第7話 夏祭りの金魚
地元の夏祭りに出掛けた。いつもは行かないんだけどたまには行ってみようという気分になったのだ。
祭りの屋台を冷やかして歩いていく。ふと金魚すくいの前で立ち止まると、屋台のおじさんが声をかけてきた。
「お嬢ちゃん、やってくかい?」
私は首を振った。
「ううん。金魚ならもううちで飼ってるから」
「そうかい? 残念だなあ。でも、一匹ぐらい増やしてもいいだろう? なんならおじさんが教えてあげようか?」
「いいです」
「遠慮しなくていいんだよ。おじさんこう見えても昔はよくやったんだぜ」
「でも……」
「金魚くらいお嬢ちゃんでも簡単に捕れるよ。どうせこんな小さな水槽じゃすぐ死んじまうしさ。一回ぐらいはサービスするよ。どうだい、試しに思い出作りでも」
私は迷っていた。せっかく来たんだから何かやって帰ろうかな。だけどお祭りにあまり興味がなかったから、何をやっていいのかよくわからない。
その時、隣にいた見ず知らずの人が言った。
「自信が無いならやめときなさい。金魚掬いを甘くみちゃいけないよ」
私より少し年上の女の子だった。高校生だろうか。ジーンズにTシャツというラフな格好をしている。ちょっとカッコイイかも……。
私は彼女の持っている巾着袋を見た。それは偶然にも金魚柄だった。そして言う。
「その赤いのだけにしておきなさい」
「え? どうして?」
「赤い奴はエースだからよ」
彼女はそれだけ言ってどこかへ歩いていった。私はきょとんとしていたけど、彼女の言葉に従って金魚を一匹だけ捕って帰ることにした。
「狙いはあいつね。よーし、そこだ、当たれ!」
「おお、そいつを捕るとはたまげたね」
「これぐらい造作も無い」
おじさんの言った通り簡単だったけどこれ以上は必要無いと思った。
会場に花火が上がり始める。綺麗な華だったけど、私には縁の無い陽キャの祭典だ。
早く家に帰ってこの金魚を水槽に入れてやろう。私は夏祭りに一つの思い出を作って会場を後にした。
家に着くと、玄関の大きな水槽にビニール袋に入れた金魚を放してやった。水面に浮かぶ水草の間をひらひらと泳ぐ金魚の赤はとても鮮やかで綺麗で何よりもスピードが速かった。
「シャ―ッて感じで泳ぐなあ、こいつ。まるで赤い彗星みたいだわ」
私はその金魚にシャアと名付けた。
「お前は赤い彗星のシャアよ」
後日、何かネタが被ってた事に気が付いた。
こんな結末もあるって事か。
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