第9話 幻想のひまわり畑

 ひまわりが咲いている。


「…………」


 僕は言葉を失った。

 それは、とても幻想的な風景だったからだ。

 一面に広がる黄色い花びら。

 まるで空から降ってきた太陽のように地面に敷き詰められたそのひまわり達は、涼し気な風に乗ってゆらゆらと揺れている。

 そのひまわり達の隙間を縫うように歩いていくと、目の前に一軒の小さなお店が現れた。


「……ここか?」


 看板には『喫茶ひまわり』と書かれている。……どうやらここで間違いなさそうだ。

 カランカラン♪ 扉を開けると心地よい鈴の音が鳴る。


「いらっしゃいませ!」


 出迎えてくれたのは咲いていたひまわりのように可愛らしい娘さんだ。


「えっと、僕は客じゃなくて、こちらでアルバイトを募集してるって聞いてきたんですけど」

「あ! もしかして君がゆーくん? 店長~! ゆーくんが来たよ~!!」

「ちょっ!?」


 いきなり大声で呼ぶ彼女。すると奥の方から一人の大きな男が姿を現した。その背の高さと力強さもまさしくひまわりのようだ。


「よく来たな、ゆーくん。君が来るのを待っていたぞ」

「は……はあ」


 僕はガシッと肩を掴まれる。その隣ではさっきの少女が楽しそうに笑っている。これもまるでひまわりのように。


「さあさあ、こっちに来てくれ。みんなもう集まっているよ」

「はい……」


 言われるがままに付いて行く。そして通された部屋の中にはたくさんの人がいた。


「おお、やっと主役の登場だぜ」

「遅いぞ! ゆうすけ」

「ゆうちゃん久しぶりね!」

「ふむ、元気そうだな」


 懐かしい顔ぶれがそこにいた。そこにはかつてのクラスメイト達の姿があったのだ。


「あれ? お前らどうしてここに?」

「バイトだよ、バイト」

「私もそうなの。ゆーくんこそ何してるの? っていうかいつ帰ってきたの?」

「ついこの間だ。今は夏休みだから実家に帰ってきてるんだ。僕もバイトでここに来たんだ」

「へぇ、そうなんだぁ」


 皆は僕のことを歓迎してくれていた。この場にいるということは全員がここで働くということか。


「でも、この喫茶店にこれほどの人手が必要なのか?」

「何言ってるの? 私達の職場はここじゃないわよ」

「募集要項をちゃんと読まなかったのか?」

「え? 喫茶店に喫茶店以外の仕事があるの?」

「案内しよう」

「いってらっしゃーい」


 笑顔の娘さんに見送られて、店長に連れられてやってきたのは先ほどのひまわり畑だった。


「なるほど、これほど広いと人手がいるわ」


 そう思うと何だか見え方が変わってくるのだった。

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