ころしてない:6
帰路は順調だった。往路と異なり高速道路は事故も渋滞もなく、納期に追われ車を飛ばすこともなく終始安全運転で走ることができた。
俺は貴明が自殺しないよい方法を考えついていた。
自宅付近までやってくると、貴明の父親と水岡さんが一緒に自宅前を散歩しているのが見えた。まさに今、チャンスが舞い降りた。本当は自宅に突っ込もうと考えていたが、それよりも好都合だ。このチャンスを逃すと貴明は自殺してしまうかもしれない。
ゆっくりとトラックを減速させる。
水岡さんがトラックを捉え、軽く会釈をした。その瞬間、今だ、と判断した。
俺はアクセルを一気に入れフルスピードで加速した。衝撃被害軽減ブレーキシステムも解除した。通行制限ギリギリの大きなトラックは勢いつけて狭い道を進む。みるみるうちに貴明の父親と水岡さんが近づいてくる。
普通だったら自動ブレーキが作動している距離だが、今日は一切作動しない。正確に狙う。
水岡さんは俺の判断よりも瞬時に、父親を激しく突き飛ばした。
トラックの進行先から父親の姿が消えた。
そして大きな音とともにトラックは水岡さんにぶつかった。前方を捉える車載カメラが壊れてしまったのか、状況はよく分からない。高速道路で見た事故のように大きくひしゃげているのだと考えられる。一応、急所は外したので水岡さんの命には別状ないだろう。
車内カメラは動いているようで、車内の様子が分かった。エアバックが作動しており、貴明はぐったりとしているが息はありそうだ。
程なくしてサイレンの音が聞こえ始めた。
これでいい。これで貴明は危険運転致死傷罪で現行犯逮捕されるだろう。そうすれば刑務所へ収監され、監視生活が待っている。そうすれば安全だ。自由は奪われ自殺することはほぼ不可能だろう。死なずに済んだのだ。
俺は貴明の命を救ったのだ。ドライバーの命は俺が絶対に守る。
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