4:27

リュウタ

4:27

 最初に感じたのは、湿っぽい匂いと身体を貫く秋風。

 右手には最新型のスマートフォンと、そこから流れる流行りのJ-POPが、白線を通して耳へ伝わる。

 身に纏うは、これまた流行り外套。そのコートを靡かせ、季節風に身を凍らせながら歩く下道の白線。うっかり足を滑らせて死なないように、手を伸ばしバランスを取っている。

 眼前に見えるは薄暗い道と、その道を微かに照らす街灯と信号。残りは灯りのない民家と漠然と思い浮かぶ不安。

「誰か殺してくれ」

 行き場も宛先もない不安が襲ってくるので、ぽつりと救難信号が漏れる。勿論、誰の顔も思い浮かばない。

 そうしてまた白線に集中する。まるでブラックホールに吸い込まれるように、陽気な音楽と自分に課したルールに集中する。

 外套に手を入れる。その中には427円の所持金。飛んだ端金である。これが王手、詰みであったか。

 白線に反射された灯りは赤であった。見上げてみると、やはり信号機は赤を照らしていた。どうやら現実世界でも手詰まり、いや足詰まりか。


 突然。眩い白い光が視界を占領する。なんだ、と思案巡らせること数秒、車のライトだと気がつく。そうしてその車、信号を無視して私へと吸い込まれてゆく。

 端に避けようも、時すでに遅し。

 飛ぶ体、貫くは秋風ではなく衝撃。最期の匂いは鮮血であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

4:27 リュウタ @Ryuta_0107

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る