転生したのは原始の異世界
青
序章
第1話 転生 三つのスキルに一つの呪い
「ようこそ、転生の間へ、あなたはお亡くなりになりましたので、ここにいます」
「・・・ん?」
俺は、死んだのか。目の前の見たこともない美女を見て、夢か、はたまた死後の世界か、非現実的な状況だということは、寝起き(または生まれたて?)の状態でも理解できた。
「あなたの次の人生は、次の選択肢から選べます」
「・・・はい」
「このまま、前世の状態を引継ぎ、スキルひとつで荒廃した異世界へ行く。もうひとつは、前世の状態をランダムで80%消去して、三つのスキルと一つの呪いを得て、未成熟な異世界に行く」
「後者でお願いします」
ピカッと俺の体が光った。
「決断が早くて助かります。どうぞ、スキルと呪いを確認してください。転生前に説明いたしましょう」
「ありがとうございます、ええっと、どのようにすれば確認ができますか」
「私は、魔女ラウラ、対象に触れ、声に出すか、心の中で私の名を呼べば、状態を確認することができるようにしましょう」
「女神様ではなくて、魔女様でしたか。ラウラ」
▼【魔女鑑定】――――――――――――
名前:ななし
年齢:リセット状態
種族:ヒト
レベル:0
パッシブスキル:【水弾】【短剣】
アクティブスキル;【魔女鑑定】
呪い:【心声解放】
魔女のギフト:【回収手帳】
◆スキル詳細 パッシブスキル
【水弾】:スキルレベル1(最大5)
ウォータバレットと呼ばれる水の弾丸を飛ばす。飛距離、威力はスキルレベル×レベルに比例する
【短剣】:スキルレベル1(最大5)
刃渡り1cmから50cmまでの刃を使用時有効。威力と射程はスキルレベル×レベルに比例する。
◆スキル詳細:アクティブスキル
【ラウラ鑑定】手を触れ「ラウラ」と呼びかけることで、状態を確認できる。
◆呪い詳細:パッシブ
【心声解放】パッシブスキル
心の声が、60%の頻度で声に出る。
「1/2以上の確率で駄々洩れか!あ、声に出た」魔女様に笑われた。「可愛い笑顔の魔女様だな」というか、駄々洩れじゃないか。
◆魔女のギフト
【回収手帳】便利な手帳、魔女ラウラの加護がついている。
異世界を生き抜くための貴重な情報が満載。命の次に大事。
「うわ、ありがたいな、これ」
「見ることができました。魔女ラウラ様、教えてくださってありがとうございます」
「どういたしまして。次の異世界に行ったときに、もう一度、私の名を呼びなさい。あなたの名前、年齢を確認するといいでしょう」
「わかりました。魔女様に、また会えますか?」
「いいえ、私は転生の間にのみ生きる魔女。二度と会うことはありません」
「そうですか、とても残念です」
「それでは、次の良き人生を」
◇
次の瞬間に、景色が一変した。
情報量が多いのも困るが、全く情報がないのも困る。まず、やることは、状態の確認。
「ラウラ」
▼【魔女鑑定】――――――――――――
名前:アレックス・フォン・ツヴァイ
年齢:17歳
種族:ヒト種 成人
レベル:10
パッシブスキル:【水弾Ⅱ】【短剣Ⅱ】
アクティブスキル;【魔女鑑定】
呪い:【心声解放】
魔女のギフト:【回収手帳】
――――――――――――
まずは冷静になろう。名前に見覚えがない。貴族っぽい名前だ。前世で読んだラノベにあったな、平民は名字がないとか。前世の事は一度、忘れよう。今と、これからの事の事が、大切だ。
前世の名無しだった記憶20%が、アレックスの体に吸収されたような感覚があった。
つまり名無しが、別人アレックスに乗り移った。
でも、かつての自我が、アレックスの自我を認識しない、ということは、魔女様の云う未熟な異世界の成人男性アレックスの体に、名無しの魂が定着した。
と、結論づけよう。
アレックス・フォン・ツヴァイ(17歳男子)として俺は、この世界で生きて行かなければならない。
よし。
自分の両手を見る、目に見えないところは手で触って確かめる。
頭、短髪だ。
顔、耳、鼻、口はあるな。以前より、堀が深い?
手首・・・腕輪か?
何かの金属製のタグ・プレートだろうか、後で考えよう。
上着、といういか肌着、チクチクするな、麻と綿の合成だろうか長袖Tシャツっぽい、素材の分からない皮のベストを羽織っている。防刃仕様?
