第5話 放課後みんなで遊ぼう

 自らを犠牲として払い、なんとか佐鳥と遊ぶ約束を取り付けることに成功。


 その日の放課後、俺は佐鳥たちと東京の街中を歩いていた。

 

「んでさー、どこ行くん?」


 邪魔者Aの才川がそんなことを聞いてくる。

 彼女の疑問はもっともで、俺たちはとりあえずと言った風にさまざまな商業施設がある通りを、あてもなく歩いていた。


「特段決まってないな。とりあえずここら辺ならなんでもあるから適当にぶらついてるけど。束橋、案はあるか?」

「え、俺?」

「あぁ。今回の主催はお前だからな」

「あ、そうか」


 佐鳥の言葉に納得した俺は、ここで深く思案することを余儀なくされた。

 

 楽しくない、テンションが上がらないような場所は論外、そしてただ一緒に遊ぶだけでは、どれだけ上手くいっても『仲良し』止まり。

 考えてみればこのどこで遊ぶかという選択は、非常に重要な意味を持っている。


 ど、どうする。普通に服とかカフェのあるショッピングモールか? それかカラオケ、ボーリング……。

 くっ、どれも選択としては悪くないが、一気に距離を縮めて恋愛感情を抱かせるのは多分ムズい気がする。


 なにか、なにか無いか……!!


 脳をフル回転させながら、辺りを見渡す。そして、


 はっ!! あ、アレだ!!


 俺は見つけた。おあつらえ向きな場所を。


「じゃあ、あそこだな」


 そうして、俺は少し先にある施設を指した。


「『ラウンダーワン』か。あそこなら色々あるし、いいんじゃないか?」


『ラウンダーワン』。

 バスケやサッカー、ダーツにビリヤード、さらにはカラオケやゲームセンター、様々な娯楽を体験できるレジャー施設だ。


 ただショッピングモールで服を見たりカフェでお茶をするよりも、身体を動かして一緒に遊ぶ方が距離は縮まる。

 頭の中で候補にあったカラオケやボーリングなんかもあり、色々と融通が利くのも良い。

 

 ――そしてなにより、俺が意図的に距離を縮めさせるようにできるのも魅力的だった。


「さんせー!」

「うん。良いと思う」


 遊ぶにはうってつけと考えたのだろう。

 才川と咲宮も、佐鳥の後に続くように賛同を示した。


「お、お二人もいいですか?」


 次いで、俺は恐る恐るギャル二人に問い掛ける。


「あー、うん。いんじゃね」

「いいー」


 う、なんかどうでも良さげだな二人共。

 いや、俺が勝手に企画したのに巻き込んだだけだし仕方ないけど。


 スマホを見ながら興味なさげに答える星名と根上に俺の中で若干の不安がよぎる。


 ま、まぁいい!! そんな態度を取っていられるの今のうちだ!!

 この俺が、てめぇらのどっちかを佐鳥に惚れさせてやる!! 覚悟しやがれ……

!!


 そう気を持ち直し、意気込む。

 ともかく全員の了承を得たことで、目的地はラウンダーワンへ決定。

 俺たちは早速向かうことになった。



 ラウンダーワンへと到着し、受付を済ませた俺たち。


「さて、それじゃあ最初はどこから行くか」


 そこへ間髪入れず、佐鳥がそう尋ねてきた。

 

 来た!!

 

 待っていたその言葉に乗り掛かるように、俺は口を開く。


「えーと、そうだなー(棒)。とりあえず力を合わせてやるみたいなのがいいんじゃないかー?(棒) ほら、親睦を深める意味でもさー(棒)」

「なるほど。たしかにそうだな」


 俺の完璧な演技による誘導にまんまとハマった佐鳥は納得の表情を見せる。


「ってワケでぇ! 俺はバスケがいいと思う!」


 バスケをカッコ良くプレーする男は女子ウケがいい。それは古今東西昔からの常識だ。


 スポーツ万能な佐鳥ならかなりカッコいいプレーが見せられるはず。これで星名たちへの好感度を稼がせる!!

 そして、俺はあえて下手くそにダサいプレーをする!! そうすることで佐鳥のカッコよさをさらに強調しつつ俺の好感度も下げる!! 完璧な作戦だぜ!!


 周りにバレないようニヤリと俺は笑う。


「バスケか。丁度三対三でいけるけど、チーム分けはどうする?」


 はいその言葉も待ってましたぁ!!


