第15話 ESCAPE!

よし!作戦第一段階『IDカードを手に入れる』、これにて完了!!


な、なんかやけにあっさり進んだな……。こんな簡単に第一目標を達成できるとは。

あ、そういえば自動ドア……思いっきり無視して来ちゃったな……。なんか、こうもあっさりセキュリティを突破してしまうと、あんなに手間暇かけてるDEDにちょっと申し訳ない気がする。

というか、ざるだな、ここの警備。というかDEDの包囲網か。さっき見かけたDEDの人たちが『厳重な警備』だとかなんとか言ってたけど……警備ガバガバすぎない?全然セキュリティ突破できちゃってるよ?俺ら全然自由に動けちゃってるよ?今ロッカールーム好き勝手に漁っちゃってるよ?脱出の準備着々と進んでるよ?

心の中でツッコミを入れつつ、俺はロッカーの中に他に使えそうなものがないか探っていた。これといって有用なものはなかったが、まあ……お金とスマホぐらいは持っておいてもいいだろう。それ以外は特に使えるものはなさそうだ。

ロッカーの中身を隈なく確認した後、俺はロッカーを音を立てないようにそっと閉めた。そのすぐ後にアリスが俺のところに戻って話しかけてきた。

「IDカードは手に入った?」

「ああ。この通り。」

俺はアリスに今しがた手に入れたIDカードを自慢げに見せびらかした。それを軽くスルーしアリスは俺からカードを受け取りライトを当てながらカードの隅々を確認した。確認し終わるとアリスはカードをアキバに手渡した。

「あれ?アリスが持っておくんじゃ無いのか?」

「そのIDカードは本人の指紋がないと作動しないのよ。だからあなたが持っていて。」

「わかった。」

俺がポケットにIDカードを仕舞い込むのを確認すると、アリスは再び話し始めた。

「オッケー。じゃあ私の方も大体漁り終わったし、DEDが来ないうちにさっさとトンズラするわよ。」

「ああ、そうだな。」

俺とアリスが元来た通気口に戻ろうとした、その瞬間だった。ウィーンという、ロッカールームの奥にある自動ドアが開く音が耳に飛び込んできた。



「ライト消して!」

アリスはアキバの方にバッと振り返り、小声で囁いた。アキバは瞬時にライトの電源を切る。そして2人は即座にロッカーの陰に隠れ、息を押し殺して様子を伺った。


「さて~、さっさとここの部屋の点検もやっちまうか。」

「ですね、グンドウ隊長。」

十数列のロッカーの列からなるこのロッカールーム。アキバたちはそれらの一番端の列に隠れていた。そしてその反対側の端にある自動ドアから入ってきた2人組の男たちは明かりが一切届かないロッカールームの中、手探りで明かりの電源を探していた。

「お、スイッチあった、あった。」

カチッというスイッチを押した音の後、ロッカールームの電気が一斉についた。さっきまで暗闇に包まれていたロッカールームがパッと一瞬で明るくなる。

「さ、じゃあ列ごとに順番に調べていくか。」

「了解。」

男たちはロッカーをひとつひとつ開けながら、中に人がいないかを確認していった。


「どうやら、あの二人組はロッカー用のマスターキーを持ってるみたいね……。」

アリスはロッカーの陰から少しだけ顔を出して様子を伺っていた。

「ど、どうするんだよ!?」

アキバは焦りと恐怖で、体の至る所から冷や汗をダラダラと流し体を震わせていた。音が周りに漏れ出してしまいそうなぐらいに心臓が大きく鼓動し、気を少しでも緩めたらすぐにゲロってしまいそうなほどの胃のムカムカに襲われながらも、それをぎゅっと堪え、アキバはアリスにこの窮地を乗り切る手段を尋ねた。

「落ち着いて。このことは想定済みよ、慌てないで。」

対するアリスはこの状況下において全くもって動揺しておらず、それどころかこの窮地を脱するため冷静に思考を巡らしていた。

「この状況を打破する方法を考えないと……。とりあえず、あんたは今何を持ってる?持ち物は?」

アキバは冷や汗ひとつかいていないアリスに驚きつつ、自分の体を手で触って確認しながら自分の所持品を確認した。

「スマホとサイフ、あとIDカードぐらいしか……。」

「……わかった。なら、やっぱりこれでなんとかするしか無いわね。」

アリスはさっきロッカールームを探って手に入れた拳銃を手に持った。弾倉を取り出し、弾数が6発あることを確認する。

ロッカールームに拳銃放置するガバガバ管理で助かったわ……それと、数に限りがあるけど出し惜しみしてる場合じゃ無いわね。

それに加え、アリスはこの島に来る前に予め用意しておいた特製の閃光玉を懐から取り出す。

そして一度ゆっくりと深呼吸をすると、キッと目つきを変えてアキバの方に振り返って話しかけた。

「私に案がある。よく聞いて……。」

アリスはアキバの耳元でしばらくボソボソと囁いた。アリスが耳から顔を離すと、アキバは不安な表情でアリスに答えた。

「ほ、本当にそれでいけるのか?」

「さあ。でも、やるしか無い……そうでしょ?動かないことには何も始まらない、それがいかなる結果であろうとそのときはその時よ。」

「……わかった。」

アリスとアキバは男たちに悟られないようひっそりと、かつ素早く行動を開始した。



「はぁ~あ、しっかし、ロッカーの中全部調べるってすんげぇ大変だな。」

バタン、と乱暴にロッカーを閉めながら男の1人、グンドウはもう1人の男に話しかけた。

「まあ、仕方ないですよ。仕事ですし。」

腕を組みながらドア付近で突っ立っていた男は視線を動かさないまま、グンドウの語りかけにぶっきらぼうに答えた。

「なー、パッドも手伝ってくんね?」

「ダメですよ。グンドウ隊長が言ったんでしょ。ドアに立って見張っとけって。」

「そうだけどよぉ~。めんどくさいんだよ。十数列あるロッカーのまだ3列目だぜ?」

「ほら、そんな無駄話してると一生終わりませんよ。」


パン!

その銃声がロッカールーム内に鳴り響くと同時に、グンドウとパッドは反射的に物陰に隠れた。

そして、銃声と同時にロッカールームの明かりの一つがバリン!という派手な音を立てて砕け散る。

その後も立て続けに銃声が鳴り響き、最初のと合わせて全部で6発の銃弾が放たれた。その一発一発がロッカールームの明かりを的確に狙い、全部で6つあったロッカールームの明かりは全てガラスが割れる派手な音と共に破壊され、床にはガラス片がぶち撒かれた。

「パッド、無事か!」

「はい、隊長は?」

「俺も大丈夫だ。」

グンドウは頭に乗ったガラス片を払いながら答えた。

「敵がいる……っ!お前は外に出てドアを見張れ。外に誰かが出てきたら即座に捕まえろ!」

「了解!」

パッドはグンドウの指示通り、即座にロッカールームから廊下に出ていった。


パッドが廊下に出てしばらくすると自動ドアがウィン、という音を立てて閉まる。明かりが全て破壊され光を失ったロッカールームは再び、アキバとアリスが来た時と同じように真っ暗になっていた。

そして、ロッカールームの中はグンドウとアリス、アキバの3人のみとなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る