パンツは履いている。ズボンは皮製かな、裏地は布っぽい、ベルトに短剣があり鞘に入っている。
右手に取って、視てみる。
刃渡り35㎝くらいか、なんだか長く感じるな。手首を上下に動かす、ブラブラすると重さを感じる。見た目まだ新しい感じもする。よく切れそうだ。
靴下は、ずり落ちた感じがするが履いている。
靴は茶色の作業靴っぽいな。
ズボンは革製、ポケットがある。右側に銀貨が5枚。左側は白銅貨かな8枚。
あとは、靴下と靴の間に違和感がある。右の靴から金貨2枚。左の靴から大銀貨かな、ポケットの奴より大きい、これが3枚。貨幣価値について考えるのは後回しだ。
ひとまずは、人間として、この異世界に、不時着成功、ということを喜ぶべきだな。
「ようこそ、自分、よろしく、アレックス」
◇
周囲を360度、見渡す。
ここは、谷底か?
立ちあがってみた。
自分の足元が真っ赤だ。致死量だ、これは。自分の血だろうか。すでに、乾いている。
体を再度、触ってみる、肌着をめくる。ベストを脱いで裏表を見てみる。血の跡はない。
魔女様効果で、全快したのかな。そういうことにしておこう。
自分で滑落したのか、誰かに投げ落とされたのかはわからない。
右も左も切立つ崖、正面には、遠くに山が見え、谷底が続く。後ろは山が見える。太陽は、真上よりやや前方にある。
次にすべきことはなにか。スキルの確認か、手帳を見るか。もしも動物や魔獣がいたとしたら危ないので、スキルを確認しよう。
短剣を握る、振る、刺す、斬り下ろす。逆手に持ち同じ動作を繰り返した。
スキルのお陰なのか、使い方を体が理解している。伊達にレベル10ということか。スキルレベルはⅡのお陰なのかな。強制的に自分を納得させ、思考を前に進める。
続いて【水弾】
バシュ!
うわ!驚いた。というよりも、テンションが上がった?
生まれて初めてスキルを観たような衝撃だ。もう一度。
【水弾】
バシュ!
水の弾丸だな。20m近く飛んでいる。スキル2×レベル10ということか?
小動物くらいは倒せそうな気がする。【鑑定】で体力とか魔力とかが無かった。何発撃てるかは、安全地帯を確保してから検証しよう。
自称、魔法使いと云っていいのではないだろうか、魔女様の弟子として。
あとは、【回収手帳】
あれ?
物理的な、『手帳』というものがないな。
手帳とは何か、ということは理解している、これは前世の記憶だ。ガワが黒い合皮で中身は洋紙をイメージしたが、未熟な異世界に、物理的に存在しているわけがない。
ということは、魔女【鑑定】から見るのかな。
心の中で魔女の名を呼んで、回収手帳の項目を選ぶイメージを作った。
魔女のギフト:【回収手帳】
未熟な異世界へようこそ、この手帳はあなたが生きていく上で大事なヒントと情報を、魔女が気まぐれにあなたへ提供します。一度、読むとその情報は、あなた自身にインストールされます。いつでもリロードすることが可能です。
次回からは、私の名と顔をイメージすれば手帳を呼び出せるように自動化しておきます。私の加護がある限り、名と顔を忘れることはあり得ません。心細い時は私を思い出して自分を慰めてくださいね(物理でも可)
・・・理解した。何度でも逝けそうですよ、ラウラ様。名を呼ぶたびに【鑑定】画面が開く、目をつぶっても瞼の裏に開くぞ、これ。
自分を慰めるときには魔女様とお呼びします。
少しだけ、魔女様とのつながりを、何よりも嬉しく感じた。すでに平常心だ。
異世界モノにありがちな、自己設定を決めておくか。
まずこのツヴァイ家。
僕が貴族で、まともな状態なら捜索願がでているか、または家族に狙われていたなら名乗らない方がよい。そもそも両親も兄弟も姉妹も全く思い出せない。しばらくの間、家名は名乗らないことにしよう。
次に、ここに倒れている理由。
魔獣にやられたか、人にやられたか。
魔獣であるなら、冒険者ギルドのようなものがあるのだろうか。死亡届が出ているか、この手首の腕輪を頼りに探るしかないな。ソロだったのか、パーティを組んでいたのかさえ記憶にない。一から生き抜くためには、見知らぬ街で情報を探す方が、好都合かも知れない。手首に同じ腕輪をつけている人を見つければ聞くことにしよう。
体が軽く感じるということは、前世ではもっと年齢が上だったのだろうか、記憶が80%欠落している。まあ、前世の記憶はおまけ程度にしておいた方がいい。なにせ異世界。常識を知ることから始めようか。
◇
右の崖を登り切った。道を探した。落とされたと仮定した場合、近くに道があるはずだ。僕は人間に落とされた、と前提に生きぬくことにした。
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