奴隷紋の剣聖~転生したら最底辺の奴隷だったけど剣聖目指します

にこん

第1話 奴隷


この世界には剣聖と呼ばれる剣の達人が四人存在している。


剣聖。


それは男の憧れ。


この世界に男として生まれたのならば剣聖を目指す。

それがこの世界に生まれた全ての男に与えられた目標のものであった。


だが、剣聖になれるかどうかというのは正味生まれた時に決まっていた。

剣聖になれる人間には剣の才能が抜群にあるというからだ。


「……ま、俺には関係の無い話だな」


そう言いながら今日も奴隷としての労働を続ける。

インドラ帝国。


俺が生まれてしまった帝国の名前だった。


インドラ帝国では夢すらも見れない。

世界全体でもそうだがこの国は特に世襲制であり、奴隷の子は奴隷、市民の子は市民、貴族の子は貴族、と生まれた時点で将来の姿というものが決まっているからだ。


剣聖もそうだ。

剣聖の子として生まれなければ可能性すらないし、事実この国からは剣聖が出ていない。


「奴隷の子は奴隷、ってね。まさにその通り」


この人生はまるで初めから負けることが決まっているゲームをやらされるようなものだった。


俺は奴隷以外の存在にはなれない。

それがこの世界の真実だった。


カエルの子はどこまでいってもカエルだ。


そんなことを思いながら重い荷物を運ぶ。

俺が今やっている仕事は鉱山での鉱石集め、その際に掘り出した土なんかを運ぶような、そんな仕事。


「お前何サボってんだよ」


近くで声が聞こえた。

そちらを見ると俺達奴隷を監視する監視役のバッカスが口を開いていたようだった。


そして口を開かれているのは俺の友人のダイスだった。

俺達は主に重い物の運搬を仕事にしているのだが、ダイスが荷物を落としてしまったようだ。


「す、すいません」


ダイスの代わりに謝って俺は間に入った。


「俺が代わりに運びます。見逃してやってください」

「仲間思いだなお前」


そう言ってバッカスは別の奴らの監視に向かう。


「ダイス、大丈夫か?」

「す、すまない、クロノ」

「気にするな。少し休んでいろ」


俺はダイスに木陰で休ませてから彼の落とした荷物を代わりに運んでやる。

クソ重いんだよなこれ。


でも俺はこの運搬作業も無駄にはならないと信じている。

重いものを運ぶということはそれだけ筋肉も付くだろう。


剣聖になれなくたっていい。

俺の夢は、そこそこの剣士になることだ。


そのために少しでも筋肉が欲しい。

そう思い俺はこの16年間の奴隷人生を送ってきた。


俺は転生者だった。

この世界のことは良くは分からないけど、俺の前世では普通の日本人でこんな奴隷労働とは無縁だった。


だから知ってるんだ自由ってものを。


(いつか、奴隷なんてやめてやる)


そう心に決めて今まで生きてきた。

そのためにも力が欲しい。


俺は人一倍そう願っていた。


その時


「休憩だ!」


バッカスが戻ってきて俺たちに休憩を告げる。

そのバッカスが俺の目を見て口を開いた。


「あの小僧の分まで働いたらしいなお前」


その顔はニヤニヤと歪んでいた。


「あの小僧はお前に感謝なんてしていないだろうな。自分の代わりに働く奴がいるから働かせている、その程度だろうな」

「俺は信じてますよ。あいつはそんな奴じゃないって」

「その信頼、届くといいな?まぁいい。昼飯の時間だ」


バッカスはそう言って食料のところに向かっていった。

今から俺たち奴隷に配るためだ。


(ダイスを呼んで一緒に食料を貰いに行こう)


俺はそう思い陰に向かった。


「ごめんなクロノ。お前に仕事押し付けちまって」

「気にするなよ」

「サンキュな。それに最近眠れなくてな」

「大丈夫か?」


そんな会話をしながら俺はダイスに肩を貸して食料を受け取りに行く。


「すまねぇな。いつも」

「気にすんなよ」


俺はそう言って座り込んで食べ始めるダイスを見守る。

俺たちの飯は一日二食。


この昼に貰える分と夜に貰える分だけ。

昼はパン一つだ。

正直足りないが文句を言えばまたバッカスが来るから誰も何も言えない。


「はぁ、」


溜息を吐いて俺も食べ始める。

こんなスッカスカのパンでも体は慣れてくる。


これでなんとか体は動いてはくれる。

そうして午後からの仕事にも精を出した。


午後からはダイスも動いてくれたので俺の負担は減っていた。


「終わりだー!戻れ!」


そうしてバッカスが指示を出す。

今日の作業は終わったので牢獄のような住処に戻れということだ。


奴隷は人間扱いを受けられない。

不衛生な場所で寝泊まりだ。


その帰り道にまた食料の配布があったので受け取り歩いて部屋に食料を投げるように置いて俺は外に出た。


ある程度の外出は許可されているが、余り遠くに行けば置かれた監視に殺される。


近くにある川に向かって


「ふぅ〜」


飛び込んだ。


「ちょうど、許可された範囲にあるなんて助かるよなぁ、この川」


水分を含み重くなった前髪を掻きあげて今日体に付着した汚れを落としていく。


「後は監視の目さえなければもっと最高なんだがな」


小さくつぶやく。

この川の上流も下流も見張りが立っているので、当然ここから逃げ出すことは出来ない。


もっとも逃げ出したところで行く場所なんてないけど。


それから日課に入ることにした。

川の中を泳ぐ魚に目をやった。


「よし、今日もやるか」


気配を殺す。

それから数分後、俺の気配が消失したのを感じたのか魚達が俺の近くに寄ってきた。


その魚を手で掴んだ。

初めは上手く出来なかったが、最近は気配の殺し方が上手くなったようだ。


「よし、食料ゲットー」


パンだけじゃ足りない。

人間は極限状態に置かれるとこういう事も出来るようになるもんだ。


「さて、そろそろ戻りますか」


一応門限があるので俺はそれを守るために川から上がって牢獄のような家に戻ることにした。


家と言っても木で簡単に作られた仮設住宅みたいなものだが。

本当に寝るためだけに作られたもの。

俺は明日も奴隷労働するためにその家に帰る。


「おかえりなさい。クロノ」


そんな俺を出迎えてくれたのは女の子だった。

この世界全体のことは知らないがインドラ帝国では年々奴隷の数は増え続けている。


何故かと言うとそれが目の前にいるこの女の子達のお陰だった。


この帝国では若い奴隷同士に子供を産ませるのだ。

だから奴隷不足になったりはしない。


こうして同じ部屋に入れていたら普通の男なら勝手に子供を作ってくれるということだが、


「おやすみ」


その子を無視して床に敷かれたワラの上に寝転ぶ。


この子、ルゼルには手を出さないと決めている。




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