第4話 通学路の一コマ ランドセルの少女と

 ランドセルを背負った少女が、俺とすれ違う。


「あ」


 思わず声が出た。

 少女は振り返る。

 俺は、この少女に会ったことがある。


「君は……」


 その少女の顔には見覚えがあった。

 いつどこで見たのか思い出せないけど、確かにどこかで見た顔だった。


「……こんにちは」


 少女はぺこりと頭を下げる。


「……どうも」


 俺もつられて頭を下げた。


「それじゃあ」


 そう言って少女は再び歩き出す。


「あの!」


 呼び止めると、少女はまた立ち止まってこちらを振り向いた。


「なんですか?」

「いや……えっと……」


 何か言わなければと思ったが、何を言えばいいのか分からない。

 こんな時、俺はいつも言葉に詰まってしまう。


「ごめんなさい。急いでいるので」


 少女は困っている俺を見て申し訳なさそうな顔をすると、再び歩き出した。


「待ってくれ! 君の名前は!?」


 気がつくと、そんなことを口走っていた。


「私の名前? 私は────です」


 少女は少し考えてから答える。

 だけどその名前を聞いた瞬間、なぜか頭が痛んだ。


「うっ……」


 ズキンという痛みと共に、頭の中に映像が流れる。

 それは、目の前の少女が俺に向かって笑いかけている光景だった。


『────』


 名前を呼んだところで、映像は途切れる。

 そして頭痛も治まった。


「大丈夫ですか?」


 少女が心配して駆け寄ってくる。


「ああ、うん。大丈夫だよ」


 頭を手で押さえながら答える。

 一体今のは何なんだ?


「本当に平気ですか?」

「うん、大丈夫だってば」

「そうですか……。でも無理はしない方がいいですよ」

「ありがとう。気をつけるよ」

「では、失礼しますね」


 少女は再び歩き出す。

 その背中を見ながら考える。……彼女は誰だ? なぜ知っている気がするんだろう。

 それにさっきの映像が何なのかも分からない。

 まるで夢でも見ているような気分になる。


「あーもう!」


 意味不明すぎる現象にイラついて叫ぶ。


「何なんだよこれ!!」


 誰もいない住宅街の道で一人叫んでしまった。……恥ずかしい。

 結局俺は気にしない事にして彼女とは別の道を進んでいくのだった。




 だが、後日再び出会った。


「あ」

「あ」

「こんにちは」

「どうも」


 今日もまた少女と出会う。

 場所は前回と同じ場所だ。


「最近よく会うね」

「そうですね」

「どうしてかな?」

「偶然じゃないでしょうか」

「そっかぁ」


 ……会話終了。

 正直何を話せばいいのか全く思い浮かばない。

 だけど、彼女の笑顔が柔らかかったから。

 俺も一歩を踏み出せるのではないか。そんな予感がするのだった。

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