三題噺

房宗 兵征

第1話『夢の中』 『煎餅』 『求める』

#創作

#お題

#三題噺

結果


1つ目は『夢の中』

2つ目は『煎餅』

3つ目は『求める』



爺ちゃんがいつも言ってたんだ。

勉強なんてできなくてもいいんや、だけど『煎餅』の食感だけは忘れてはいけないよ。

優しかった爺ちゃんはおやつをくれるたびに俺に微笑んでいた。

もう『夢の中』でしか会えない存在に悔しさと寂しさが入り混じる・・・・・・


「バタン!」

物音に目が覚めた。

寒さ感じる11月の中旬、覆う掛け布団に丸まって温かみをかみしめる。

壁掛け時計を見ると、時刻は6時半過ぎ、おそらく母が台所で調理中なのだろう。

狭い家故に、自分の部屋はなく居間に布団を敷いて家族全員で寝ている。

硝子戸の隙間から甘い匂いが侵入し、朝一の食事がはっきりと分かった。

俺は自分の布団を片付けると洗面所へ向かったのだった。



「それじゃあいただきます!」

家族そろって食事にありつく。

準備した母。出社するためにスーツを着用している父。

アパレルショップ店員の姉と大学生の兄。

皆がちゃぶ台に置かれた山盛りの餅に雑煮をすすりながら手を伸ばす。

父は醤油で味付けし、母と姉は流行りという事できな粉をまぶして食べている。

兄は手に取った餅を雑煮に入れ、餡子の甘さをかみしめる様に食べるのだった。

俺は湯気の立つ白い餅をそっと海苔でまいて、冷たい醤油につけるて食べる、

これがたまらなくおいしいと思うのだが、みんなは違うようだ。

味の好みはそれぞれなんだろうと思っているうちに、山盛りだった餅はあっという間になくなった。



そして残った雑煮を飲み干す寸前、今朝の夢の話をなんとなしに母に聞いてみた。

「なぁ、母さん『煎餅』って何?」

その瞬間、居間の全員が動きを止め、冷たい空気が流れた。

姉はアイコンタクトで兄に訴えかけたが首を振って応え、父は咳払いで空気を濁す。

母は平静を装い、食べ終わった皿に手をかけようとするがその手は震えていた。

「な、なんだいそれ?変な名前だねぇ」

早口で応えるとそそくさと台所へ逃げてしまった。そして合わせるようにして他の皆も居間から出ていくのだった。

『夢の中』で聞いた言葉に俺自身も確証はなかった。

しかし、家族の反応からして何かあることは察した俺は、『煎餅』のことがより気になってしまった。


『煎餅』とは?じいちゃんが言ってた食感とは?

俺はその日から『煎餅』の存在を『求める』ようになったのだ。










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