第11話 おうち探索
(あぶねーあぶねー、つい叫ぶところだったぜ……)
ドラゴンは一息つきながら立華が寝ているベッドから離れ、まっすぐ木製のテーブルの上に飛んでいき、ゆっくりと座った。
(え、なに? あいつ、今日は出て行かねーの? じゃあ俺は今日何すれば良いんだよ?)
ドラゴンはめんどくさそうに、そして暇そうに思案に暮れていた。
時には自分の爪を研いでみたり、伸びをしてみたりと自由に行動するドラゴン。
そして、今度は部屋の中をぐるぐると飛び回り始める。ぐーるぐーる……。
(あ、そうだ)
すると、ドラゴンは何か思いついた様子で空中にピタッと静止した。
(そういえば、俺、この家のこと全然知らねーな)
ドラゴンは部屋の扉の方を見た。木製の扉で、カギはかかっていない。簡単に開けられそうだ。
(ちょっと暇つぶしに全部見て回ってやるか)
そうしてドラゴンは部屋の扉の前までまっすぐ飛んで、ピタッと止まった。
(えーっと、こうだっけ?)
ドラゴンは使い慣れないものに動揺しつつも、ドアノブに手をかけて降ろした。
カチャ……。
扉は開いた。5cmほど勝手に動いた。
(ああ、合ってた)
ドラゴンはさらに扉を開け、立華が寝ている部屋からでた。
(……ふーん?)
部屋から出てみると、そこには整頓されたリビングルームが広がっていた。その奥にはトイレと風呂場もあり、きれいに掃除されていた。
さらに、ドラゴンのすぐ横には2階へと続く上り階段もあった。
2階の様子は暗くてよく分からないが、1階の様子を見た限りでは、少し広めの1LDKの家のように見える。
風呂場には前に行ったことがある。その時は勝手に水浴びをしているところを全裸の立華に目撃され、変態だとか言われながらタオルでバシバシとしばかれていたが。
ドラゴンは羽音をたてずにリビングルームに飛んでいき、あたりを眺めた。
(なんか、俺の知らんものが結構あるな……)
ドラゴンは普段の野生の生活では見慣れないものに困惑しつつも、どこか興味もそそれらていた。
リビングルームには、テレビや時計、ソファ、魔法のおもちゃ、目玉モンスターの見た目をしたボールなどがきれいに並んでいた。
部屋の角にある植木鉢には、天気によって咲かせる花を変える植物が植えられていた。今日は赤と水色の混ざった紫陽花(あじさい)のような花だった。
色々なものがあるが、特にドラゴンの気を引いたのが、
(あっ)
棚の中に飾られていた、雷龍のフィギュアだった。
棚の中にはそれのほかにも、モンスター図鑑や料理のレシピ本、映画が保存されている魔力盤、スウォンジー・サップという名前のスワンの置物、その他動物やモンスターの置物、ぬいぐるみなどがあった。
ドラゴンは雷龍のフィギュアをじっと見つめていた。そのフィギュアは、ドラゴンの両手に乗るくらいの小さな大きさだったが、周囲には雷のエフェクトが走っていて、青くて細身なフィギュアのドラゴンに光を当てていた。
(あーあ。良いなぁ……)
ドラゴンはどこか憧れを抱きながら、部屋の探索を続けた。
(……あ、食い物だ)
やがてキッチンにたどり着いたドラゴンは、棚の上に置かれた食パンを見つけた。
(なんか食えるもんねぇかな? 肉は? 前の甘くて黒いやつは?)
ドラゴンは微かな期待を抱きながらキッチンを物色し始めた。棚の中を触れずに、飛び回りながら眺める。冷蔵庫は……開け方が分からなかった。
そして目を付けたのが、
(これ、何が入ってんだ?)
小麦粉だった。器用に爪をひっかけて、中を見る。
(……何だこれ? 粉? でも良い匂いするし、何の粉だ?)
ドラゴンはそれが何か分からなかった。もっと近くで見るために、鼻先を袋の中に入れてしまう。そして、
『……ヘックシュ!!』
ブファアア!!
小麦粉に鼻をくすぐられたドラゴンは盛大にくしゃみをしてしまい、その勢いで小麦粉が宙に舞ってしまう。
『グワッ!? 何だこれ!?』
ドラゴンはあまりの煙たさに小麦粉の袋から手を離し、目を閉じて腕を顔の前でじたばたさせている。
そして恐る恐る目を開けてみると、床に惨状が広がっていた。
(……あ、やば)
小麦粉の袋は床に落ち、中身もこぼれていて、なんならくしゃみで舞い上がった粉が火山灰のように広がっている。
(これ、戻したほうが良いか?)
ドラゴンは冷や汗をかきながら床に降りると、散乱した小麦粉の前に手の平を突き出した。すると、手の平からパチパチと静電気が発生し始めた。
小麦粉はその静電気につられて、引き寄せられるように一か所に集まっていく。
ドラゴンは静電気を器用に扱いながら小麦粉をすべてかき集め、袋の中に戻した。
そしてドラゴンは小麦粉の袋の口を雑に閉じて、棚の適当な場所に戻した。
(あーあぶねあぶね、一応元に戻ったな)
安堵しているドラゴンだったが、実は元に戻っていない。
小麦粉と一緒に床の埃や塵も一緒に袋に詰め込まれて最悪。もう食事に使えるような代物ではない。こうなったら処分一択だ。
そんなことは一切知らないドラゴンは、まるで何事もなかったかのように台所を後にするのだった。
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