幼馴染の大物俳優は何故か私に夢中

SEN

第1話 甘えたがりな天才女優

 私の名前は島本しまもと卯月うづき。これといった特徴がない普通の高校生だ。そんな私には幼馴染がいる。名前は大空おおぞら海香みか。天才子役として芸能界デビューを果たし、今現在もドラマに引っ張りだこな大物俳優。ハッキリ言って海香と私じゃ住んでる世界が違う。


「うーづきっ!」

「きゃっ、いきなり抱きつかないでよ」

「だって三日ぶりの卯月だよ?しっかりと堪能しないと」


 それなのに海香は私のことが好きすぎる。仕事でいない日は特に意味もなく連絡してくるし、いざ学校に来たらずっとついて来るし、今みたいに抱きついてくるなんて珍しくない。


「堪能って、ちょっと変態っぽくない?」

「それは卯月が魅力的すぎるのが悪い」


 理不尽な物言いをする海香に呆れてため息をつく。机の上で開かれているまっさらな日誌に目を移して、今日の授業内容を書いていく。背中に張り付いている海香が少し邪魔だけど、いつもの事だし放っておく。


「海香ちゃん、委員長困らせたらダメだよ?」

「そーそー。委員長は優しいから強くは言わないけどさ、海香の代わりにノート取ったり、勉強教えてもらったりって散々お世話になっといてまだ甘えるつもりなの?」

「うぐっ、それを言われると引き下がるしかないか……」


 海香はクラスメイトの飯島いいじま彼方かなた桃井ももい美鈴みすずに注意されて渋々私から離れた。二人はいつも私たちを気にかけてくれる友達だ。優しくて物腰柔らかなのが美鈴で、口調が雑なのが彼方だ。


 相変わらず有名人の海香に一切物怖じしない二人に感心しつつ、肩が軽くなった私はスラスラと日誌を書き進めていく。


「委員長もさ、嫌なら嫌ってちゃんと言うんだよ」

「大丈夫だよ。好きでやってることだし」

「ハッハー!相変わらず優しいねー委員長は」


 二人はニヤニヤと笑って先に帰ってしまった。海香の方をチラリと見やると、手持ち無沙汰でウロウロと教室を歩き回っていた。本当に甘えたがりの癖に甘え下手なんだから。


「抱きつきたいなら抱きつけば?」

「えっ、いやー……卯月の邪魔になっちゃうし」

「散々甘えといて今更?」

「うぐっ、なんで皆んな私の弱点ついてくるの」

「海香は分かりやすいから。それに海香は仕事で大変なんだし、友達の前でくらい甘えたい時は目一杯甘えなよ」

「……卯月って人をダメにする才能あるよね」

「え?なんて?」

「なんでもなーい」


 海香がボソッと何か呟いたのは気になったけど、ゆっくりと私の背中に乗っかった重さとじんわりと伝わる温かさでどうでも良くなってしまった。


 結局その日は、下校時間ギリギリまで日誌を書いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る