百花繚乱 雷帝の後宮革命 〜イケメン女子高生は、後宮で冷酷無慈悲な雷帝の恋敵(ライバル)になる!?〜
美浪
プロローグ
目の前には黒ずくめの小柄な男が立っている。足首の辺りまであるマントについた黒い大きめのフードを額が全て隠れるほど深く被り、目には鬱陶しい前髪がかかっていて、かなり陰気な雰囲気だ。
その男の髪は見た目年齢にそぐわない白髪だった。垂れ目の下にはうっすらクマが見える。
「お願いします! 私を助けると思って! ノルマを達成出来ないと私は職を失ってしまうんですよ!」
そんなことは知るか! と類は思った。
ほんの数分前。類は自室で寛いでいた。すると突然目の前にこの男が現れ、類に向かってとんでもないことを言い放った。
「あなたは三日後に死にます。少し早いですが、天上界へ連れて行きます」
と。
突然現れたこの奇妙な格好をした男は、自身を「死神」だと言った。何もない空間から突然現れた瞬間を目撃してしまった類は、この男が普通の人間であるとは考えていなかった。
しかし三日後に死ぬと言われ、納得出来るかと言うとそれは別の話だ。さらに死ぬ前にどこかへ連れて行かれるとは、一体どういうことだと類はじとっと死神と名乗る男を見る。
「三日後に死ぬことを千歩譲って受け入れたとして、なんで死ぬ前に連れて行かれるわけ?」
類は当然の疑問をぶつけてみる。聞かれた男は落ち着きなく目線を動かすと、説明を始める。
「じ、実は····天上界を今や支配していると言っても過言ではない雷帝が、上玉を連れて来いと仰って、冥界にもお達しがあったのです。しかし今冥界には目ぼしい人材がおらず····。そこで三日後に死ぬあなたに目をつけた、というわけです」
何が「というわけ」だ。まだ死んでもいないのに生身の人間を連れて行こうというのか。類は飲み込みが早い方だが、さすがにこの話には納得いかない。
「答えになってない。何で急ぐのかって聞いてんの」
「それは、雷帝は気が短いので期限を決められているからです」
「何様だよ····。人の命を何だと思ってるんだ。····ちなみに私は何が原因で死ぬの?」
陰気な雰囲気だが意外とハッキリと物を言うその男に類は質問してみる。すると男はどこからかノートのようなものを取り出し、パラパラとページをめくる。
「あー····交通事故ですね。一緒に歩いていた女子高生を守るためにあなたは死にます」
類は自身の死に方を聞くのには違和感があったが、何となくその内容には納得する。
(それは何とも私らしい死に方だなぁ)
遠い目をするように、類は自身について考える。
他は男ばかりの四人きょうだいの二番目として生まれた類は、物心ついたくらいの頃からモテまくっていた。それも女に。
整った顔立ちに、今や175センチの女にしては高い身長、日本人離れした頭身を持つ類は、身も心もれっきとした女なのだが、周囲の期待に応えるようにイケメンとして振る舞ってきた。街を歩く度に芸能事務所にスカウトされ、一般人にモデルか何かと勘違いされて写真撮影やサインをお願いされるのはもはや日常だ。芸能人よりもプライベートがないのではないかという毎日。
中学の頃までは、男友達が多かった。しかし高校生になり、謎の色気が増し周囲の女子をことごとく惚れさせるようになってからというもの、男友達は徐々に去っていった。
容姿端麗に加えて成績優秀、スポーツ万能の類は、自宅以外では意図せず常に女子をゾロゾロと引き連れて歩いている。何も言っていないのに、勝手についてくるのだ。『るい様をお守りする会』といういわゆる親衛隊だ。中学の頃にも同じようなものがあったが、高校に上がりよりパワーアップした。
私服登校OKの高校へ通う時も、類は期待を裏切らないよう男装してしまう。今さら自分が女の格好をしても受け入れられないだろうと思うからだ。もはや女装するようなものだとさえ思う。何より周りがそれを許さないだろう。
女子高生を守って死ぬ、というのは取り巻きの一人をまたイケメンに助けて車にでも轢かれるのだろう。
類はハッと嘲るように半目で短く息を吐いた。
「で? 行ってくれますよね!?」
死神の男はそんな類の顔を覗き込むように言った。
ふと思いついた。交通事故で死ぬのなら、もしかするとこの男について行けば、死なずに済むのではないか? と。
窮屈な毎日を送る類だがさすがに死ぬのはごめんだ。しかしそれには解消しておかねばならない疑問があった。
「あのさ、ちょっと聞きたいんだけど、あんたに付いていく時魂かなんかを抜かれて行くわけ?」
「来てくれるということですね!?」
「質問に答えろよ!」
「ああ。安心してください。本来は魂のみを連れて行くのですが、あなたはまだ死んでいないのでそれは出来ません。異例中の異例ですが、そのまま行っていただくことになります」
何が『安心してください』なのか、と思うが類にとっては好都合だ。そしてもう一つ確認しておかなくてはならないことがある。
「天上とやらに行ったらもう戻って来れることはないの?」
男はうーんと唸るように顎に手をやり答えた。
「方法がないわけではないですが····そんなことは滅多に聞きません。人間界で言う49日を過ぎると完全に不可能になりますね」
「その方法って?」
「あなたは冥界の門ではなく天上界の門を通ることになりますが、その門から49日以内に出れば戻れます。まあそれはほぼ不可能ですけどね」
「なんで?」
「なんでって····普通門を出られたとしても肉体は残っていませんし、あなたの場合その問題はないにしても死神と一緒に出ないといけません。そんなことをすれば私はクビなので絶対にさせません」
類は目の前の死神をじっと見る。コイツであればちょっと脅せばいけそうな気がするが、自身の職の維持のために生きたままの人間を連れ去ろうとするアブナイやつであることも事実。案外頑なかもしれない。
「一人では出られないの?」
「出られません。まず門が開きません」
「誰だったら開けるの?」
「死神、もしくは天上の神ですね。雷国の雷帝を始め各国にいる皇帝です」
類は先程聞いた話を思い出す。上玉を探しているという雷帝というやつに頼み込めば、門を開けてもらえるかもしれないと考える。
「雷帝ってどんなやつ?」
類がそう言うやいなや、死神の顔面は蒼白になる。
「雷帝は恐ろしいお方ですよ。気に入らない者はすぐに粛清しますし、強大な力を持ち誰も逆らえません。もはや冥界の王は雷帝の下僕と化しています。水国、炎国などの他国の皇帝も雷帝を恐れています。実質天上界の支配者ですよ」
類は天上界のことなど知りもしないが、そんな恐ろしいやつなら頼み込むのは無理か、と思う。そして他の死を回避する方法について考える。
「死因をさっき聞いたけど、もし私がその日家を出なければ、死を回避出来るってこと?」
「それは勘弁してください。もし死因を聞いたことで人間がその死を回避してしまった場合、死神は処罰されます。なのでもし今一緒に行ってくれなかった場合、あなたには三日後に必ず死んでいただきます。どんな手を使ってでも」
フフフッと死神は不気味な声を出して笑う。コイツはやっぱりアブナイやつだ、と類は確信し青ざめた。
ということは、今死神と一緒に天上とやらに行って、雷帝というやつに取り入り死を回避するしか方法はないと類は理解する。
「分かった、一緒に行く」
短くそう言った。死神は喜んで、黒い影を出し類もろとも影に溶けていった。
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