オマケアフターその5 公園お悩み相談(前編)
「夜まで出かける?」
こんな朝っぱらから出かけて夜まで?
そりゃまた珍しいな。
「はい。久々に映画を見たり食事をしたりしようという話しになりまして……母と私達で」
「先にあたしとおねーちゃんで買い物行ってからその後でママと待ち合わせなんだよね。誠おにーさんも一緒にいこーよ?」
「それは名案です、是非そうしましょう」
「え、やだ」
「なんで即答なの!?」
そりゃお前、察してくれというかなんというか。
「親子水入らず? とかいうアレだろ。俺が行くなんて野暮だって」
「そんなことないと思いますよ。母だって誠一郎君に会いたがっていましたし」
「そーだよぉ~。誠おにーさん、何気にまだママの顔もみたことないじゃん」
まぁね。分かるよ?
二人の母親からしたら、俺のことが色々な意味で気になるだろうことは。
年頃の娘を二人も預けている家の家主を知っておきたいのは当然だろうしな。
しかしだからこそ会いたくねぇのだ。
「いいから、それはまたの機会に取っておいて楽しんでこいって」
「ぶ~……今回もダメかぁ」
「……確かに、機会はまたあるでしょうし。誠一郎君に取って良いと思えるタイミングの時がいいかもですね」
そういうことにしておいてもらおう。
今回もダメっていうか、果たして実際に機会とやらが訪れるのがいつになるのかは不明だが。
だって、なぁ。
ちょっと前も同じ様なことで考えの沼にハマっていたが――一体どんな関係性の人間として、どんな顔で彼女らの母親に会えばいいのか?
俺には未だに分からないのだから。
二人が出かけた後、華恋が淹れていってくれたお茶など飲みつつリビングでぼ~っとしていた。
が、何もしないでいると先ほどの悩み? が頭の中でぐるぐると回りやがるのだ。
いやまぁ悩みというほど深刻に捉えてるわけでもないのだが、いつまでも彼女らの母親と会わずに逃げ回っているわけにもいかないというのも事実。
どっかのタイミングで会って挨拶はしないといけない。
んで、当然聞かれるであろう『結局、ウチの娘とはどういった関係で?』みたいな質問になんと答えるのか? という話しだ。
『雇用主です』と答えることも出来るが、それが逃げであることくらいは自覚がある。
「う~ん……はぁ。俺も散歩にでも行くかなぁ」
静かな家の中に一人でいると無駄に色々考えてしまうので、外に出ることにした。
早朝というには既に遅く、昼時というにはまだ早い時間帯。
ということで、道では俺と同じように散歩をしている老夫婦や自転車で走っている子供などと偶にすれ違う。
特に目的地的なモノがないので、なんとなく足が自然と近所にある大きめな公園へと向いていた。
こうして散歩をしていて分かったが、なるほど確かに公園という公共の存在はわりかしありがたいものなんだなぁ。
なんとなくうろついてもいい、なんとなくこうしてベンチに座ってぼ~っとしてても許される。
華恋とエリカが一緒にいないとなるとなかなか一人でどこかに行って何かをしようとならない自分にとっては、手軽な気分転換の場所になり得るかもしれない。
「って、どんだけ俺は華恋とエリカの影響に馴染んでるんだ」
思わずぼやいてしまった。
気分転換のために外に出たのに、結局ぼ~っとしているのも二人のこと考えてるのも変わらないじゃないか。
「はぁ~――あ?」
ベンチでため息をついていたら、丁度目の前を通った人が目の前ですっころんだ。
「あ、あいたた……」
それほど派手に転んだわけではないが、足首あたりを痛そうにさする――女の、子?
いまいち年齢が外見からはよく分からん。
背が低いのもあるが、顔つきが多分かなり童顔なのだろう。
服装や雰囲気からいって実際には女の子というより女の人と呼ぶべき年齢なのだと思うのだが、確信が持てない。
っと、そんなことより大丈夫なのか?
