第18話 アネキの友達

「うぇぇぇぇぇぇ湊斗ぉぉぉ!! お姉ちゃん寂しかったぞぉぉぉぉぉぉ……!!」

「ちょ、おいアネキくっ付くなって……って酒クサっ!! どんだけ飲んだんだよ!?」


 抱き着いてきたアネキから放たれるとてつもない酒の匂いに、思わずむせ返りそうになる。


「おーおー、お帰り湊斗っち」

「やはー。お邪魔してまーす」


 すると、そんな俺の声に反応するように、奥から現れた女二人。

 瀬尾藍楽せおあいら間宮戸羽まみやとわ――アネキの友達だ。


「挨拶なんてどーでもいいから、この酔っぱらいを引きがすの手伝ってくれ!!」

「うぇーヤダよ。ようやく解放されたのに」

「そーそー。昨日えまから連絡があって、今の今まで戸羽たちがえまの世話してたんだぞー。次は湊斗の番だー」

「てめぇら一緒に酒飲んでただけだろうが!!」


 藍楽と戸羽の顔は見るからに赤く、手にはス〇ロングゼロの缶を持っていた。

 

「うっぷ……」

「ん!? おいアネキどうした!!」

「やっばい……出そう」


『出そう』、その言葉がなにを示すのか、俺の脳は一瞬で理解する。


「待て、待て待て待て!! せめて俺から離れてくれ!!」

「うぅ……お姉ちゃんと一緒に汚れてぇ湊斗ォ……」

「絶対ヤーです!! 俺を巻き込むなバカアネキ!!」

「そんな酷いこと言わないでぇ……うぅ、もう限界ぃぃ」

「お、落ち着け!! 頼む、マジでヤメてくれ!!」

「オロロロロロロロロロ」

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??」


 次の瞬間、俺の断末魔は家中に響き渡った。



「はぁ……」


 服と床のゲロ掃除が終わり、ひと段落着いた俺はリビングのソファにドカッと音を立てて座った。


「んぅ……湊斗ぉ……」


 そして、ゲロを吐き出しやがった当の本人であるアネキは、床で気持ち良さそうに寝息を立てている。


「お疲れー」

「イヤぁ大変だったねー」


 呑気な声で、藍楽と戸羽が俺の両脇に座った。


「まー、すぐ寝てくれたのは助かった。前回は一晩中相手したからな」


 基本的にめんどくさい性格のアネキだが、さらに厄介なのは嫌なことがあると酒を飲んで最悪な酔い方をすることだ。


 今まで何度もソレで被害に遭ったことか。

 これまでの悲劇が嫌でも脳みそをよきった。


「つまりまり、えまっちが寝るまで酒を飲ませた私らのおかげ……ってこと!?」

「そーゆうことになるねぇ!」

「まぁそのとおりなんだけど納得できねぇなぁ!」


 うぇーい! と手に持ってたス○ゼロの缶で乾杯する藍楽と戸羽に、俺はたまらず声を上げる。


「とりま飲もうぜ湊斗っちー」

「そーそー。ヤなことは全部コイツでトバすに限るよ」


 二人は俺の肩に手を置いて、そっとス◯ゼロの缶を差し出してきた。


「いらねぇよ。つか高校生に酒飲ませようとすんじゃねぇ」

「うぇー、ツレねぇなぁ」

「私たち頑張ったんだよー? 付き合ってくれてもいいじゃーん」


 藍楽と戸羽は不満そうに頬を膨らませる。


「二人も限界だろ。泊まってっていいからもう寝ろって」


 アネキよりは回ってないとはいえ、二人もかなり酔っている。

 面倒になる前にさっさと寝てほしい。ゲームがしたいんだ俺は。


「ふっふっふっ! じゃあ私らを眠らせてみるがいいさ、コイツでなぁ!!」


 そう言って、藍楽はどこからともなくトランプを取り出した。

 それがなにを示すのか、俺は知っている。


「ほう、俺とやるってのか? 『脱衣ポーカー』を……!!」


 脱衣ポーカー。

 着ている服を賭けチップとして使い、負けた方は勝った方に賭けた分の服を渡さなければならない。

 そうやってゲームを進めていき、最終的にチップが無くなる――つまり全裸になった方が負け。勝った方は負けた方になんでも命令できるという地獄みたいなゲームである。


「どうする? 怖いならやめてもいいぜ湊斗っち」

「尻尾巻いて逃げ出すかー?」


 謎のポーズを決めながら俺を煽る酔っ払い二人。

 

