第19話 昇格

 俺たちは、マスターのカフェへと帰ってきた。マスターが疲弊し切った俺たちを暖かく迎えてくれる。


「お疲れ様でした。何かあったのですか? シェスカまでそこまで疲弊するようなダンジョンではなかったと思いますが」


「悪魔族がいたの。スタンピードを起こそうとしてたみたい。私はこの後王城にいって今回のことを報告してくる。ルフレとルナはここでちょっと待ってて、ルナはマスターに様子を見てもらって」


「了解」


「なるべく早く戻ってくるね」


「ああ」


 そう言ってシェスカは王城へと歩いていった。


「ルナさんはどうかなされたのですか?」


「いや、デュラハンとの戦いで気絶してしまってな。念の為医者に診てもらおうかと思っていたんだ」


「左様ですか。ならば私が確認しましょう。ルナさんこちらへ」


「お願いするわ」


 そう言って、ルナもマスターに連れられてカフェの中へ入っていった。地下に医務室があるようでそこで診てもらえるようだった。


「なぁ、ヴィヴィこれからどうなるんだろうな」


「わからない。けどしばらく休んでもいいと思う。シェスカとルナと一度ちゃんと話をしてみることも大切」


「そうだな、まだ悪魔族の侵攻もないのなら少し休むべきかもな。短時間で色々なことがありすぎた。まだこっちにきて1週間くらいだぞ」


 そう、俺はヴィヴィと話しながらカフェへと入っていった。



 数時間後、シェスカがカフェへと帰ってきた。その頃にはルナの診察も終わり、俺とヴィヴィと3人でコーヒーを飲んでいた。


「ただいま」


「おかえり」「「おかえりなさい」」


 俺たちは、揃ってシェスカを迎え入れる。


「お疲れ様」


「うん。疲れたよー」


 シェスカは珍しくへとへとな様子だった。俺は彼女の頭を撫でる。



「……ッ!!」「「なっ!」」


 シェスカが顔を赤く染める。恥ずかしいのだろうか。流石に近衛騎士団長の頭を撫でるのはまずかったか。


「すまない。嫌だったか?」


「……んーん。いやじゃない……よ?」


「そうかよかった。とにかくお疲れ様」


「むぅ……」


 シェスカの頭を撫でていると、間にヴィヴィが入ってきた。頬を膨らませて、たいへん不満そうな顔をしている。


「私も撫でて」


 撫でて欲しかったらしい。俺はヴィヴィの頭を撫でてあげる。


「ヴィヴィもありがとうな。助かったよ」


「ん、当然」


 満足してくれたらしい。そうして俺たちは、それぞれが席へと座った。ヴィヴィはまた俺の膝の上に座る。ルナが先程からどこかソワソワしている。


「ルナ、そんなソワソワしてどうしたんだ?」


「な……なんでもないわよ!」


「お……う。そうか。ならいいんだ」


 ものすごい剣幕で言われたので思わず言葉に詰まってしまった。ほんとにどうしたんだか。明らかにいつもと違う感じだったんだが。


「じゃあ改めて、私から王城に行った結果について話させてもらうね。私たちに今日起こったこととダンジョンの仕組みのことを私の上司、この王国の王様に話てたの」


「王様!? いや、まぁ近衛騎士団長ならそうなるか」


「そしたら、王様が『よくこの国を危機から救ってくれた』ととても喜んでくれて、私たちに第二級王国勲章を授与してくれることになったの」


「「はぁ!?」」


「いきなりすぎないか? 俺たちはCランク冒険者だぞ?」


「けど私たちが危機を救ったことには違いないよ! そしたら宰相様がCランク冒険者に勲章はどうかって言い出したんだけど、王様が『じゃあ冒険者ギルドに言って、そいつらをAランクにしてやる! それなら文句ないだろう!』って」


「なんだよその王様、元気すぎだろ」


「勲章……もう意味がわからないわ」


「断れないよな?」


「そうね、失礼になっちゃう」


「ん、貰えるものは貰っといたらいい」


 大事になってしまった。まぁ確かに勲章だしな。あって困ることはないだろう。貰っておくか。


「わかった。貰っておくか」


「そうね。そうしましょうか」


「また叙勲式は1週間後らしいから、それまでに準備しなきゃね! これからどうする? まだ強化続ける?」


「その方がいいだろうな。悪魔族のより激しい侵攻が来ることを考えると、なるべく早く強化しなきゃだめだろ」


「そうね! 私は気絶しちゃったもの。もっと強くなりたいわ」


「じゃあ今後の方針としては、引き続き強化を続けていこう!」


 そうして、俺たちの今後の予定が決まったのだった。とりあえず今日はこのまま休み、これからも強化を続けていく。


「それでなんだけど。ルナとルフレってさ、同じ宿に泊まってるんだよね?」


「ああ、そうだぞ」「ええ、そうね」


「うん。決めた。私もルフレ達と同じ宿に泊まる」


 そうシェスカが突然言い出したのだった。


「「え?」」


 俺たちは揃って首を傾げる。


「あ! ほら! 別にやましいことはなくて!! ただパーティメンバーが同じ宿に泊まってた方が楽でしょ! だから別にいいんじゃないかな!? かな!?」


「そうか。まぁ落ち着けって。騎士団の仕事は大丈夫なのか?」


「うん。今はルフレ達を強くすることが私の仕事だから」


「ルナはどうだ?」


「私は別にルフレがいいならいいわ。シェスカなら私は嬉しいし」


「ルナ!」


 その声を聞いた途端、シェスカはとても嬉しそうな顔になった。ヴィヴィは先ほどから気にしないという念を送ってきているので、聞かなくても大丈夫だろう。


「じゃあいいか。これからよろしく頼む」


「うん! こちらこそよろしく!」


 こうして、シェスカも俺たちと一緒に生活することになった。その後、しばらくマスターも交えてみんなで話し、俺たちはカフェを後にした。夕暮れ時の道をパーティメンバーみんなで歩いていく。この時間帯はあちらこちらで晩御飯を食べ、お酒が入っている楽しげな声が響いている。


「私、友達と一緒に宿に泊まるの久しぶりだよ! 楽しみだな〜」


「そうなのか?」


「そうだよ! 団長になってからずっと個室だから。堅苦しくて嫌になっちゃう!」


「個室もいいじゃない」


「うーん。いいんだけど、やっぱり友達と一緒の方がワクワクしない?」


「確かにな」


 シェスカはとてもワクワクしているようだ。周りで楽しそうにしている大人達より楽しそうな感じだ。


「なー! そこのねぇちゃん! 俺たちと一緒に遊ばないか?」


 楽しくなり過ぎてしまった人もいるらしい。


「そこの、ひょろっちい男となんかよりもたの楽しませてやるよ!」

「あ! 安心しろよ! ちゃんと終わったら返してやるからよ! まあその時には俺たち無しじゃ生きていけなくなってるかもしれないけどなぁ!」


 そう、言って目の前の冒険者らしい連中は大声で笑った。久々のテンプレ展開ではあるが、遭遇したくないテンプレだったな。腹立つし。シェスカが前に出て反論しようとしたが、それを止める。こういう時は男同士で決着をつけるのが1番だ。


「おい、お前ら水ぶっかけてやろうか? 悪酔いするのも大概にしろよ?」


「なんだよ! 男になんか用はないんだよ!」

「そうだそうだ! 黙って女を渡せばいいだろうが!」


 こいつらは盗賊か何かなのか? 言動が完全に盗賊のそれだろう。もう我慢の限界だ。


「あ? ふざけんな。こいつらは俺のパーティメンバーだ。何があろうとこいつらには指一本触れさせない」


「言うじゃねえか貴様。力の差をわかって口は開くべきだぞ? そんなヒョロヒョロした体で俺たちに勝てると思ってんのか?」

「そうだ! 俺らはBランク冒険者だぞ!」


 警告らしいことを口走りながら悪酔いした冒険者達がこちらへと殴りかかってきた。おいおい、足元がフラフラじゃないか。そんなんでよくでかい態度取れたな。フラフラしている男の足を払い、倒れてきた男の溝尾みぞおにそのまま拳を入れる。


「グェ!」


 何か動物の鳴き声のような、そんな声をあげ男がその場にうずくまった。もう一人の男は、それをみて顔を青くしている。周りにはもうすでに男たちの大きな声を聞いて人が集まってきていた。


「お前はどうするんだ?」


「お……」


「お?」


「覚えてろよー!」


 そんな最後まで悪役のテンプレみたいなセリフを口走りながらまだ立っていた男がうずくまった男を引き摺りながら帰っていった。周りから数多の視線を送られ、体が縮こまってしまっている。


「兄ちゃん! すごかったな!」

「かっこよかったぞ!」

「Bランク冒険者にあそこまで啖呵を切れるとは大したもんだ!」


 周りの人たちから次々に賞賛の言葉が飛んできたが、俺はそれに手を振って答えすぐにその場を離れたのであった。


「ルフレ! ありがとう!」


「こちらこそ、何事もなくてよかったよ」


「ルフレなら当然よ! 感心するほどのことでもないわ!」


 シェスカにお礼を言われ、ルナからは少し厳しい言葉が飛んできたと思ったが。


 ルナさーん、尻尾。尻尾揺れてますよー。感情隠せてないですよー。相変わらず感情を隠せないルナに俺は苦笑いして、俺たちは宿屋へと帰っていった。

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