 どんどん俺の望む言葉を吐き出してくれる佐鳥に、俺は思わず口が緩みそうになるのを堪えながら語る。


「俺と佐鳥が別のチームにして、あとは適当に決めればいいだろ」

「ま、そうだな。皆もそれでいいか?」


 俺の言葉に納得した佐鳥は、確認するように皆を見る。


「オッケー!」

「うん。私も賛成」

「あー」

「おけ~」


 約二名圧倒的にどうでも良さげな返事が気になるが、これで三対三のバスケをすることが決まった。


「よ、よーし! それじゃあ残りのチームメンバーはこれで!」


 チーム俺

 ・俺(束橋湊斗)

 ・才川茜

 ・咲宮雫


 チーム佐鳥

 ・佐鳥翔真

 ・星名千聖

 ・根上琴葉


「さ、レッツバスケ!」

「ちょーっと待ったミナト」

「え?」


 そこに待ったを掛けたのは、先程まで全くやる気を感じられなかった星名だった。


「な、なんですか星名さん?」

「どーしてミナトがチーム勝手に決めてんだよ」

「そ、それは……」


 ちぃっ!! 流れでイケるかと思ったら余計なトコに突っ込んで来やがった!!


 星名たちと佐鳥を同じチームにするのは、当然理由がある。


 もし星名と根上が俺と同じチームだった場合、コイツらは俺の無様なプレーによって負けることになる。

 そうなれば、せっかく佐鳥が好感度を稼いでも、俺への怒りでそれが帳消しになっちまう可能性がある。

 

 それはなんとしても避けたい事態だ。


 ど、どうする……!! なにか言い訳を……そうだ!!


「ふ、普段絡んでない人とチームになった方が距離を縮められるじゃないですか!」


 ジィィィィニアス!! 素晴らしいぞ俺、咄嗟によく思いついたぁ!! 嘘ついてないのもポイント高い!!


 あまりにも機転の利いた返しに、俺は自分を褒めたたえる。

 ――が、


「べつにぃ、別のチームでも仲良くなれると思うけどー?」

「マジそれ。コトハの言う通りなんだけど」

「え。いやあのそれだと……」

「「それだと?」」

「なんでもないです……」


 俺の完璧な理論はいとも容易く崩れ去られた。


 くっ、このままだとジャンケンとかでランダムにチームが決まっちまう!! 


 気付けば俺はポケットの中を探っていた。そこにあったのは俺のスマホのみ。


「っ!!」


 だが直後、俺の脳に電流が走る。

 それは、そのスマホがこの事態の打開するためのカギであることを示していた。


 そうだ……そういえばコレには……よし。


 俺は星名たちに向き直ると、言った。


「分かりました。それじゃあコイツで決めましょう!」


 そうして、俺は自身のスマホ画面を全員に見せる。


「なんだそれ? ルーレット?」


 星名がそう口にする。

 彼女の言う通り、今俺のスマホにはルーレットが表示されていた。


「はい。このルーレットはA、Bのどっちかに止まるようになってます。一人一人これを回してチーム分けしましょう!」

「「……」」


 ど、どうだ……?


 滲み出ようとする緊張感を押し殺し、俺は返事を待つ。

 ――そして、


「いいぜ。それなら文句ねぇわ」

「うん」


 数秒の沈黙のあと、俺はなんとか星名たちの了承を得ることができた。


「お前らもいいよな!?」

「あぁ。問題ない」

「いいよー! 普通にじゃんけんとかで決めるよりドキワクしそうだし!」

「私もそれで大丈夫だよ」


 というわけで善は急げだ。アイツらの気が変わらない内に、さっさと始めよう。

 そうして、俺たちは順番にルーレットを回すことになった。


 例外として、チームに偏りができてしまった場合……たとえば三人ルーレットを回して連続で同じチームになった場合などは残った奴らは問答無用でもう片方のチームになる。


 結果は……。


「マジ?」

「おー」


 驚く星名と根上の反応を見て分かるとおり、こうなった。


 チーム俺

 ・俺(束橋湊斗)

 ・才川茜

 ・咲宮雫


 チーム佐鳥

 ・佐鳥翔真

 ・星名千聖

 ・根上琴葉


 つまり、さっき俺が勝手に決めようとしたチームと同じである。


「あはは、すごいね! こんな偶然あるんだー!」


 感心したように笑う才川。

 無論、これは偶然ではない。


 俺が星名たちに回させたルーレットは、画面のタップ数で止まる場所が決まるインチキアプリだ。

 他の奴らがルーレットを回した瞬間、俺はさりげなく画面を触り、チームを好きなようにコントロールしたのである。


 一年ほど前、司をハメるために頼れる友達にイカサマしてるとバレないように作ってもらったこのアプリ。

 まさかこんな所で役に立つ時が来ようとは。


 俺はその友に感謝する。


 こうして、俺の理想通りのチームによるバスケ対決が始まった。



◇◇◇

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