魔術書と正体バレ
「へー、じゃあ例えば魔術にアンデッドを滅ぼす奴があれば、それは神聖術になるのかい?」
「ならないんだな、これが。滅ぼすと一口に言っても色々あるだろ? 魂まで浄化する。火で身体を燃やし尽くす。呪いで逆に汚染してやるとかな!」
「呪いの時だけ妙に笑顔だね。それは違くないかい?」
呆れた顔でリーフが言う。
いやいや、相手は魂なんだから逆に呪いで汚染するのもアリだぞ。
呪いは基本的に魂に影響する物だからな。
肉体に影響があるのはあくまで副次効果でしかない。
なんて……、言わない方が良いか。
呪いを援護するのは聖国だとまずい。
「魔術はあくまでも魔術だ。だけどもし、発動に使っているのが聖力なら神聖術になる。その場合、魔術とは言わないけどな」
「待って待ってメモメモ」
そう言うとリーフはフードからメモ帳を取り出し、書き込んでいく。
メモを取ってくれるとちゃんと話を聞いてくれているような気がして、なんか嬉しいな。
大抵授業の点数稼ぎだけど。
「聖力だけでもアンデッドを滅する力がある。けれど、魔力にはその力がない。とりあえず今は、魔術は凹で魔力は凸。二つ合わさることによってその真価が発揮されることを覚えるだけでいい」
「うー、そうするよ」
いちおう力の転換とか場所によってもろもろとかあるけど今はパス。
面倒くさい。
諦めた様子でリーフはベッドの後ろにもたれかかった。
気だるげに首だけを起こし、「そういえば」と言葉を続ける。
「えっと、魔術と魔法って何が違うんだい?」
「魔術は攻撃特化。魔法は魔法具とか魔法陣とか生活に使う便利なもの。そういう分け方」
「あー、そこは私でも知っている通りなんだ」
魔法は付与なんだよな。
だから魔法薬とか魔法剣とか。
所有者が使うからこそ効果を発揮する。
一方、魔術は攻撃特化。
敵を殲滅するためにある。
名前は似ているけど魔法ってかなり面倒くさいんだよな。
付与といっても、一概に炎が出る剣とかだけじゃないから。
そういえば魔術といえばあったな。
使わなくなった魔術書が。
おれは倉庫から、辞書くらい分厚い魔術書を一冊取り出した。
訝し気な顔をしたまま、ベッドに転がるリーフに渡しておく。
うつ伏せにひっくり返ったリーフ。
恐る恐る書を開き、リーフのベッドを叩く足がピタリと止んだ。
「これって……」
「魔術の術式とその基礎。おれはもう使わないから」
めっちゃ高かったのを今でも覚えている。
確か三億とか行ってなかったっけ? ぼったくりだよな。
リーフはゆっくりと書を開く。
一ページ、二ページと読み進めていったのも束の間、まるで神漫画を読むときのようにページを捲る音が鳴りやまなくなっていた。
「くれるのかい!」
すっごい目が輝いている……。
お古の本を胸に抱えて。
ネコミミをピコピコ動かされたら断るに断れないじゃないか畜生!
はー、可愛い女の子にはすぐ貢ぎたくなるから、男の豪ってどこまでも深いよなぁ。
「あげるよもう。先に風呂いいか?」
「うん! いいよいいよ! やったぁ!」
後ろの方で魔術書を抱きかかえてグルグル寝転がりまわっているリーフ。
……喜んでくれたならいいか。
さてじゃあ風呂に……待てよ。
これ、おれがドアノブ捻ったら拉げるんじゃね?
それに服を脱ごうものなら間違いなく裂けるよな……?
そうなったらあれじゃん。
次の日おれ、全裸で町を徘徊する破目になるじゃん!
ない。
それはない。
かなりない!
やばい性癖の持ち主だって思われる!
えっどうすんのこれ。
「おっと、ごめんごめん。今開けるよ」
バスルームの扉前で立ち往生していたら、リーフが来て開けてくれた!
ありがとうの言葉を告げ、バスルームに入る。
風呂とトイレ、洗面台が一緒。
壁は白いタイルで囲まれているよくある感じの部屋だ。
……すげぇ今風。
小学生の頃はよく歯ブラシとか持って帰っていたなぁ。
家帰って速攻忘れていたけど。
扉が閉まり……あの?
「はい! それじゃあバンザイして!」
「……なんでリーフさんここにいるんですか?」
「超越者というのは大変だね。服も自由に脱げないんだっけ?」
えっと……その。
にたにた笑顔でリーフは手をワキワキと動かす。
じりじりと歩み寄ってくる!
なんでそんな楽しそうなんですか!?
異世界で。女の子になって。初夜で女の子に服を脱がされる。
なにこの字面だけで犯罪者集ぷんぷんするの。
「顔真っ赤! 女の子同士なのに。可愛い!」
「……今日は疲れたからもう寝る」
「それは臭うから止めてくれないかい」
あの、急に真顔になるの止めてもらっていいですか?
失礼に値するのは分かっているけど。
けど女の子に服を脱がしてもらうとか、騙しているようで気が引け――ちょっ手をかけるな!
「おっ! きちんと女の子だったんだね」
グイっとリーフがおれの服をめくってきたっ!
女の子ってこんなに距離感近いの!?
ほおにほんのりとした熱が入るのを感じる。
リーフの手を振り払おうにも、もう服を掴まれている。
次々と身体から衣服の感触に、おれは逃れるように洗面台を見てしまった。
突き刺すような冷えた風がおれの体温を奪っていったような気がした。
多分それは表情にも現れていたと思う。
洗面台に置かれた鏡。
そこにはリーフただひとりしか映っていなかった。
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