大会議室のアナウンサー:5

若松が水川に目で合図をすると、水川がノートパソコンを操作して、スライド資料をプロジェクターに投影した。

「それでは、こちらのスライドをご覧ください」

「玲奈課長、さっそく反撃タイムか!」牛飼が身を乗り出す。

「今回ご提案いただいたサービス会社が有名かどうか、ということですが、こちらのサービス会社のこれまでの改修実績をまとめたものがこちらになります。大小含めて三万六千件、二千八百社での実績があります」と若松。

「さらに、あの大手企業のポナソニック、四井住友銀行、大輪ハウス、日新食品、TOYOTE、西洋航空、天童企画、未来科学研究所などにも導入されていますし、官公庁でも総務省、気象庁、文化庁にも実績があります」と水川。

「ああっ、見てください! 若松・水川ペアのところにカードが出現しました! おや? カード位置が今までと異なりますね!」

 今まではそれぞれのノートパソコンの横に出現していたカードが、今回は若松と水川のカードが縦に重なるように並んで出現した。ボス側に近い方に若松のカード、手前側に水川のカードが縦に並んでいる。

「玲奈課長が出したカードから出てきたのは……、これは……鼓笛隊でしょうかね……? ワゴン車も連なっています」

 管楽器や打楽器を持ったマーチングバンドのような格好をした小さな若松たちが隊列を組んでおり、その後ろには人が乗れる荷台を設けたワゴン車が並んでいる。荷台の上にも各々楽器を手にした小さな若松たちが乗っている。

 その後ろの水川が出したカードからは、レーザー光線のように放射状に光を放つ黒い照明装置が出現している。レーザー光線は、ブルー、グリーン、レッド、イエローなどカラフルな色を次々に出しており、かなり眩しい。

「音楽が聞こえますね! 激しい音楽だ! これは……ブラームスのハンガリー舞曲第五番ですね。おおっと! 光が! かなり眩しい! 目が! 目がーっ!」

 若松の出したマーチングバンドがハンガリー舞曲第五番のワンフレーズを演奏しきった直後、水川の出したレーザー光線が、ゴールドに輝き、光背のように放射状に光った。

 すると伊達が出した兵の軍勢が、眩しさに耐えられず目を押さえたまま溶け去っていった。

 液晶モニタには『REPLAY』と表示され、「そもそも」と書かれた巨大な文字が光線によって溶けていく様子や重箱や弓矢を持った兵たちも目を押さえながら溶けていく様がズームで映し出された。その後、『LIVE』と表示されると、伊達の険しそうな顔が大写しになる。

「デーモン伊達のカードが消えましたね! あやうく私の目もやられてしまいそうな閃光でした。甲斐さん、これは一体?」

「牛飼さん、これは実に素晴らしいコンボ技です」

「ほほう!」

「若松選手の出したカードは『バンドワゴン』という攻撃技、水川選手が出したカードは『ハロー効果』という魔法技ですね」

「甲斐さん! 是非解説を!」

「はい。まずは、『バンドワゴン』ですが、これはラーメン屋の行列のような効果を生み出す攻撃技です」

「ちょっと、よく分かりませんね」

「行列していたら美味しいお店だと思いますよね。それと同じでたくさんが人が利用しているサービスだと数で提示することでその会社の信頼性を上げています。なかなか良い攻撃技ですね」

