【改稿版】記憶喪失の姫は偽りの従者の執着愛に囚われる

奏 舞音

プロローグ

記憶喪失の姫

 美しい眠り姫が愛する王子様のキスで目を覚ましたなら、物語はハッピーエンドを迎える。

 しかし、もしも眠り姫がすべての記憶を喪っていたとすれば、物語はどうなってしまうのだろう。

 ハッピーエンドを迎えた童話を読み終わり、リリーディアはそんなことを思う。


 だって、リリーディアは数日前に目覚めた時、すべての記憶を喪っていたから。


  ◆ ◆ ◆


 ――おはようございます。俺の姫。


 目を開けた瞬間に飛び込んできたのは、美青年の笑顔だった。

 プラチナのように輝く白髪に、金色の瞳。歳は二十代半ばだろうか。

 彼は一体誰だろう。

 見覚えはないはず――と思い出そうとして気づく。

 青年のことだけでなく、自分のことすら何も分からないことに。

 名前も、年齢も、容姿も、家族のことも、出身も、何もかも。

 頭の中を探しても、空っぽだった。

 自分は何者で、青年とはどういう関係なのか。

 彼は自分を“姫”だと呼んだ。

 どこかの国の姫なのか。貴族の娘なのか。

 それとも、ただ姫と呼ばせていただけなのか。

 分からない。

 何も思い出せないことが不安で、恐ろしい。

 唯一の手がかりは、目の前の青年だ。

 彼は黙り込んだ自分のことを優しく見守ってくれている。


 ――ごめんなさい。何も覚えていないみたいで……あなたは、私のことを知っていますか?

 ――はい。あなたはクラリネス王国のリリーディア姫です。俺は、あなたの従者シルヴィオ。記憶がなくても大丈夫です。俺が姫を守りますから、何も心配することはありませんよ。


 シルヴィオと名乗った青年は、柔らかな笑みを浮かべてそう言ったのだ。


 そして、その言葉通り、リリーディアは何不自由ない生活をシルヴィオから与えられることになる。

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