第3話 語るえんぴつ
今私はえんぴつを使ってこれを書いている。えんぴつは長年親しんできた私の心強い相棒だ。こんな具合にすらすらと書ける道具を私は他に知らない。削りを使えばすぐにまた続きが書ける。
「今日は」の次に何を書くか、迷ったことはない。その日の出来事をそのまま書くだけだから、思いつくままでいいのだ。
だから私の日記には、その日の出来事以外には何も書かれていないことが多い。こうして毎日毎日日記を書いている。
日記帳は何冊も使っているけれど、読み返してみて自分が何を思って書いていたのか、思い出せなくなったことがある。
私は何を思ってこれを書いたのだろう?
この日記を読み返すたびに、私は自分自身について考えさせられる。
私が私の目を通して見たものを書き残すために始めたこの日記だが、書いたものが全てではない。何かの前提があって書いている以上、そこには当然物書きとしての心情が含まれているからだ。
なら、それは何なのか。私は私がこの文章を記したえんぴつに訊ねてみる。するとえんぴつはこう答える。
「私はただあなたが見たものを記しているだけです」
では、私は何を思ってこれを書いたのだろうか。私は自分の心を正しく認識できない。私の心は常にぐらついている。
その日その時、私の心に浮かんだものをただありのままに書き連ねるだけだ。そこに書かれていることは全て嘘偽りのない真実である。だが、そこに意味はあるのだろうか。
いや、意味などないのかもしれない。それはこのえんぴつの削りカスと同じである。
書くほどに現れて、溢れれば捨ててしまう。無駄な物として。
ならばなぜ、私はえんぴつを使ってこれを書こうとするのか。
私の心に浮かぶものは、いつも同じだ。そしてそれを言葉にすることは難しい。それでも、私は言葉を紡ぐことを止められない。それがたとえ不格好なものであったとしても、私はそれを記さずにはいられない。
なぜなら、それが私の本性なのだから。
私にとって、この世界はあまりにも美しく、あまりにも残酷だった。
それはこのえんぴつと同じ。消えゆく運命にあるのだ。
そのともしびを私は今もこうして綴っていく。
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