天の川に負けそうだ。

@HeybonP

第1話

「あれが、天の川で」


街明かりを消してくれる山のこちら側。

大きく腕を伸ばして、一生懸命に指をさすのが君だ。


「あれが北斗七星」


どうだ、参ったか。そんな表情だ。

うん、参った。困らせたくなる。


「すごい。すごいよ…じゃあ獅子座はどれ?」

「…獅子座…」


睨まれた。

そっと目をそらす。

夜の風が白い息をさらっていく。


「あー! せっかく、いい感じにひけらかせていたのにな! 知識を!」


それはきっと、胸を張った後に選ぶ言葉ではないんだ。


「調べることが多くて楽しいじゃない」

「他人事だと思ってるね。さては」


うん。


「これだから、君は」


そうだね。これだから僕は。


「ねえ、あそこ」


天の川を指さしてみる。


「いくつ星があると思う?」

「え、ええ…天の川でしょ…ぱっと見て1万はあるよね…1億…?」

「惜しい」

「ほんと!?」


「2000から4000億だって」

「すごい!! そして何も惜しくない!」


君が大きく腕を伸ばす。右と左と。


「こっから、この先も! 何千億!!」


子供みたいだ。

今見えてるどの星より、年端もいかないから子供ではあるか。


それで言うなら僕も同じことだ。


『恋をしたんだ』


君がよこした深夜2時のLINE。


『おめでとう』


の一言に、込めた気持ちは明るくない。

3秒後に君がくれた、天の川の画像と比べるとよっぽど、明るくなかった。


「ねえ!」


はっとする。


思わず、もう一度天の川を指さす。

何も考えてなかった。


ワクワクしている君の顔。


「天の川…なんでそういう名前なんだと思う?」


しばしのシンキングタイム。そして君は満足げに答えを選んだ。


「川みたいにきれいだから!」


うん。


「正解」


たぶんね。


「やった!」


困ったな。君の気持ちがわかった気がする。

天の川には、しばらく負けそうだ。

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