はじめての男①

 男が気がついた時、そこは薄ぼんやりとした光苔に満ちていた。

 ひとしきり咳き込んで起きあがれば服からざばりと水がこぼれる。ずぶ濡れで体温は奪われてその身を震わせる。

 近しい距離でごうごうと大きな音を立てて流れる水音。

 手をついた先も光苔があったせいでぐずりと崩れた苔が爪に入りこんだ。

「いき、てる?」

 男は迷宮『蒼鱗樹海』に訪れた王都の冒険者だった。

 迷宮入り口のそばを確認している最中に他の冒険者に追われていた猪に突撃され、はずみで川に落ちたのだ。水面までの距離は鳥馬を呼ぶには短すぎて間に合わない高さであり、流れに揉まれ水面に顔を出せた時には地中への入り口が見えていた。

「え? 『天水峡連』……え?」

 かろうじて無事であった荷物袋から鑑定札を出し現在位置を鑑定した男に与えられた情報である。

「あれが、迷宮の入り口?」

 男の表情はまずいものを思いがけず口にしてしまった表情である。

「普通に、死ぬだろ。あの入り口。あー、でも生きてる、のか? たぶん?」

 独り言に返る音は水の流れる音だけ。

 軽く水をつくり手を洗い、周囲を確認してから濡れた服を脱いだ。荷物袋に着替えも武器も入っていた。

「不幸中の幸いってヤツだな」

 濡れた服を槍に引っかけ、風をあてて乾かしてから荷物袋にしまう。

「よし! 周囲を確認して生存帰還ルートを見つけるぞ!」

 そう大きめな声で発言し、周囲をうかがう。

「敵性魔物はそばにいないみたいだな。安全区画か?」

 光苔で周囲はぼんやり明るくなにもない洞窟内としか理解できない。流れはひどく近い。どうやってここまで這い上がったのかも男にはわからず、表情から困惑がはがれない。



『はい。呑亀天水です。彼の名前はフレッドくんです。エリアボス蛇に頼んで放り込んでもらったいけに……ゲストです。彼が天水ちゃんの観察下でどう生き延びていけるのか、楽しく配信していこうと思います。よろしくね!』

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