「なるほど! では水川選手の『ハロー効果』とはどんな技でしょうか?」

「こちらは仏像の後ろにある光背をイメージすると分かりやすいですが、光っているとより権威があるように見えますよね」

「えぇ、神々しくみえますね」

「有名企業が使っている、という光を与えることで、信頼できるサービスであることの背中を押す効果を与えることが出来る魔法技です」

「つまり、玲奈課長の『バンドワゴン』で人気であることを伝え、さらに水川選手の『ハロー効果』でその人気を後押しした、ということですか?」

「はい、そういうことです」

「なんというコンボ技だ! すばらしい攻撃にボス勢もノックアウトか?」

 しかし、伊達は「でも――」と切り出した。

「デーモン伊達、まだ反撃出来るのか!」

「でも――、たくさんの企業で使ってるんなら似たようなデザインになってあまり新鮮味ないんじゃないの?」

「おおっと、さすが否定のデーモン伊達! 何という屁理屈だ!」

 中世ゴシック調のような、もしくは英国紳士のようなの気取った格好をした小さな伊達がカードとして現れた。頭にはシルクハット、手には杖を持っている。

「紳士気取りの俗物『スノッブ』ですね。これはかなりレアカードですよ」

「レアカード! どんな攻撃技でしょうか?」

「人と同じものは嫌い。他人とは違う、という希少性を好む性質も持っており、その攻撃技も、予測不能です。直接攻撃、魔法、防御、どれを出してくるか分かりません」

 英国紳士の伊達が杖をくるくると回転させたかと思うと、その杖をショットガンのように構え、銃弾を撃ってきた。

「なんと! あの杖が銃だったとは! まさに予測不能! しかも打ち方のスタイルが格好いい!」

 銃弾は一発だったのにも関わらず、弾はワゴン車に命中し、激しく爆発してマーチングバンドも巻き添えを食らった。

「スマートだ! たった一発で『バンドワゴン』を消し去ってしまった! さあ、どうする水川選手!」

 そこでしばらく黙っていた長巻が伊達に追従する形で話す。

「もうこのサービス会社に決めたから、今さら引くに引けないではないですかねェ」

「スネーク長巻のいじらしい質問だ! とても同じ会社の上司とは思えません!」

 長巻のテーブルで名刺サイズのカードが光り出した。

「おっと! あそこを見てください! 飛行機が飛び立とうとしています!」

 カードから滑走路が現れ、一台の飛行機がまさに滑走している。一般的な飛行機と違い、機首が下に折れ曲がった特徴ある形をした飛行機である。

「これは『コンコルド』ですね。こちらもレアカードで、相当高額カードです」

「イギリスとフランスの航空会社が開発した超音速飛行機コンコルドですね。私も知ってます!」

「はい。投資資金が高額になり、運営すればするほど損失になるのを知っておきながら、それまでの投資を惜しんで後に引けなくなる効果を与える遅効性の毒属性カードですね」

「超音速飛行機なのに遅効性カードとは、それまた皮肉の効いたカードですね!」

 コンコルドは長巻のカード位置から飛び立ち、水川の出したレーザー光線の上空まで飛んできた。

「轟音だ! かなりの轟音です!」

 牛飼も甲斐も思わず耳を塞ぐ。コンコルドは轟音を響かせあっという間に飛んでいった。そしてその轟音に耐えられず、照明装置は破壊されてしまった。

「なんということでしょう! 光が音に負けてしまった!」

 長巻が不敵に笑う。ゴシック調の中世紳士・伊達が杖をくるくると気取りながら回している。

「さあ、またもや危機! どうするんだ!」

「別にまだ費用払ったり、契約したりしてなんですよね?」と加藤が聞く。

「えぇ。今回の提案に際して、複数社から見積もりをいただいており、私たちとしてはサービス面や費用面など総合判断して、こちらのサービス会社を選定しました。ですが、特に契約等は行っておりませんので、後に引けない、という状況ではないです」

 若松が丁寧に説明する。

「ですね。では長巻さんの質問は、ちょっと見当違いなんじゃないかな」

 その瞬間、飛んでいたコンコルドが空中分解した。

「スネーク長巻のカードが消えたぞ!」

「自滅しましたね。まあ『コンコルド』カードは消費ポイントをかなり使いますからね」

「若松さん、水川さん、費用面について説明してくれるかな?」

 自滅した長巻をよそに、加藤は先に進むように促した。

「はい。その前に先ほど伊達さんから質問のあった、同じようなデザインになってしまう恐れがあるかも、という点についてですが、そこはサービス会社とすり合わせして決めていきますので、当社独自のデザインになるように努めさせていただきます」

 若松の説明は特にカードを出すわけでもなく、通常の会話だったためか、英国紳士・伊達はダメージを受けなかった。

 続けて、水川がスライド資料を投影し、費用の説明をする。

「それでは費用面について、三パターン用意しております。今回のプランを全部盛り込んだプラン、必要最低限のみを盛り込んだプラン、そしてサービス面と費用面をバランス良く配置したプランの三通りです」

 水川が新しいカードを出す。

「カードが光り出しました! 何だこれは! 獣ですか……熊だ! 大きさの異なる三頭の熊が出てきたぞ!」

「あぁ、召喚技『ゴルディロックス』ですね」

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