教会を追放された元聖女の私、果実飴を作っていたのに、なぜかイケメン騎士様が溺愛してきます!
海空里和
第1話 王都で人気の果実飴屋
「エレノア殿、迎えに来ました」
「は?」
賑わう王都の城下町。
最近、美味しいと話題で行列になっているこの果実飴屋は、エレノアの務め先だ。
店頭で行列を捌き、果実飴を手売りしていたエレノアは、順番待ちをしていた次の人に驚いた。
この場には似つかわしくない、騎士姿の背の高い男性。
甘い物が好きな男性はいる。実際、この店のお客様の中には男性だっている。しかし、女性客が多いのには変わりない。
この男性は、この騎士は、栗色の短い髪の毛に空色の瞳、逞しい体躯、凛々しく整った顔立ちはイケメンと言っても良い。
その証拠に、前後並んでいる女性たちが、先程から彼をチラチラと見ながら、きゃあきゃあと騒いでいた。
(そんなイケメン騎士様が、何だって?)
エレノアはそんなイケメン騎士に懐疑的な目を向けた。
(『私を迎えに来た』と言った。もしや、教会の差金?今更?)
疑問を抱えつつ、エレノアは営業スマイルで返す。
「ご注文をどうぞ」
「え、いや、は……」
「一番人気はいちごですね。季節限定の味は、オレンジです」
飴を買いに来たのでは無いとわかりつつも、狼狽する騎士にエレノアは
「ええと、ではいちごで…」
「ありがとうございまーす!」
エレノアは圧倒された騎士に有無を言わせず、お会計を促す。
(このまま帰っていただきましょう)
「あのっ……」
「イートスペースはあちらにございます。次の方、お待たせいたしました」
人の良さそうなイケメン騎士は、まだ何か言いたげにしていたが、エレノアは聞く耳を持たず。
(行列はまだまだ続いている。お客様をお待たせするわけにはいかないのよ)
次のお客様に向き直ったエレノアに、騎士はそれ以上何も言えず、とぼとぼとイートスペースに向かった。
店の前に屋台のようにせり出たこの果実飴屋のすぐ隣には、座って食べていけるように、ベンチやテーブルセットが置いてある。
持ち帰る人もいれば、食べていく人もいて、様々。
エレノアは再び、行列を捌き始めた。
気になって、イートスペースに向かった騎士をちらりと見れば、彼は大人しくベンチに座っていちご飴を食べていた。
(イケメン騎士様といちご飴………。何ともミスマッチね)
騎士はバツが悪そうに飴をかじると、曇った表情を輝かせた。
(そうでしょう、そうでしょう、美味しいでしょう)
騎士のわかりやすい表情から、エレノアは心の中でドヤ顔をする。
この果実飴は、果実の甘さを活かすために、飴に拘り、極限まで薄くしてある。
パリッ、じゅわっ、がこの果実飴の売りだ。
この美味しさに、今や王都中が夢中だった。
(真面目そうな逞しい体躯の騎士様が、いちご飴……)
その騎士の可愛らしさに、エレノアは仕事中にも関わらず、笑い出してしまいそうだった。
一人、ベンチで果実飴を食べていた騎士は、気付ばご令嬢たちに囲まれていた。
(まあ、イケメンだったもんね)
そうこうするうちに、忙しさに忙殺されたエレノアは、騎士の方を見なくなった。
「お疲れ様」
果実飴が完売した頃、夕日が差し掛かっていた。
店の中から女将が出てきて、エレノアに労いの言葉をかける。
「今日も全部完売したね」
「はい!」
「エレノアが来てくれてから、この果実店は息を吹き返したよ。ありがとうね」
「いえ、こちらこそ、身元不明な私なんかを住み込みで置いてくれて感謝しています」
エレノアが女将に深々と頭を下げると、ポンポン、と彼女は頭を撫でた。
(優しい女将さんのおかげで、私は今生きていられる)
エレノアは、教会で働く聖女だった。
ある日を境に、聖女の奇跡の力が弱まり、昨年の冬の終わりに教会を追い出された。
元々孤児院出身だったエレノアは、帰る場所も行く宛も無く、彷徨って行き倒れていた所を助けてくれたのが、この果実店の女将だった。
果実店の経営が苦しいながらも、エレノアを置いてくれ、雇ってくれた女将にエレノアは感謝をしていた。
そんな彼女に恩返しがしたくて、エレノアが思いついたのが、果実飴だった。
エレノアが子供の頃に一度見たことがあった、果実を飴で加工したもの。
その時、飴がもっと薄かったら、果実が活かされて美味しいのになあ、とエレノアは思っていたのだ。
この果実店の果実は美味しい。その美味しさを宣伝するために、エレノアは女将に果実飴を提案した。
女将はすぐに提案に乗ってくれて、美味しい飴を研究を重ねて二人で作り上げた。
力が弱まっているものの、エレノアは聖女の奇跡で飴を極限まで薄くすることが出来た。
女将には聖女だったことは話しておらず、少しだけ魔法が使える、ということにしてある。
かくして、ルアーナ王国で物珍しい果実飴は、あっという間に話題を呼び、その美味しさから人気店になった。
それに乗じて、果実そのものも売れるようになり、果実飴は週に4日、個数限定で販売している。
その限定さが更に人気に拍車をかけていた。
教会にいた頃は、馬車馬のように働いていたエレノア。
(今は、穏やかで幸せな日常。私はこの暮らしを気に入っている)
教会から追い出された頃は、絶望しかなかったエレノアだが、今は追い出されて良かったと思っていた。
(しかし、国の騎士様が、私に何の用かしら?)
今更、教会に戻れと言われても嫌だ。冗談じゃない、とエレノアは思った。
イートスペースを見れば、騎士はいなくなっていた。
数人のお客様が楽しそうに果実飴を食べている。日は傾きつつも、まだ明るい。
(もう、来ないよね……?)
片付けを終えたエレノアは、そんな心配を残しつつ、その日を終えた。
☆.。.:*・゚☆.。.:*・゚☆.。.:*・゚☆.。.:*・゚☆.。.
お読みいただきましてありがとうございます!
こちらの作品はカクヨムコン8に参加しております。最終話まで毎日更新していきますので(執筆済)、気になる方は作品をフォローしていただけると嬉しいです!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます