転生者の私は〝推し活〟するため聖女になりました!

玉響なつめ

第一部

プロローグ

 私が、記憶を取り戻したのは十歳の技能検定スキルチェックの儀だった。

 回復能力がある――そう神官に告げられて『なにそれ、ファンタジーみたい』と思ったのがきっかけだった。


 いやもうファンタジーもファンタジー、転生してたね!!

 そのことを自覚してびっくりした。いや、本当にびっくりした。


 しかもなんとか冷静になってあれこれ記憶のすりあわせをしてみたところ、私が生前好きだったタクティクスゲームと同じ世界の……時系列的には、ゲームスタート時よりも結構前? じゃないかなって感じ。


 ゲームそのものはスタート時に男女どちらかの主人公を選ぶことによってストーリーがそれぞれ異なり、その世界をより深く知ることで楽しめる……そういうものだった。

 本筋そのものの流れは一緒だけど、役割が違うことで見える側面が異なる、みたいなね。

 

 基本的に内容はダーク色が強い。

 割とキャラがぽこぽこイベントで死ぬ系のやつだった。


 くっ、気に入ったキャラが救えないシナリオとか泣ける……!!

 

 まあそれはともかく主人公のどちらを選んでも、もう片方とはストーリー上繋がりがある。本筋は一緒だから。

 けど、これがまた不憫な話なのだ。

 男性主人公を選ぶと立身出世を願って騎士隊に入隊したら人間の闇を見た、みたいな感じで……守りたいものがあるのに、権力の前に絶望する……みたいな。

 女性主人公だとやりたくもない職業聖女にされた挙げ句、仲良くなった人たちが死んでいって自分の能力の限界を知る、みたいな。

 

 そんで辛い思いをして最終的には主人公の二人が手を取り合って戦争を終結させるエンドで終わる。

 そこまでで味方がどのくらい生き残っているかとか、途中の選択肢でエンド内容が変わるマルチエンドタイプのゲームだった。


 なんかどっちにしろ絶望するんだから希望に満ちあふれたエンディング迎えても複雑な気持ちになるゲームだったよ!

 確か売り文句が『リアルな悲しみと、立ち向かう勇気をあなたに』とかそんなんだったと思う。

 限度ってもんがあるだろーが。


(でも、ようやく、ここまで来た……!!)


 とまあ、ゲームに関してはものすごく思うところがあるものの、そんな世界に生まれ落ちた私も一介のモブみたいなもんだから結構苦労した。

 ただ記憶を取り戻してからの私には目標があった。

 

 このゲームにおいて私にとっての〝推し〟が存在する。

 まあドはまりしてたってんだからそりゃ推しの一人や二人……ね?


「神官イリステラ、本日をもってそなたはこの国の〝聖女〟の一人として認められた。国の規定により、聖女は軍の所属となり、獣神部隊ビーストのいずれかに属さねばならぬ」


「はい」


「陛下の温情により、そなたが望む部隊に所属することが許される。そこで生涯の伴侶となるものを決め、宣誓せよ。女神の直感がそなたを救う。さあ、まずは部隊を選ぶが良い」


「では、私は……」


 立ち上がり、今、大神官が口にしたこの国における特殊部隊獣神部隊ビーストがいる方へと視線を向ける。


 この国で、たった五つしかない部隊。

 それも各隊二十人ずつくらいしかいない部隊。

 精鋭と呼ばれる戦闘集団だけど、世間では少し怖がられている人たち。


(ああ、自分は関係ないだろうって顔してる)


 私は今日、この時を待っていた。

 ずっとずっと、待っていたのだ。


 だって、私には推しがいる。

 今、推しが目の前にいるのだ!


「私が選ぶのは第五部隊」


 どよめきが起こる。

 これまで、聖女たちがこぞってお断り・・・した部隊を率先して指名するんだからそりゃそういう反応にもなるだろう。


 だけど、私は迷わない。


「そして伴侶にと願うのは、第五部隊隊長アドルフ・ミュラー様にございます」


 私の迷いない言葉に、しんと神殿内が静まり返る。

 次いであちこちから悲鳴が上がった。


 私に名指しをされた当人は自分の名前が呼ばれたことが信じられないらしく、目を瞬かせて呆然としているではないか。


 そう、彼こそが私の最愛の推しなのだ!!


(いやああああああ、そんな表情も素敵……)


 私は周囲の声などまるっと無視して足早にアドルフ様に歩み寄って、にっこりと笑ってみせた。

 きっと近年まれに見る可愛い笑顔だったと思うよ! 自分比だけど!!


「これからよろしくお願いいたしますね、ミュラー様!」

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