イザナイガタリ

亜峰ヒロ

みづほドリーム

夢を視る

 ドリームキャッチャーを吊るす。

 父が買ってきた悪夢を払うためのお守りを取り出したのは、これが初めてだった。

 みづほは妄信的な性格をしていない。目に見えるものだけがこの世に存在するのであり、見えないものは存在しないのだと、吐き捨ててきた。それを悪いと思ったことはなく、周囲の大人から「冷めた子供」だと見做されたとしても、そういうことに囚われている子はかわいそうだと思っていた。

 いや、思っていた、などと過去形にするのはよくない。

 今もそうだ。みづほは変わっていない。

 それなのに、彼女はドリームキャッチャーを吊るした。悪夢を絡め捕る蜘蛛の巣へ、双眸をじっと注いでいる。無感情の瞳を揺らす。

(ほんとうに、らしくない)

 これに期待を寄せているといった現状が、その感覚を増幅させる。

 みづほは悪夢に苛まされていた。

 実のところ、あれが悪夢なのかは分からない。ただ、毎晩、同じ夢を視る。代わり映えのしない光景が、つまらない現実が広がっている。

 数年に一度くらいは、こんなこともあるのかもしれない。

 あれ、今日の夢、前にも視たことがあったような――。

 みづほの場合は、もっと確信めいている。

 今日も視た。起きるなり、そう思う。

 この現象を何と呼べばいいのかは分からないけれど、普通ではないことは確かだ。然るべき機関を訪れれば、難しい病名を与えられるかもしれない。

 そんなのは嫌だ。みづほは断固として拒絶する。何しろ、彼女はすでに現実で問題を抱えている。虚構にまでそれが及ぶなんてことは避けたい。

 それに、どうせ、醜悪なまでの現実が虚構を歪めているだけなのだ。それなら、積極的に解決策を探るなんて労力の無駄遣い。信じてもいないオカルトに縋るくらいでちょうどいい。

 枕元の電灯を消して、横になった。

 瞼を閉じる。夢が始まる。

 みづほは今日も、夢を視る。

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