらして、からかってやる。




 翌日、今日は月曜日、登校日だ。土日遊んで休んだ分、今週も頑張ろう。


 翼はいつものように登校した。今週もまた1週間が始まる。勉強に遊びに色々頑張ろう。


「おはよー」


 教室に入り、翼はいつものように声をかけた。だが、みんなの反応がどこかおかしい。みんな僕をジロジロ見ている。何だろう。


「おいお前、千春と付き合ってるらしいな!」


 翼は驚いた。まさかこんな事を言われるとは。自分はまだ付き合ってなんかいない。ただ、訪ねて遊んだだけだ。


「えっ、忘れ物を届けて、そのついでに遊んだだけだよ」


 翼は抗議をした。だが、生徒は聞き耳を持たない。


「付き合ってるんだろ、正直に言え!」


 より強い口調だ。どうしてなんだ。付き合ったらだめなのか?


「付き合ってないってば!」


 それでも翼は付き合ってないと抗議した。だが、生徒はその声を無視している。翼は徐々に焦っている。


「付き合ってるくせに!」


 と、生徒の表情が変わった。廊下から足音が聞こえる。そして大きくなっていく。先生が来たようだ。


「やべっ、先生が来たぞ!」


 生徒たちは大急ぎで席に戻った。程なくして、先生が入ってくる。


「起立!」

「礼!」

「着席!」


 朝の会が始まった。今までの表情とは変わり、真剣に聞いているようだ。


「おい、お前付き合ってるんだろ?」


 突然、後ろの席の生徒が肩を叩いた。生徒はいやらしい笑みを浮かべている。


「違うよ!」


 翼は否定した。だが、生徒は笑みを浮かべている。付き合っていると言いたいようだ。


「そうだろ?」

「違う!」


 翼は大声で叫んだ。すると、周りの人が反応した。みんなにも聞こえていたようだ。


「どうしたの?」


 先生が話しかけた。先生もそれを聞いていたようだ。翼の身に何があったんだろう。もし、いじめなら止めなければ。


「ちーちゃんと付き合ってるんだろってみんなに言われてるんだ。本当は付き合ってないのに」


 翼は泣きそうだ。付き合ってなんかいないのに。どうしてこんなに言われるんだ。一緒にいる事にも、付き合う事にも罪はないのに。


「いいじゃないの」


 先生は誰かと付き合う事に罪はない、いい事だと思っている。なのにどうしてそれで他人をからかうんだろう。そんな事をしたら相手がかわいそうだろ? もっと相手の気持ちになりなさい。


「どうして? みんなから言われてるんだよ」


 翼は泣いてしまった。ただ仲が良いだけで、どうしてこんなに言われなければいけないんだろう。


「そう。みなさん、翼くんと千春さんはいい関係だけど、そんな事で人をからかわないように。恋をする事はちっとも悪くない。恋をする事に罪はないんだから」


 生徒たちは真剣に先生の話を聞いている。どうして自分たちは翼にそんな事を言っているんだろう。自分が言われたら嫌なのに。人が言われたら嫌な事は、自分も言われたら嫌な事だ。だから、やってはならない。どうしてやっているんだろう。


「ごめんなさい」

「ごめんなさい」


 すると、次々と言っていた生徒が立ち上がり、翼に謝った。付き合っている事でからかっていると、翼が傷つくし、千春も傷つく。もう言ってはならない。生徒たちは申し訳ない気持ちでいっぱいだ。


「翼くんとちーちゃん、これからも仲よくね」

「うん!」


 千春は笑みを浮かべた。千春はその様子を恥ずかしそうに見ていた。自分が翼と一緒にいるとこんな事を言われる。だからもう遊びたくないなと思っていた。だが、みんなが謝っている。そう考えると、付き合っている事に罪はないんだと思った。だから、これからも翼と仲良くしていこう。


 すると、翼は泣き止み、笑みを浮かべた。これからも千春と仲良くしていこう。そして、結婚する事になったら、みんなを結婚式に招待して、みんなに祝ってもらいたいな。

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