「大丈夫っすか。立てます?」
「あ、すみません。ちょっとよそ見をしていたら転んじゃって」
「取りあえず、そこのベンチに座りますか?」
「はいぃ」
女性の手を取って、ゆっくりと立ち上がって歩き出す。
彼女をベンチに座らせた後、靴を脱いでもらって足首の様子を見てみた。
特に赤くなったり熱を持ったりしている様子はない。
多分だけど重症ってことはないのだろう。
とはいえ素人判断は良くないな。
近くの病院に連れて行くのがベターだろうか?
「あの、良ければこのまま近所の整形外科とかに行きますか? 歩けないようであれば背負って移動できますし、なんならタクシー呼んでも」
「あ、いえいえ。凄く痛いわけじゃないですし、ちょっと休めば大丈夫だと思いますからぁ」
「そうですか? なら良かったっすけど」
ふむ。
本人がそう言うんであれば問題ないか。
「ありがとうございましたぁ。本当に」
「いえ、別に」
特に何かしたわけじゃないしな。
「じゃあ俺はこれで」
このまま隣に座るのも何なので公園を後にしようと歩きだ――そうとしたら、服の裾を捕まれていた。
え? なんぞ?
「あ、あの?」
「お礼にジュース、飲みませんか?」
「はぃ?」
「ジュース、飲みましょ?」
「いや、えっと」
「ジュース、飲みますよね?」
「……は、はぁ」
なぜだかよく分からんうちに頷いていた。
もしかしたらなのだが、俺はこの手の押しが強い女に弱いのかもしれない。
――将来色々な意味で気をつけよう。
結局ベンチに戻って座り直すことになった。
しかも隣にはちょこんと座る女の人。二人の手にはジュースの缶。
結局断り切れずに自販機で奢られてしまったのだ。
「いやぁ、本当に助かりました。今時の若い子はとても親切なんですねぇ」
あんた一体いくつなんだ?
とは思ったが、そんなことを初対面の女性に聞くのがNGなのはいくら俺でも分かる。
「いや全然、っていうか本当に何もしてないのにジュースなんて奢ってもらってよかったんですかね……」
「いいんですよぉ。痛みが引くまで休んでいる間、話し相手が欲しかっただけですからねぇ」
そっちの理由が本命かよ。
いやまぁ別にいいんだけどさ。用事があったわけでもないし。
「それで、その話す内容のことですけどぉ」
「はぃ?」
「少年は、今何かお悩みですよねぇ?」
「……はぃ?」
え? 何? 今俺ってば心読まれたりした?
この人、超能力者かなんか?
「え、えと」
「こんな時間帯にこんな場所のベンチで一人座っている少年の表情を見たら、特に超能力とかなくても分かると思いますよぉ? 割と誰でも」
いや、やっぱり半分くらい心読まれてないっ?
あるいはこの人がやたら洞察力が鋭いとかなのだろうか。
「折角ですので、私で良ければ聞きますよぉ? つまりあれです、お悩み相談です。人生の先輩からの、こっちがお礼の本命というやつですねぇ」
えぇ……。
なんで見ず知らずの他人に悩み相談なんぞせにゃならんのか。
つっても、こうして二人で座ってしまってる以上は無下にもできないしなぁ。
なんか適当なこといって誤魔化しておけばいいか。
「あー、そのですねぇ」
「はいはぃ~」
「俺が何について考えていたかといいますと」
「はぃ、遠慮なくどうぞー?」
――くっ。
横からニコニコとした表情で軽く覗き込むようにしてくる視線が、なんというか、妙に耐えがたい。
これは、あれだ。
華恋の天然とエリカの魔性を足して二で割ったみたいな感じの圧力をこの女性から感じる気がする。
そういや、この人も大分美形ではあるかもしれない。あれ? ってことはやっぱり俺が美人に弱いだけなのだろうか? いやいや、そんなことは……。
「どうかしましたか?」
「えっ? いえ別に。ん~っと、悩みという程のことではないんですけど、ちょっと同居人との関係性について考えてたつーかですね」
「ほぅほぅ、同居人ですかぁ」
決して美人に弱いわけではないが、この人の視線はどうにも対処に困る感じなので素直に話してしまうことにするか。
ま、どーせ他人が聞いてもどうにもならんような話しだしな。
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