第6話ならば

 なんだろう。このおっさんはと彼女は思った。


 名前や目的等を聞き出したが、唯迷い込んだだけだと言う。巫山戯ているのだろうか? わざわざこんな所に? 私の部屋に? なんで布団で? 

 起きてビックリして緊張したのにと彼女は憤慨しそうになる自分の心を息を静かに吐き出しながら整えた。そのお陰が体の強張りも抜けてくれた。

 冷静に考えると彼女は自分がした事におっかなびっくりしていた。元々の性格もあるし、一応明るくしてはいるが、やはり周りの気遣いは有難いのだが、その憐れみを含んだ心遣いに気づかない訳はないのだ。だから、当たり障りのない様、生きて来た。

 多分、自分も周りも疲れて澱が溜まっているのが分かっていた。


 それを取り払ってくれるナニかが始まる気がしたのにと。いやナニかを終わらせてくれたかもしれない。そんな当てのない望みを。

 …あのワクワクを返して欲しい。ちょっとだけ楽しんでいたのはナイショだった。


 とは言え、質問を続ける事にした。まあ一番に聞きたかった事ではあるのだが、もちろん、空を飛んでいた事だ。質問していると不可能な事ではないらしい。むしろ可能性を感じる。逸る気持ちを隠しながらシーツ越しに質問を繰り返す。



 引き攣った声をしていたおっさんは今では少し余裕が出てきたのか、どんどん答えて行く。


 彼女は考える。なんとかなるかもしれない。理論もあるが考え方やイメージの方が大切らしい。コントロールや精密さを目指すなら理論も学びたい所ではあるが、空を飛ぶと言う憧れであれば悪くない。


 後は魔力か。やはりそれなりの量は必要なのかもしれない。ただ飛ぶだけにそんなやり方… 浮くとなると。


 ─────

───


 いつの間にか時間を忘れ懇願していた。


 彼女はシーツで声をくぐもらせていた事も、時間が朝でそろそろ侍女が起こしに来ることも忘れて。

 

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