第二部 新米記者は奮闘する

第一章 アマガエルの傘

第36話 決意

「どうして……行かなきゃいけないのに」


 鶴見駅のホームの雑踏の中、一人の男がうずくまっている。


「どうしたんですか? 顔が真っ青ですよ」


 近くにいた駅員が気づき、声をかけたが、彼は首を横に振るばかりで、会話が成り立たない。両手で自分の体を抱えるようにして小さくなる男は、ベンチに誘導され、呼吸を整える。


「電車に乗らないといけないのに、足がどうしても踏み出せないんです。どうしても……」


 ようやくその一言を絞り出せば、ぼたぼたと涙を流し始める。駅員に家に帰るように説得され、結局彼は改札を出た。


 前後不覚の状態のまま、男は自宅のアパートに戻ってきていた。


「もうだめだ。もう……もう……」


 唇を噛み締め、瞼をぎゅっと閉じる。

 彼の頭には、地元の両親や友人の顔が浮かんでいた。

 都会で頑張ると言ったのに。期待してもらったのに。

 就職して一年ちょっとでこんな状態になってしまうなんて。

 情けなくて、でも苦しくて。現実から逃げたくて。


 彼は、ついに決意を固めてしまった。


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