第19話 天神さん

 家族のうちだけで通じる言葉、というものがある。


「リカちゃんになる」以外に、「天神てんじんさんが来る」という言葉があった。

 

「あ――っ、天神てんじんさんがキタ――ッ!」


「くうっ。今、天神てんじんさんやから、さわらんといて……」


「やめて、まだ天神てんじんさんやねん」


「いや、さすらんでもええ。ほっといてんか……


 ほっといてて、ゆうてるやろ!」


「ふうっ、やっと天神てんじんさん、なおったわ」


 おわかりいただけただろうか?


 そう、天神てんじんさん、とは、しびれがきれた、という意味なのだ。


 あのじんじんして、いわく言いがたいつらい感覚。


 足をのばして唇をかみ、じんじんが去るまで耐えるしかない、パーソナルな時間。


 手でさすれば早く治ることがわかっていても、ふれてほしくない、ふれたくない、神神域じんじんいき。 


 しびれがきれた、などという気取った言葉では、決して表現できはしない!


 さああなたも、じんじん来た時は「天神てんじんさんがキタ――ッ!」と叫ぼう。


 あるいは、「いま、天神てんじんさんやねん」と、弱々しく告白しよう。


 天神てんじんさんは、クセモノ! である。

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