学校一の美少女姉妹の借金を返したら一人暮らしの俺の家に押しかけられた「って恩返しとかいいから帰ってください」「駄目です」「嫌で~す☆」

佐城 明

プロローグ

 人間には相応の分というやつがあるらしい。

 この狭い狭い高校の一クラスの中にも当然それは存在している。


 では俺の『分』はというと、コミュ力なしやる気なし学力も特になし、ないない尽くしでストップ安。完全に教室の中でも浮いている類いだろう。


 特に女子などに言わせれば『加々美君ってちょっと雰囲気怖いし、暗めだよね』らしいし。いや、本人に聞こえるところで言うなよとは思うが。

 まぁ正直俺自身も人付き合いに苦手意識があるし、周りの人間なんてどうでもいいとは思っているから正当な評価だとは思うけどもな。


 それに比べて――。


「神代さん。この後私らカラオケ行くんだけど、一緒にいかない? なんとっ、あの近藤君も来るってよ!」

「近藤さん、ですか。えっと、誰でしょう?」

「えぇえ!? サッカー部の近藤君だってば! もうウチの女子は皆知ってるっしょ!?」

「そ、そうなんですか? えと、どっちにしろ無理ですねぇ。帰って家のことしなくちゃなので。遅くなってしまうと妹も待たせてしまいますし」

「またそれぇ~? 私ら高校生なんだからさぁ、偶にはいいじゃん、家のことなんて。つか、ほんとは近藤君も神代さんが来るなら行く、って言ってるんだよぉ?」

「すみません、またの機会にとお伝えください」

「う~。そっかぁ。やっぱ高嶺の花の高嶺ちゃんだもんねぇ。今回もダメかぁ」

「い、いえ、私はそんな大層な者では……」


 ――あんな感じで、大層人気過ぎて大変そうなヤツもいる。


 絵に描いたような美少女だろうと、そいつの内面までは中々分からない。

 神代華恋かみしろかれんという少女が何故いつも家路を急ぐのか? たった一人の例外を除いてクラスの誰も知らないのだ。


「ほんと、人間関係ってのは面倒なもんだな」


 小さな独り言とため息をついてから、教室を後にした。




 訳あって学校から家に直帰しない習慣が最近は身についているので、今日も適当にぶらついてから帰る。


 すると、途中で知っている顔に出くわした。

 モデルみたいな見た目をした美少女が、路上で男に絡まれている。


「だーかーら~、あたしは忙しいのっ。早く帰って晩ご飯の準備をしないとなのっ。遅くなったらおねーちゃんが心配するのっ」

「いいじゃんそんなの、ちょっとだけだからさ」


 ついさっき学校でも見たような光景だ。あっちでは誘ってたの女子だったけども。


 世の美少女は皆同じような苦労をしているんだろうか? などと、なんだかもう半ば呆れた気持でその光景を眺めていたら、少女が俺に気が付いた。


「あっ、おにー――じゃなくて。こほんっ。やっと来たな~、待ってたんだから!」


 少女はこちらに駆け寄ってくると、勢いよく腕を絡めてくる。


「ちょッ、おいっ」

「この人、あたしの彼氏だから! ごめんね~ばいばーい」


 絡めた腕をそのままに、強引にその場を立ち去る少女。

 男の方は突然の展開についていけずに文字通り置いてけぼりである。


「いやー、助かっちゃった。すんごいナイスタイミングだったね? 流石あたしの彼氏!」

「誰が彼氏だ。いいから早く腕を放せ」

「やーだー。折角だからこのまま帰る~」

「お前なぁ……」


 殆どの男がすれ違う度に振り返らずにはいられないような容姿の美少女に、何故か彼氏扱いされて引っ付かれている。

 内心、嬉しいことは嬉しいのだが――それ以上に心臓によくない。色々な意味で。


「いいじゃんいいじゃん。どーせもう家まですぐなんだからさ」


 確かに彼女の言うとおりで自宅まで大した距離はない。

 誰かにこの状態を目撃されないことを祈りつつ、早歩きに家へと急いだ。


「たっだいまぁ~」


 自宅のドアを開けると元気よく少女が声を上げる。

 呼応するように、リビングからまた別の少女が顔を覗かせた。


「おかえりなさい、エリカ。誠一郎せいいちろう君」

「うん。ただいま、おねーちゃん」


 出迎えたのはクラスで同級生の誘いを断っていた美少女、神代華恋。

 俺の腕を未だに離さない美少女は、その妹の神代エリカ。


「……その状態で帰ってきたんですか? 二人で?」

「そ! 途中でナンパ野郎に絡まれちゃってさぁ。せいおにーさんのお陰で助かっちゃった」

「なるほど。また、誠一郎君に助けて貰ったということですね」

「いや、俺はただ通りすがっただけだぞ?」

「またまた~。あたしが困ってたら結局は助けに入ったでしょー? 誠おにーさんならさ」


 そりゃまぁ、同居人が本当にピンチなら助けにはいくけども。

 どちらかというとあの時はただ呆れて見ていただけなんだけどなぁ。


「その、誠一郎君」


 エリカに捕まれてないほうの腕の裾を、華恋がちょいとつまんだ。


「私がもしナンパとかされた時も、彼氏の役をお願いしても大丈夫でしょうか?」


 全然大丈夫じゃないです。

 と、俺が答える前にエリカがグッとサムズアップして。


「勿論! 誠おにーちゃんならおねーちゃんの彼氏にばっちりだよ!」


 などと勝手に答えた。おいまてコラ。


「そうですか。えっと、ではその時は、是非」


 ぐ……。

 こんな顔の奴にこんな表情でこんなこと言われたら、凡人の俺には断ることなど困難極まる。


 なぜ、こんなことに――?

 なぜ、玄関先で美少女二人に両腕を捕まえられているのか?

 なぜ、そもそもこんな姉妹が俺の家に住み込んでいるのか?


 まぁ一言で言ってしまえば、人生というギャンブルで大勝ちをかましたからなのだ。


 ……ある意味、大負けなのかもしれないけど。

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