「ンだとぉ!? 逃げるワケねぇだろうが!! てめぇら素っ裸にして、おねんねさせてやるぜ!!」

「そーこなくっちゃなぁ湊斗っち! んじゃあ私が勝ったら今度メシおごってー」

「おぉいいぜ!!」

「私が勝ったら全身タイツで近くのコンビニにアイス買いに行ってきてー」

「おぉいいぜ……ってちょっと待て戸羽!? なんか今ヤベェこと言わなかったか!?」

「さぁ、ゲームスタートだぜー!!」

「ディーラー兼任すんのは私ねー」

「ちぃ!! 始まっちまった!! まぁいい……勝てばいいんだ勝てばぁ!!」


 こうして始まった脱衣ポーカー。

 結果は……。


「ちくしょぉぉぉぉぉ!!」


 俺の華麗な全裸で幕を閉じた。


「ぎゃはははは、湊斗っち弱すぎ―!!」

「ドストレート負け過ぎて笑うわー」

「クソ……!! 酒で表情が崩れてたからてめぇらの手が読めなかった!!」

「いや私らが酒飲んでなくても今までの勝負大体負けてっけどね湊斗っち」

「ふっ、ギャンブルってのは勝った記憶を大事に、負けた記憶はさっさと忘れ去るもんだぜ藍楽」

「全裸で言ってんの最高に滑稽すぎる」

「ちょ!? おい撮んな戸羽!!」

「ははー、また湊斗のオモシロ写真コレクションが増えた。素材提供感謝」


 パシャパシャとスマホで俺の全裸を撮りニヤニヤと笑う戸羽。

 俺はただ恨みを込めて睨みつけることしかできなかった。

 

「てめぇら、覚えてろよぉ……。ぜってぇリベンジかましてやっからなぁ!!」


 記憶は消しても、悔しさは消してはならない。

 それがギャンブルに対する最も大事な心意気だ。


「リベンジお待ちしてるよー……罰ゲームちゃーんと消化してからなぁ」

「え……」

「私のメシおごるはまた今度でいいからー、とりあえず戸羽っちの……ちゃーんとやろうなー?」

「はい、これ」

「……」


 戸羽から渡されたソレを受け取った俺は、自嘲気味に笑うと、天を仰いだ。



 考えてみりゃあ、藍楽と戸羽も星名たちと似たようなタイプだな。同じギャルだし。


 コンビニに向かう道中、夜風に当たりながら俺はふとそう思った。


 ……いや、藍楽と戸羽は普段理不尽なこと言わねぇし命令もしてこねぇ。なによりアネキとつるんでくれてる良い奴らだ。多少のことは全ッ然許す。


 やっぱ問題は学校でずっと俺をコキ使って学校生活をメチャクチャにしやがる星名と根上アイツらだ。このままじゃ俺が過労死する!!

 身代わりが見つかんねぇとかヒヨってる場合じゃねぇ!! 意地でも見つけてやる……!!


 改めてそう決心すると、そのタイミングでコンビニに到着した。


「いらっしゃいま……きゃあああああ!?」

「店員さん叫びたい気持ちは分かる! だが信じてほしい! 俺は決して変質者じゃない! ただアイスを買いに来ただけなんだ……!」


 コンビニに響き渡る店員の絶叫。

 全身ピンク色のタイツ姿の俺は必死に弁明した。



◇◇◇

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