第13話 行動開始!

こうして、お互いがお互いを裏切る気満々のコンビが今、ここに誕生した。



「じゃ、そうと決まったら早速行動を始めましょう。さっきも言ったけど、あまり時間はないわ。」

「というと?」

「ここにいるDEDは少数精鋭の先遣隊。DEDやその他の警察組織で構成された本隊は色々な諸事情でまだ来ていないはず。でも、その本隊にこの島を囲まれたらいよいよ脱出は不可能になる。だから、時間がないってことよ。」

アリスは部屋の隅々を物色し、使えそうなものを選別しながら言う。

「なるほどな。…それで、本隊が来るのはいつぐらいだ?」

アリスは手を止めずに答える。

「DEDや他の動ける警察機関は今、この島を運営している組織の世界中の拠点を同時に叩いている最中だから、なかなかこっちに応援には来れないはず。……これは私の予想だけど、ざっと今日含めて3日後、ってくらいかしら。もしかしたらそれより早いかも。」

「へぇー。……3日か。案外長いな。」

アキバは着替えなどの身支度を整えながら呑気な声で返事をした。

それにしても3日、ねぇ……。長い、と口では言ったものの…実際3日でこいつの作戦を全て完了することはできるのか?もう1日目の今日が終わりそうだぞ?

アキバはYシャツのボタンを閉じながら時計をチラッと見た。時計の短針は4を示している。

ま、文句ばっかり言っても仕方ないな。とりあえず動かないことにはなにも始まらない。あ、いや始まらないどころか、ここにい続けたら殺されるのか。……おっかねぇぜ。

少しこの状況に慣れてきていたアキバは、身の危険を感じながらもどこか少し落ち着きを取り戻していた。



30分ほどで身支度を整え、アリスが言った。

「さあ、行くわよ。まずは手順1、カードキー、つまりIDカード探しから!」

「IDカードなんて、なんで今更必要なんだ?さっさと中央管理室とやらに行った方が良くないか?そこにはマスターキーもあるんだろ?それでいいじゃん。」

俺がそう言うと、アリスはチッチッチ、と指を振る。

「まあまあ、焦るのもわかるけど、落ち着きなさい。とりあえず中央管理室に行くにしても、そもそもIDカードがないことにはこの施設を歩き回ることすらままならないわ。」

「どう言うことだ?」

「この施設には大量の警備システムがある。それをIDカードなしで掻い潜ることはまず不可能よ。」

「でも、運営が壊滅されたのなら、警備システムももう機能してないだろ。」

「いいえ。多分DEDの連中が警備システムを乗っ取ってるわ。だから、油断しちゃダメよ。」

「なるほどな。そう言うことなら、確かに必要だな。じゃ、そうと決まれば早速行こう。」

「ええ。」


お互いに準備を整え、いざ出発、となったそのとき、アキバはふと思ったことを口にした。

「なあ、そういえばIDカードってどうやって調達するんだ?」

紙には、『1、カードキーの入手』としか書かれておらず、場所や方法などの細かい情報は一切載っていない。

「IDカードはアキバ用のやつを使うわ。だから、目指すはこの施設の御弁棟のロッカールーム。アンタはそこにカード忘れちゃったんでしょ?」

「あ、ああ、そうだったな確か。」

そういえば俺用のIDカードの存在、すっかり忘れてたな。

「移動手段は?」

「この部屋から階段までは通気口を辿っていくわ。そこからは階段を3階まで登って、バレないように静かにロッカールームまで歩く。」

「その後は?どうする?」

「IDカードが取得できたら、追っ手に警戒しながら御弁棟の9階まで移動する。そこに中央管理室があるわ。まあ、実際の作戦とか、詳しい説明はそこに着いてからするわ。ここで説明しても分かりづらいし。」

「わかった。」

アキバは軽くうなづいた。

「オッケー?じゃ、早速通気口の蓋外して行くわよ!目指すはロッカールーム!」

と言うと、アリスはソファーの上につま先で立ち、両手を限界まで伸ばして、自分のナイフで鉄製の蓋の4隅のネジをクルクルと開けていく。錆び付いていたのか、ネジを開けるのに少し苦戦しながらも通気口の蓋は問題なく開いた。アリスはネジを外し終えると、ギギィ、という錆びた金属の音を立てながら蓋を持ち上げ、通気口の中へ押しやった。

「さ、いくっ……わよっ……。」

アリスは背伸びをして手を伸ばすが、うまく通気口の壁を掴めないでいた。

「ふんっ……っく……っ!」

アキバは思う。

……このままこの無様な様子を見てストレスを発散するのもいいが、まあ時間もないことだし、仕方ないな。

「なあ、俺が先に通気口に入ってお前を引っ張り上げようか?」

とアキバはアリスに提案した。しかしアリスはビクッ、と明らかに動揺したような様子で、

「な、なに言ってるのよ!そんなことしなくともちゃ、ちゃんと届くわよ!馬鹿にしないで!」

と大きな声で反対した。

……こいつ、身長にコンプレックスでもあるのか?今はそんな片意地張っている場合じゃないってのに……。

アキバがアリスを持ち上げたり、抱っこしたり、ソファの上で四つん這いになってアリスの土台になったりなどのさまざまな試行錯誤の結果、5分ぐらいかけて、ようやくアリスは通気口の中に入ることができた。

そして、アリスが通気口の中にしっかりと入ったことを確認すると、続いてアキバもソファの上に乗ってヒョイ、と両手で通気口の壁を軽々と掴み、スッと体を持ち上げて、苦戦することなく通気口の中に滑り込んだ。そのタイム、ものの10秒足らずである。

……アリスはそんなアキバの様子をムスッとした表情で見つめていた。

(な、なんか睨まれてる気がする……。)

アキバも、そんなアリスの嫉妬の感情を彼女の鋭い眼光から薄々感じ取っていたのであった。

「……さ、いくわよ。」

ムスッとした表情のまま、アリスはアキバに背を向け、四つん這いで奥に進んでいく。

「お、おう。」

そんな彼女に気押されながらも、アキバは同じく四つん這いの姿勢でアリスの後ろを、音を立てないように警戒しながら、ついていった。

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