第10話 選べ-2
「で、問題なのはそいつらにここを制圧されちゃってるってことよ。」
「…………ふぇ?」
制圧されてる、だって?
「…え?まじで?」
「うん、マジ。」
「マジもんのマジ?」
「マジの中のマジよ。」
「ってことは、……どういうことだ?」
ダメだ、予想の斜め上の話で、思考がうまく追いつかない。
「つまり、もう運営は崩壊済み。急いでこの島から脱出しないと、捕まるか、最悪殺されちゃうってことよ。」
「じゃ、じゃあ早く逃げないと!」
バッと立ち上がり、アキバは入り口のドアに向かって駆け出した。
「あ、ちょっと!」
アキバは走り出す足を止めずにアリスに語りかける。
「お前も早く!急げ!」
「待って!まだ話が……」
アリスの制止も聞かずアキバはドアノブに手をかけようとする。そして人差し指が触れた瞬間、
「息吸って!」
「……え?」
い、息を吸う?
アキバは動きをピタァ、と止めてアリスの言葉を聞き返した。
「吸って!」
「え、あ、すぅ~~。」
アキバは動揺しながらも、アリスの言う通りに大きく息を吸い込んで肺を目一杯に膨らました。
「ゆっくり吐いて。」
「ふぅぅ~~。」
「吸って~~吐いて~~。」
「すぅ~~はぁ~~~。」
……なんだこの時間は。なぜ今、俺はアリスに呼吸管理されてるんだ?……なにかの遊び?なのか?
「な、なにこれ。」
「なにって……深呼吸よ。ほら、焦ってる時とか深呼吸するといいっていうじゃない。ほら、落ち着いたでしょ?」
……確かに焦りは多少和らいだ。だが、それは落ち着いた、というか驚きのあまり思考が停止した、という方が正しいんだが……。というか深呼吸が緊張に効くといっても、今やることか、それ?こういう時って、普通こう、なんか走って追いかける、とか抱きついて体の動きを止める、とかじゃないのか?……なんにせよ『息吸って!』は、なんというか、変わっているというか……もしかしてコイツ、なんか抜けてるっていうより天然なのか?それとも底知れない天才なのか?
「いい?まだ話は途中、というかそもそもこれからが本題よ。脱出の作戦会議!さっさとやるわよ。」
「作戦?作戦なんてあるのか⁉︎」
アキバは希望の眼差しをアリスに向け、トーンの上がった声で聞き返した。
「もっちろん!あんたがグースカと呑気に寝てる間に考えておいたのよ!この私が立てた、パーフェクトなプランよ!」
アリスは胸を張って自信満々に答えた。
「さ、わかったらさっさと座って!あんまり時間ないんだから。」
「お、おう!」
アキバは再びテーブルに戻るため、歩を進めた。その道中、アキバは思った。
……コイツの立てた#パーフェクトなプラン__・__#、ね…。さっきの件と言い、コイツの性質上、不安しかないんだが……。
そんなことを思いつつも、アキバはまた、テーブルの前にあぐらを書いて座った。
「さ、じゃあ作戦会議よ!私の完璧な作戦に感激しなさい!」
「あ、その前に、ちょっと待った。」
アキバが手を軽く挙げた。アリスはそれを怪訝な顔で見つつも、目を閉じて
「はい、なんでしょう。アキバ君。」
と答えた。アキバが口を開く。
「そもそも、なんでこの施設がもう制圧されちゃった、って断言できるんだ?それに、もしそうだとしたらここにも敵がすぐ来ちゃうんじゃないのか?それなのになんでお前はそんなに冷静なんだよ?」
「…ああ、そういえばまだちゃんと言ってなかったわね。」
アリスは目を少し大きく開き、ああ、今思い出したわ、といいたげな呑気な顔で答えた。
「まあ、私もこの施設が制圧されたことを直接見て確認したわけじゃないわ。……でも、もうさっきのホールの騒動から大体4時間ぐらい経ってる。」
壁にかかった時計をチラッとみながら答えた。
「それがどうかしたのか?」
「DEDは請け負う任務の内容上、短期決戦に特化している部隊なの。ほら、証拠隠滅されたり組織のトップに逃げられたりしたら面倒でしょ?」
「…確かに。それで?」
「それで、事実DEDは今までに行ってきたどの作戦においても1時間以内、大きい組織でも約2時間ぐらいで敵組織の制圧を成し遂げているわ。となると、ここがいくら大きい施設といっても、4時間も経ったらもう制圧されてるでしょうね、ってこと。」
「なるほど……。そういうわけか。ん?じゃあ、なんで俺たちはまだ捕まってないんだ?」
「それはここの部屋が特別だからよ。さっきも言ったけど、ここはデスゲームの勝者の一時待機部屋。プレイヤーが安心して休めるように、ってことで監視カメラとかの類は設置していないのよ。だからDEDのメンバーはこの部屋の状況を把握することはできない。」
「つまりはこの部屋は死角になってるってことか。」
「そう。それに、私たちはさっきのデスゲームに失敗して死んだ扱いだから、そもそもこの部屋に私たちがいることすら把握されてない。だからこの部屋にいる限りは大丈夫ってわけよ。……とは言っても、このままここに籠城してたらいずれバレるだろうけど。」
「なるほどな。お前がやけに落ち着いていたのはそういうわけだったのか。……ようやくわかったよ。」
「そう。なら本題に戻るわよ。」
「ああ、脱出作戦だったか。」
「ええ。じゃ、手っ取り早く話すわよ。まず、これを見て。」
アリスは、ゴソゴソと物音を立てて体から1枚の紙を取り出してテーブルに置いた。俺はその紙を手に取って、読み上げた。
「なになに、えーと……
『アリス様考案!成功率100%の大脱出作戦‼︎』
わかりやすい!これで誰でも簡単にラクラク脱出!以下、手順
1、カードキーの入手
2、中央管理室にて、マスターカードキーの奪取
3、マスターキーで資料室14を開けて現金を奪取!
4、なんやかんやで小型船を1隻修理する
5、バレないように島から離れる(奪った現金を忘れずにネ!)
やらないといけないのはこれだけ!この手順さえ守ればバレずにラクラク脱出!さあ、自由と希望ある未来とお金を勝ち取りましょう!
……ってなにこれ?げ、現金?どういうこと?」
「あれ、言ってなかったっけ?私はここに金を盗みにきたのよ。」
「……え?」
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