第2話

 とりあえず城内の一室にいつまでもいるわけにもいかない。

 私たちが部屋を出ると、こちらへ歩いてくる二人組に気がついた。


「……アドルフ、災難だったな。最弱の聖女に指名されるとは」


「ゲオルグ殿下」


 おっと、いきなり嫌味をかまされた。


 この国の第一王子にして獣神部隊ビースト第一部隊の隊長、ゲオルグ。

 そして彼の伴侶パートナーでもある聖女のアニータ。


 獣神部隊ビーストはその部隊の数字順で地位が定められている。

 第一部隊は王族を筆頭に高位貴族で構成され、ほぼほぼ出撃しない。聖女と伴侶になる率も高い。

 第二部隊は高位貴族を筆頭に中位貴族、裕福な下位貴族で構成される。第一部隊に次いで聖女と伴侶になる率が高い。

 第三部隊は下位貴族で構成されている。

 第四部隊は下位貴族を筆頭に裕福な平民だ。


 第三と第四は大体部隊の四分の一が聖女に選ばれるだろうか?

 最近は聖女に認定される人間が少なくなっているので、妻帯者が減っているかもしれない。


 ちなみに第五部隊は貧困層の平民のみで構成され一番危険な地域に放り込まれるわけだが。

 酷い話だ!


「まあ平民のお前にはちょうど良かろう。オレとアニータのように国を担うような立場でもないからな。すげ替えの利く聖女ならば、多少は役にも立とう」


「……彼女を愚弄するのは、止めていただきたい」


「ふん。同情はしないでおけ。……聖女は、消耗品に過ぎん」


「殿下!」


「ではな」


 咎めるような態度のアドルフさんを意に介さず、王子はとっとと去っていく。

 私はそれを、何の感情もなくただ見ていた。


 でも私に声もかけず最弱だと罵って去る王子に思うところがあるのか、アドルフさんの眉間に僅かに皺がよっていた。

 優しいなあ。そういうところが好きだよ!!


「……大丈夫か、その……」


「大丈夫ですよ。あの方はいつもあんな感じなので」


「……そうなのか」


 私は曖昧に微笑んだ。

 聖女に成り立て・・・・の私は最低限の情報を聖女たちを束ねる聖女長から聞いている。


 同じ獣神部隊ビーストと名乗っていても王子率いる第一部隊と、平民だけの第五部隊は会議ですら一緒になることがないらしい。

 だから王子の尊大な態度も、彼が掲げる反聖女・・・の理念も、アドルフさんが知らなくたっておかしくないのだ。


 まあ、もうちょっと周囲に興味を持って? と思わなくはないんだけど……。


(確かゲームだと第五部隊は基本的に言われた仕事だけしてろって感じの扱いだから、だったかな。第一と第二が政治的なこととか、王都の守りを担うとか、そんな設定だったような……)


 ゲームでの内容、特にアドルフさん関連のことは記憶を取り戻した際にメモを取り厳重に管理しているけど、最近は前世の記憶自体があやふやになりつつある。

 それはこの世界で生きるのに必死だからってことが大きいんだろうなと思うので、仕方のないことなんだろう。


「とりあえず私たちに与えられた新居に移動しませんか? 生活用品は最低限送っておくとは言われましたけど、確認しておきたいですし」


「……ああ」


「私たちの荷物はもう届けられているんですかねえ」


「さあな」


 諦めたようなため息を零すアドルフさんを横目に、私は新生活を思ってウキウキだ。

 だって推しと生活できるんだよ?

 おはようからおやすみまで一緒だよ。


 そう、だって新婚だもの!!

 

 これでも一応、新婚ですからね!

 結婚休暇なるものを一週間、この戦時中だってのにくれるんだもの。


 よっ、太っ腹ァ!!


 いや戦時中で聖女になったら結婚は強制だし、獣神部隊ビースト所属の軍人は結婚の自由がない辺りで太っ腹も何もないんだけど。


(……この結婚の意味、アドルフさんって知ってんのかな?)


 主人公たちはストーリーが進むまで何も知らなかった。

 私は聖女だから教えられているし、前世の記憶があるから知っているけど……軍人たちにはそういえば教えていないかもしれない。


(どこまで話すかは本人たちの間で責任を負うこと、だっけ……)


 誓約書を思い出しつつ、私はにやける口元を隠す。

 こんな時に不謹慎だと思いつつも、やっぱり嬉しいんだよねえ。


 推しが、隣を歩いているんだよ。

 他でもない私の横をな!


 いいんですよ、生きる目標がイコールで推し。

 いいじゃないですか!!

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