もう学力で差別するの辞めません?

ちびまるフォイ

みんな同じでみんないい

「あなたのお子様は非常に賢いです。

 テストでいつも満点。IQテストも高い。

 ぜひ、人類の学力を引っ張っていく指導者になってもらえませんか?」


「まあ先生、本当ですか! 私の息子も誇らしく思っています! そうよね!?」

「え……し、指導者……?」


「それはよかった。それじゃこっちに来なさい。その装置に座って。そうそう」


頭に帽子のようなカップをかぶされてスイッチを入れられる。

ほんの数秒バチッと音がしただけで機械は終了した。


「ありがとう。これで君の学力が全人類に配られたよ」


「え? え……?」


「たかし。あなたの学力がみーんなに行き渡って、同じくらい勉強できるようになったのよ」


「ありがとう。君が人類の学力を率いる指導者だ」


「はあ……」


その次のテストは、みんなひとしく満点を取った。


学力が並列化されたことで、もはや学力を測る「テスト」は廃止された。

不登校の不良が満点を取るのだから意味はない。


学歴も意味がなくなり、しれつな受験戦争や受験勉強から解放された。


そんな状況であっても唯一勉強しなくちゃいけない人類はただひとり残された。


「たかし、頑張って勉強するのよ。

 あなたの学力がみんなの基礎学力になるんだからね」


「う、うん……頑張るよ」


「たかしが指導者になってお母さん嬉しいわ。

 あ、それじゃテレビ番組の取材と女性誌のインタビューが控えてるから。

 ご飯は適当に注文してね。しばらく家に帰れないから」


1日のうちの半分以上は学習机に向かって勉強をしている。

たまにテレビを付けると母親が誇らしげに映っていた。


『指導者となったお子様にはどういった教育をしていたんですか?』


『いいえ特別なことはなにもしてませんよ。おほほほほほ』


『お子様が指導者になった今のお気持ちは?』


『これまであった学歴での無意味な差別がなくせたこと、

 そして同じ水準の学力を得たことで皆様にチャンスが与えられたこと

 指導者の母としてとても誇らしいですわ!』


『なんて素晴らしい! スタジオのみなさん拍手を!』


テレビを消してまた勉強に向かった。


学校は職業体験と学生恋愛のマッチング施設になって、

年がら年中夏休みのようなバカンスが続いて誰もがハッピーだった。


ただひとり勉強することを強いられた人間以外は。


「はぁ……疲れたな。なんか買ってこよう」


食べ飽きた出前から逃げるように近くのコンビニへ歩いていった。

駐車場にはガラの悪そうな集団が座っていた。


そんな見てくれでも学力が並列化されたので、自分と同じくらい頭いい。


「おい、なにこのコンビニ勝手に入ろうとしてんだよ」


「え? いや……」


「このコンビニはうちの族の専用コンビニなんだよ。

 使うときゃ挨拶料おいてってもらわないと」


「そんなこと聞いたことない……」


「ああ? 今いったべや!」


「なんで……」

「あ?」



「なんでお前らみたいに毎日なんの努力もしない人間に、

 僕が学力を提供しなくちゃいけないんだ! 不公平だ!!」


「なに言ってんだてめぇ」



「お前らばかり楽して生きやがって!!

 僕の勉強の才能にすがる寄生虫じゃないか!

 お前らなんか、だらしない生活で勝手に人生失敗しろ!」


「んだとコラ! おい! みんなやっちまえ!!」


囲まれる前に乗ってきた自転車をかっ飛ばして逃げた。


家につくと荒い息の飼い主を心配した犬がすり寄る。


「キューーン……?」


「よしよし。なんでもないよ……。僕の味方はお前だけだよ」


「わんわん!」


「僕はきっとこれから先も人類のために勉強するロボットとして、

 人並みの幸せも得られないまま勉強だけしていくんだろうな……」


「くーーん」


「……お前ならこの辛さ、わかってくれるかい?」


「わんわん」


「お前も、お前みたいに気楽に生きていきたいよ……」



数日後。


まだまだインタビューのスケジュールがあるはずの母親が、血相をかえて家に帰ってきた。


「たかし! 毎日の学力並列化がされてないってどういうこと!?

 なんでサボってるの!? そんな子に育てた覚えはないわ!?」


リビングを探しても見つからない。

母親は2階にある子供部屋へと向かった。


「たかし! どこに隠れてるの!? いい加減にしなさい!!」


子供部屋にあがると、学力の並列化装置に息子が座っていた。


「たかし……なんだいるじゃないの。どうして返事しないのよ」


「……?」


「まあでもこの装置に座ってるってことは、

 これからたかしの学力をみんな同じにするところだったのよね。

 お母さん安心したわ。てっきりストライキでもしてたのかと……」


「……くーーん?」


「とにかく、もうこんな子供じみた嫌がらせは辞めてね。

 お母さん仕事場で大恥かいたんだから。

 さあ、はやく並列化しましょう。勉強してない人間は時間とともに馬鹿になるから」


母親がためらいなくスイッチを押した。




その瞬間、飼い犬の学力をコピーした「たかし」の学力が全人類へ平等に上書きされた。


「わんわん!」

「あおーーん!」

「きゅーーん……」



人間は四足歩行ではしゃぎ回るようになり、

もうだれも並列化装置をいじることはできなくなった。

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