7.魔力とスキル

 エルフの血を受け継ぐハーフエルフは迫害を受けており、売られるか捕まえられる運命にあるという。

 だが解せぬことがある。

 

「なぜワシは売られなんだのだろうの。ワシの父はお世辞にも人格者ではない。家族であろうと金になるなら売り飛ばすようなクズだったがの。それが迫害されるハーフエルフならばなおのことだ」


「それは、言いにくいのですがおそらくカンベーさんのエルフの血が薄かったからでしょう。ちょうどいいですから、魔力量と属性を調べてみましょうか」


「よくわからんがたのむ」


 属性、というのは神殿で調べてワシにはなかったものだの。

 魔力量というのはエルフがそれのおかげで寿命がないと申しておったものの多寡を計るということであろう。

 エルフの血が濃ければこの魔力量が多く、寿命も長いということだろうの。


「この水晶玉に手を置いてください」


 ミモザが取り出したのは人の頭ほどもある巨大な水晶の玉だ。

 このような素晴らしい玉は初めて見た。

 一切の曇りのない透明な玉など、どのような職人が作ればできあがるというのか。

 まさかこれがこのまま土の中から出てくるわけではあるまいて。


「これは、素手で触ってもよいのか?」


「高価な宝石じゃないんですから……」


「宝石ではない?どう見ても宝石であろう」


「いえ、これは魔法で形を整えたただのガラスですよ。下の台座は高価な魔道具ですがね」


「硝子?これが……」


 殿の持っておる硝子の杯を見せてもらったことがあるが、このように透きとおってはおらなんだぞ。

 魔法というのはすごいものだ。

 おそらくあの手から火やら水やら出すやつのことだろう。

 術でこのような美しい硝子を作り出すこともできるとは、ワシに使えんのが悔しくてたまらん。

 ワシはわかっていながらも、属性というのが突如として芽生えておることを少しだけ期待して透明な玉に手を乗せた。

 すると玉はぼんやりと光り、中に複雑な紋様が浮かび上がる。

 

「おお、なんと面妖な……」


「え、これは……」


「なんだ、ワシに属性でも芽生えておったのか?」


「いえ、属性はありませんでしたが魔力量がとても多いですね。たぶんエルフ並みです」


「だが、その属性というのがないと手から火や水は出せんのだろう?」


「ですね。魔法は使えません。ですが、寿命はおそらく人間よりもかなり長いか、下手したら不老かもしれません」


 寿命か。

 人間50年は下天の一日。

 嘘か真か、本能寺に死した信長公の辞世の歌は敦盛の一説だったという。

 きっと人間の一生などは天上から見たら瞬きの間であると言いたかったに違いない。

 果たして下界の寿命などにどれほどの意味があるというのか。

 一度死んだワシのような人間は考えが刹那的になっていかんな。

 信長公も100年や200年も生きられるなら生きたかったに違いない。

 ならばワシは与えられた生を全うするだけよ。

 なに、殿のおるだろう極楽浄土ではその程度ほんのわずかな間にすぎぬ。

 今日死ぬも1000年生きるもそれほど変わりはなかろうて。


「それで、なぜワシは売られんかっらのかの」


「えーと、おそらく属性がなくて魔力量が少ないためだと思ったのですがね。ハーフエルフは魔力が弱ければ非常に非力ですから、奴隷としての価値は一段も二段も下がります。でもカンベーさんの魔力量は多かったですね。すみません、ちょっとわかりません」


「魔力量が急に増えたりはせんのか?」


「うーん、生死の境を彷徨って死の淵から戻ってきたりするとたまに魔力量が増えることもあるみたいですけど……」


 おそらくそれだの。

 ワシの記憶が蘇る前のこの身体の記憶が曖昧であったが、もしかしたら死にかけておったのかもしれぬ。

 目が覚めたとき酷い頭痛がしておったし、限界まで腹も減っておった。

 腹が減った状態というのは意外に怖いからの。

 身体が冷えやすいので外で眠ると子供ならば死ぬ可能性もある。

 そのときの臨死体験がきっかけでワシの記憶が目覚めたのやもしれぬ。

 もしくは考えたくはないが、もうこの身体の元の持ち主は死んでおるのかもしれん。

 輪廻転生かと思っておったが、あまりにワシがワシすぎる。

 元の身体の持ち主の人格というものが自分の中に感じられん。

 元の身体の持ち主は死に、彷徨っておったワシの魂がなにかの偶然で入り込んでしまったと考えたほうが自然だ。

 この身体は一度死にかけ、ワシは一度死んでおる。

 合計2度の死の淵を味わっておるのだ。

 魔力量がエルフ並みに上がってもおかしくはあるまい。


「この魔力量は私の胸の内に秘めておきます。貴族にばれたら捕まってしまいますから」


「職分に反することをさせてすまぬな」


「いえ、私の仕事で誰かが不幸になるのは嫌ですから」


 よきおなごだ。

 ワシが元服を迎えた一人前の男であったら婚姻を申し込んでおったな。

 気立ては優しく器量もよい。

 嫁にするならこんな女がよい。

 ニニギを笑えぬな。


「登録を進めさせていただきます」


「頼む」


「あとは、えーと、スキルですかね」


「すきる?なんぞ」


「スキル知らないんですか?」


「知らん」


「えーと、説明できるかな。神様がくれた力というか、技というか。実際に見たほうが早いかもしれませんね。ちょっと私から離れて目を足元に向けてくれますか?絶対に私を直視してはダメですよ?」


「わかった」


 ワシは言われたとおりミモザから少し遠ざかり足元を見る。

 これから何が始まるというのか。


「いきます。スキル【発光】!」


「のわっ」


 突如としてミモザの身体が光を放ち始める。

 その光は日輪の光のように眩しく、直視しておらんのに目が焼けるようだ。

 とてもではないが目を開けておれん。

 なんという力だ。

 これが神の与えたもうた力、スキル。

 ワシにもこんなすごい力があるのだろうか。

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