第3話 ギャルから解放されるには

「なんの用だよ」

「おいおい、やけに不機嫌な言い方だな」


 言いながら、司は俺の前の席に座る。


「俺は羨ましいと思ってるぜー。あの二人、性格は色々と終わってるがどっちも超絶にツラがいい。そんな奴らに尻に敷かれてんだからなー」

「……なぁ司。お前、妹いるよな?」

「あぁ? いるけど、それがどうした?」

「妹がいてよぉ、妹が欲しいって言ってる奴の気持ち理解できるか?」

「できねぇな。あんなのどうして欲しがるのかさっぱりだ」

「それと一緒だよぉ!!」

「うおっ!?」


 突然俺が胸ぐらを掴んだからだろう。司は目を丸くした。


「俺もよぉ、最初はなんとかポジティブシンキングで耐えようとしたんだよ!! ツラの良いギャルの尻に敷かれるのはご褒美ってなぁ! けどよぉ、全然ダメだったぜ!! アイツらメチャクチャ俺のことパシリに使うから自由時間ねぇし!! 理不尽な罰ゲームで受けたはずかしめで俺の自尊心はズタズタだぁ!!」

「お、おう……」


 悲しみに暮れる俺の切実な叫びに、司はどこか気まずそうに顔を引きつらせる。


「なぁ頼む司!! 俺をこの状況から救ってくれ!! 俺とお前の仲だろ!?」

「いや、救うもなにも……きっぱり断ればいいだろ。『もうパシリはしません』って」

「それが無理だから頼んでんだよ!!」


 大変ごもっともな司の指摘をけ、俺は懇願した。

 そしてそんな俺の想いが伝わったのだろう。司は溜息を吐き、言った。

 

「……ったく仕方ねぇなぁ。んじゃあ俺が授けてやるよ。お前が自由になるための策をな」

「本当か!!」

「あぁ。だって俺とお前の仲……だろ?」


 そう言ってウインクする司。正直キモかったがそんなことは今どうでもいいことだ。

 俺は思わず目頭めがしらが熱くなるのを感じる。


「サンキュー! やっぱり持つべきものは中学時代からの親友だぜ!! ロクでもないクソ野郎とか思っててごめんな!!」

「ははは! 大丈夫だ。俺もお前のことを親友兼ゾウリムシの親戚と思ってたからな! お互いさまだ!」」

「「はははははは」」


 ――……。


「ンだとてめぇ!?」

「やんのかゴラァ!!」


 と、まぁひと悶着あったものの、なんやかんやで俺は司から策を伝授された。

 こうして、俺の自由と尊厳を取り戻すための戦いは幕を開けたのである。



 さてと……まずはな奴を探さねぇとな。


 翌日、俺は司から伝授された策を実行するため、教室内にいるクラスメイトを物色していた。


 俺が司から伝授された策、それは簡単に言えば『身代わりを作る』というものだった。


 今俺が星名たちに目を付けられているのは、興味の対象が俺だからだ。

 つまり、その対象を俺から移すことができれば、奴らは俺への関心を失い、俺は解放され自由の身になるという算段さんだんである。


 ここで問題になるのは、星名たちの興味の対象となる奴の存在。

 そこがヤケに抽象的だったため、司に聞いたところ……。


『まぁお前みたいに星名たちの興味を引くバカはそうそういないからな。一番分かりやすいのだと、彼氏を作らせることじゃないか? これなら間違いなく興味の対象はお前から移るし、彼氏の方もお前みたいなバカが彼女の近くにいることを許さないだろ』


 とのことだ。


 ……うん、思い出したらムカついてきたな。あとで一発殴っておこう。


 そう決意した俺は、適任者……もとい『星名と根上の彼氏候補』を探すべく、目を光らせた。

 クラスメイトたちを確認し、消去法で彼氏になれそうな奴を絞っていく。

 

 星名と根上はカースト上位の陽キャである。

 そんな彼女らと付き合うことのできるポテンシャルがある男となると、当然候補は同じくカースト上位の男に限られる。


 ……よし、アイツだな。


 そうして、クラスメイトの物色を終えた俺は狙いを定めた。

 そこには、明らかにキラキラとした雰囲気を醸し出した三人の男女が楽しそうに話している。


 注目すべきは、その中にいるただ一人の男。

 佐鳥翔真さとりしょうま、爽やか風のイケメンでクラスの中心人物。勉強をスポーツもかなりのモノで逆になにができないんだとツッコみたくなる男だ。


 ヤツなら、あの星名と根上に十分張り合えるだろう。

 身代わりにするには大変都合の良い、素晴らしい人材だ。


 ははは、悪いな佐鳥。

 まずはてめぇが生贄一号だ。てめぇは星名と根上……どっちかの彼氏になってもらうぜぇ!!

 せいぜいイケメンに生まれたことを後悔するんだなぁ!!


 明るい未来へと一歩近づいた俺は、心躍らせる。


「ん? なにニヤニヤしてんだミナト?」

「うぇ!? い、いやなんでもないっすよ!!」


 星名の声で現実に帰った俺は、慌てて誤魔化した。


「てかどんどん低くなってんだけど。ちゃんと高さキープして」

「バランス悪い」

「はい!」


 星名の根上の要望に従い、俺は態勢を整える。

 今俺は両手足と膝を床につき、人間椅子となっている。星名と根上はそこに容赦なく体重を掛けて座っていた。

 まぁ軽いためそこは大して問題では無いのだが、俺の自尊心は今日も傷つけられている。


「あ、コトハそのポッキーちょーだい」

「いいよ」

「あんがと」


 俺を椅子にしながらも、星名と根上はいつもと変わらぬ調子で会話を続けている。


「でも意外だったわー。ミナトって結構デカいから余裕で二人乗れると思ったけどちょっちキツキツ」

「いや、それは星名さんの下半身が大きいだけでは……」

「あん?」

「いえ、なんでもないです……」


 危うく地雷を踏み抜きそうになった俺は、即座に口を閉ざした。


 そうだ。今は星名の尻とふとももの大きさなど些細なこと。

 自由解放のため、作戦を進めるのだ。

 ……とは言ったものの、どうするか。


 俺は思案する。

 内容はどうやって星名と根上をあの二人とくっつけるかということだ。


 覚えてる限り、星名たちと佐鳥がつるんでるのは見たことねぇ。

 つまり、やらなくちゃいけねぇのはアイツらに『接点』を作ること。

 でなきゃ仲を進展させんのも、ゴールインさせんのも夢の話。


 まずはとにかく『接点』だ!!


 ーー……。


 どうやって『接点』作んだ!?

 

 俺は秒で壁にぶち当たった。

 

 アイツと話そうにも、俺はずっと星名たちのパシリやってるから接触する『暇』がねぇ。

 どうすれば……はっ!!


 その時、俺の中に電流走る。

 

 そうだ。あんじゃねぇか、『暇』!!


 見つけた糸口。

 瞬間、俺は身代わり二人の名前を呼ぶ。


「佐鳥!!」

「ん?」


 俺の声に振り向く佐鳥。

 続けざまに、俺は言った。


と、仲良ししようぜ!」

 



◇◇◇

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