第30話 愛の先

結婚式から二週間経った頃、裏の丘道にある草原で、楽しそうな話声がこだましていた。

「よし、できた!」

「おぉ。楓兄様、上手です!」

楓のそばでグレイスが目を輝かせ、出来たばかりの花冠を見つめている。

「グレイスのおかげだよ。ディアナ様、喜んでくれるかな?」

「大丈夫です!きっと喜んでくれます」

微笑む楓に、グレイスは胸の前でガッツポーズをする。

楓はふふっと笑いグレイスの頭を撫でると、グレイスは照れながら、撫でてもらった頭を触った。

「今日はグレイスも一緒にディアナ様に会ってくれるんだよね?」

「はい!お供します!」

グレイスが元気に返事をする。ディアナ様と言うのはロイドの母親の名前だ。

楓は結婚式が終わった翌日から、時間を作っては毎日の様に墓石に挨拶に行っていた。

今日はグレイスと会う約束をしていたので、一緒に墓石の近くにある草原でグレイスから花冠の作り方を習っていた。墓石に添えたかったからだ。

「じゃあ、手を繋いでいこう」

楓の提案にグレイスは顔を赤らめ、モジモジしながら呟く。

「兄様に怒られます」

「ロイドが?どうして?」

話を聞けば、以前、楓に花で作ったリングを渡した後、ロイドに注意されたとのこと。呆れた顔で話を聞く楓。

しょんぼりと俯くグレイスの顔を覗き込みながら、楓はニコッと笑う。

「大丈夫だよ。グレイスは何も悪くない。あのリング、とても嬉しかったよ。だから、大事に小瓶に入れて飾っているんだ」

楓の言葉に、グレイスは嬉しそうに顔を上げる。

そんなグレイスの頭を撫でながら、またニコッと笑い少し低めの声でボソッと呟く。

「ロイドには後で注意しておくから」

少し怒り交じりの楓の声に、グレイスがあたふたする。

グレイスの様子をふふっと笑いながら、楓は立ち上がり、手を伸ばしてグレイスの手を取る

「行こう。グレイス」

半ば強引に手を繋ぎながら、歩き出す。

グレイスは恥ずかしそうに手を引かれながら楓の後を歩き始めた。

草原の奥に向かって歩いていると、後ろから楓とグレイスを呼ぶ声が聞こえた。

振り返ると、こちらに笑顔で駆け寄ってくるロイドの姿が見えた。

だが、途中まではニコニコしていたロイドが、2人の手元を見て顔を引き攣らせる。

「何故、手を繋いでいる?」

ロイドの言葉に、慌ててグレイスが手を振り解こうとするが、楓はぎゅっと握り直し離さない。

「かわいい弟と手を繋いで何がいけないの?」

「それは・・いや、楓に触れていいのは俺だけだ!」

「それは僕が決めます」

2人のやり取りに、不安そうに固まるグレイス。

そんな姿を見兼ねて楓は大丈夫だよと笑顔で囁く。

そして、ロイドを睨みながら話し始めた。

「ねぇ、ロイド。僕、兄弟らしい兄弟がいなかったから、こんなに可愛くてかっこいい弟ができて、本当に嬉しいの」

グレイスはその言葉に目を輝かせて楓を見つめる。

ロイドは何も言えず、ただただ楓を見つめた。

「グレイスも大事な家族でしょ?それに、グレイスはまだ子供だよ?いい?これから僕達の仲を悪くするような事を言わないでくれる?」

「いや、そんなつもりは・・・」

珍しく本気で怒った素振りをする楓に、ロイドはたじろぐ。さらに、ロイドを睨みつけたまま楓は言葉を続ける。

「大好きな家族だから、手も繋ぐし、頭も撫でる。嬉しい時や悲しい時は抱きしめてやりたいの」

「だきっ、いや、抱き締めるのは許可できない」

「す・る・の!グレイスは本当にいい子なんだよ。それはロイドも知っているでしょ?勉強も稽古もすごく頑張っているし、何より僕にすごく良くしてくれる。僕はそれが本当に嬉しいんだ。僕の兄達は話すらしてくれなかったから」

少し寂そうに楓が呟く。

「楓・・・」

ロイドの言葉を遮るように、グレイスは楓の手を両手で包み、潤んだ目で楓を見つめる。

「楓兄様!俺も楓兄様と家族になれて本当に嬉しいです。俺も楓兄様に沢山喜んで貰いたし、何かあった時は力になります!」

「ありがとう、グレイス。ふふっ、グレイスはロイドに似て泣き虫さんだ」

楓はそう言ってグレイスを抱きしめた。それを見ていたロイドは固まる。

先ほどから、楓を慰めようと出た手が宙に舞ったままだ。

「さあ、みんなでディアナ様に会いに行こう」

固まったままのロイドを横目に、グレイスの手を引いて楓はまた歩き始める。

ロイドは2人の跡を追いかけながらも、ブツブツと話し始めた。

「楓、俺とは手を繋いでくれないのか?」

「花冠を持っているので無理です」

「なっ・・じゃあ、グレイス、俺に譲れ」

「兄様は大人なので我慢してください」

楓の真似をして、ロイドに冷たく言い放つグレイス。

「俺は、楓の夫でこの国の王なのに、なんだ、この邪険な扱いは・・」

拗ねた態度でブツブツ言いながら付いてくるロイドの姿に、2人は笑いながら歩く。

「ほら、ロイド。帰りはつなぐから、早く行こう」

振り返えりながら楓は微笑む。幸せそうに笑う楓の姿が嬉しくてロイドも笑みを返しながら楓の元へ駆け寄った。

三人で挨拶を済ませた帰り道は、約束通りロイドと手を繋ぎ、もう一つの手でグレイスと手を繋いで歩いた。

幸せそうに歩く三人の姿は、瞬く間に城中の噂になった。

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