六魔王の悪評

そうか、やっぱりログアウトできないのか。

 キャラ変更はキャラクター選択画面から行える機能だからなぁ……。


「……やばくね?」

「反応おっそ」


いやそうは言うが妹よ。

 ログアウトできないってことは何だ。

 この世界に閉じ込められている状態ってことなのか?


「できたらもうとっくに帰ってるっての。ここはあのゲームによく似た異世界ってこと」


 妹がおれの考えを読み解くかのように答えてくれた。

 ということはおれが今まで会話してきた相手は、みんな NPC ってことになるのか。

 プレイヤーなら絶対、一切の例外なく神彩の宝玉を持っているからな。

 それに好き好んで兵士をやるような人は中々いないし、超越者なんて単語ももちろんない。

 プレイヤーならおれの悪名と姿、禁句を知らないはずがないしな。


「じゃあ第二の質問。おれけっこう他国を壊滅状態に追い込んだ記憶があるんだけど」

「けっこうってか 43 回だろ。質問は知らね。六魔王の記録はあるけど、記憶に関して誰もかれも知らないって答えるから」


知らない?

 それなんかおかしくないか?

記録が残らないのは分かる。

 けど記憶がないのはおかしいぞ。

 それだと六魔王に襲撃された出来事は、何百年も前の話しって言っているようなものだ。

 今妹などの導き手はなんでここにいる。

 本来ならとっくに死んでいてもおかしくない。

 魔族ならともかく……。

 いや、この世界人間も結構寿命があるんだったな。

 大気中に散布しているマナの影響で。

しかしそれでも記憶がないのはおかしいし。

 ……分からん。


「でー……っと。あとなに質問すればいいんだ?」


おれは指を回しながら頭を悩ませる。

 けど何も思いつかないな。

 その様子にか妹は目元を引きつらせながら、どんよりと口を開く。


「バリルの姿と声で、あいつと同じ癖されるの物凄い違和感なんだけど」

「あいつて……。一応兄なんだけど」

「ってかアンタいつ来たの? 一年くらい前?」

「いや、今来たとこだけど」


質問の意図がまるで分からない。

 この国に来たのってホント数時間ちょっとのはずだよな。

 妹は「違うから」と否定の言葉を口にしつつ手を振る。


「この世界に来てからって意味。ちなみに私は五年前ね」

「それでもおれはついさっきだな。数時間前だぞ」


人によってはかなりの時差だな。

 それなら六魔王の被害がほとんど出ていないのにも頷ける。

 あいつらそれぞれの種族最強だから。

 基本的に自由気まま、唯我独尊を行くからなぁ。

何度地図から国の名前が消えたことか。

 その六魔王に入れられるのホント不名誉だと思う。


「ふーん」


…………。

 それで……ここから何を質問すればいいんだ?

妹完全に黙っちゃったよ。

 会話も完全に途切れたし。

 ……いやいや、考えてみたらここに居座る必要なくないか?

 もう、目的自体は達成したわけだし。

 うん。


「ともかくおれ、このままバリルで過ごすのか。けどゲームキャラ設定なら」

「言っとくけど肌や髪は荒れるし。一か月の奴普通に来るから」

「……一か月の奴?」


一か月に何かあったかと、おれは顎に指を当てながら質問する。

 妹は忌々しげな顔で「そのうち分かる」と呟いていた。

……まっいいや。

 細かいことは気にしないに限る。

 面倒くさいし。

 そんなものに時間を割いている暇はない。


「じゃあおれはもう行くわ! 何かあるなら言ってくれ! ここが現実になった以上、おれはお前の唯一の家族らしいからな」


おれは立ち上がりざまドンとこいと自信をもって胸を叩く。

 妹はなぜかポカンとした顔つきを向けてくる。


「まさか妹が困っているのに駆けつけない奴だと思われているのか? おれ」

「当たり前じゃん、きもい」


何をいまさらとでも言いたげな様子の妹さん。

 おれは「あー」と悩みの声をあげながら、虚空をしばらく見つめてから口にする。


「もう血が繋がっていないのは確かだ。物理的に見れば、もう家族でも何でもないと思う。片方アンデッドだしな」


だから……そこまで口にしようとして言葉が詰まる。

 ……ああダメだ!

 無理ッ!

 上手い良い訳が思いつかん!

 そうなんだよ。

 おれと妹の体には今、まったく違う血が流れている。

 それも方や滅国破壊常習犯の真祖でアンデッド。

 方や国や民を守り抜く人間であり聖人。

 種族の遺伝子構造的にも、身分的にもまるで違うんだよ!


「とにかく! 互いに家族だった記憶がある。それでいいんじゃないか?」

「で、言いたいことはそれだけ?」


妹さんは相変わらずじっとおれを真正面から見てくる。

 その瞬きひとつとってもゆっくりとした黒色の瞳は、どこまでもおれの心の内までを見通すかのようで。

 おれは肌に寒気がするのを感じつつ、喉を鳴らしていた。


「兄貴面きもいんだよ。リアルじゃ何恐れてんのか知んなかったけどさ。こっちがリアルになった途端頼ってくれていい? 都合よすぎんだよ」

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