ゆきみち

浜村麻里

1

真っ白に踏み固められた道路が後方へ流れていく様を、酒で鈍った五感の中静かな気持ちで眺める。

ガンガンに暖房が焚かれているタクシー内。

窓ガラスに頭部を預ければ、氷点下であろう外気との差が肌を通して認識できた。


「ご存じありませんでしたか」


意識をしないでいると、自動的にさっきまで居た飲み屋での出来事がフラッシュバックを起こすのが分かった。

目をつむり必死で意識の外へ、外へと押し出す。

しかし一度漏れ出てきてしまった記憶の波は容赦なく押し寄せ、帯状に姿を変えて喉のあたりを絞めつけてくるのを感じた。

およそ20年ぶりに出会った、当時私が助手をしていた教授の教え子の表情がみるみる内に凍る様が繰り返しちらつく。

思い出話に花を咲かせた延長だった。

ふと、当時彼女と連れ立って研究室へやってきていた友人の一人である国後という人物とは今も親交があるのか、そういった話題を振ったのだ。


「2年前に事故で」


その瞬間、私の周りだけ喧騒が遠のいた気がした。

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