第41話(1st Season 最終話)


『398のこの曲は原曲よりテンションあがるぅぅぅ!』

『一緒に歌ってるふたばちゃん、オジサンとデートくれないかな』

『↑のやつ通報しときますた』

『www』


 双葉ちゃんが入って3曲が終わり、配信は大盛り上がりとなっていた。

 残るは後、1曲……!

 配信前は緊張で震えていたが、始まるといつの間にか緊張そのものが無くなっていた。


 だけど、最後までは油断できない……。


 そして、最後の1曲を再生してと咲耶から合図が送られた。

 ……最後まで頑張ろうな、2人とも。



「最後の曲どうでしたか!」

「どうでしたかー!」


 最後の曲が終わり、咲耶も双葉ちゃんもさすがに疲れたのか、リスナーに断りを入れてから

 用意していた飲み物を飲んでいた。


 あとは、フリートークをして配信は終わりを迎える。

 ここまで何事もなく、終えることができそうで俺は安堵の息をつく。


 リスナーのコメントもまだまだ物足りないと言った感じのコメントが下から溢れるように流れていた。

 配信時間も残り10分ほど。

 早すぎる気がするが、トークを入れればちょうどいいぐらいだろう。

 

「ちょっと寂しいけどこれでおしまい——」


 咲耶が締めの言葉を言い始めたと思ったが……


「時間があるのでもう一曲うたいますー!」

「うたいますー!」


 え……!?

 ええぇぇぇぇぇぇ!?


 咲耶の一言に終わりだと思っていたリスナーたちのコメントは台風のように歓喜の声が飛び交っていた。

 その中で俺1人だけ呆然と立ち尽くしていた。


 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 蒼にぃには黙っていたけど、もう一曲用意していた。

 もちろん、双葉ちゃんには伝えていて、蒼にぃには絶対に教えないようにとも言っていた。

 配信時間は残り5分ちょっと。充分。


「それじゃこれが本当の最後の曲になります!」

「はーい!」


 私ので双葉ちゃんが手を上げて大きな声で返事をしていた。

 蒼にぃの方を見ると、状況が理解できないのが呆然としているようにも見えた。

 ……ごめんね、蒼にぃ。


 ——でも、蒼にぃにとっても最高の動画配信にするから!


 自分のスマホを取り出して、最後の楽曲を再生させる。

 

 ピアノソロでゆっくりと音が鳴り出していく。

 そして……


 ——私と双葉ちゃんはタイミングをあわせて同時に歌い始める。


 この曲は実家がある国で誰もが知っている恋の歌。


 ある村に住む小さな女の子の物語。

 女の子は幼馴染の男の子と一緒にいるのが好きだった。

 女の子は男の子に恋をしていた。


 でも、男の子はそれに気づくことはなかった。

 そして、年は過ぎて男の子と女の子は結ばれて結婚をする。

 

 ここからは女の子が結婚前日に男の子に送った言葉となっており、歌で言えば盛り上がるサビとなっている。


 最初に双葉ちゃんが辿々しい海外の言葉で歌っていく。

 ……ごめんね、双葉ちゃん、難しい日本語以外の歌詞を歌わせちゃって。


 その後にもう一度、私が双葉ちゃんが歌った箇所を歌う。

 ……色々調べてみたら、この歌詞には女の子の成長を綴っているとか。


 ——私はあなたと一緒にいるだけで毎日が素晴らしい日なの。

 ——そして、これからもあなたと一緒にいたい。

 ——ずっとあなたの隣にいてもいいですよね?


 だって私はあなたのことをずっと愛しているから……!


 私はこの部分を呆然としている蒼にぃをみて歌っていた。

 もちろん、日本語ではないので蒼にぃに伝わることはほぼないと思う。


 ……でも、いつかは蒼にぃが理解できる言葉で伝えたい。



『うおおおおおおおおおお! 俺もう鳥肌すげんだけど!』

『最後の曲気になるんだけど……! 曲名おしえてー!』

『ブラボー! マジでブラボー! 語彙力なんて知ったことか!』


 PCの画面には拍手のようにコメントが止まることがなかった。

 これがステージならみんな立ち上がって拍手しているのかもしれない。


「皆さん、ありがとうございました!」

「ありがとうございましたー!」


 私と双葉ちゃんはPCの画面に向かって頭を下げていた。


 止めていいと蒼にぃに合図をすると、配信終了対応をしてくれた。


「咲耶、お疲れ」


 配信が終わったのを確認した蒼にぃは私の方を向いて和かな表情をしていた。

 その言葉を聞いた私は感極まってしまい……


「ありがとう……蒼にぃ……!」


 そのまま彼に抱きつきながら泣き出してしまっていた。


「むしろ、礼を言うのは俺のほうだよ……ありがとう、咲耶」

 

 蒼にぃはそのまま私の体を強く抱きしめてくれていた。


「蒼介お兄ちゃん、わたしもー!」


 その状況をみていた双葉ちゃんが蒼にぃの元に駆けつけると、腰に手を回してガッチリと抱きついていた。


「双葉ちゃんもお疲れ、ごめんな俺たちのわがままに付き合わせちゃって」


 そう言って蒼にぃは双葉ちゃんの頭を撫でていた。

 撫でられた本人はすごく嬉しそうな顔をしている。


「……蒼にぃぃぃぃぃ! わーたーしーもー!」


 顔を上げて蒼にぃの顔をじっとみて叫んでいた。


「おまえはいくつだよ……」

「永遠の5ちゃい!」


 私の返答に蒼にぃは大きなため息をついていた。

 ……でも、頭を撫でてくれたからいいかな。



 私も蒼にぃも緊張から解放されたのか、すっかりクタクタとなっていた。

 スタジオ内を軽く掃除していると、パイプ椅子に座っていた双葉ちゃんが寝てしまっていた。

 

「元気な子でもさすがに疲れたみたいだな」

「うん、リハの時から頑張ってくれたしね……ありがと、双葉ちゃん」


 私は寝ている双葉ちゃんの頭を撫でる。


「夜も遅いし、機材を持って帰るのは明日にするか……」


 そう言って蒼にぃは双葉ちゃんの体を抱き上げる。

 ……ってかお姫様だっこ!?


「……先に言っておくが、やらないからな」

 

 言おうと思っていたことを先に言われて軽く凹んだ。 


 上の階に行くと双葉ちゃんのお母さんが姿を見せていた。

 すっかり夢の中へと旅立っているお姫様を起こさないように渡すし、片付けは明日することを伝えて国分寺家を後にした。



 家に着いたのは夜遅い時間。


「……だめだ、俺もう寝る」


 簡単にお茶漬けを食べた蒼にぃはフラフラになりながらもお風呂に入り、台所に戻るとすぐにそう言って自分の部屋に向かっていった。


「さすがに今日は早く寝よう……」


 お風呂を済ませると、先ほどの蒼にぃのようにフラフラになりながら、階段を登っていった。


 

「何でねれないのー!」


 すぐに布団に入り、目をつぶるが、一向に眠れなかった。

 体は悲鳴をあげそうなほど、フラフラなのに何でなの!?


「そう言えば、疲れすぎると余計寝れなくなるって聞いたことがある……」


 対処法としては眠くなるまでボーッとするのは良いみたいだが……。


「ダメだ……全然眠くならない」


 なんか余計目が冴えてきてしまった気がする……。

 仕方なく布団をめくって体を起こす。


 枕元に置いたスマホで時間をみると、朝までまだまだといった時間。


「もしかして、蒼にぃも同じようになってるかも」


 私と同じようにフラフラになっていたんだ、眠れなくて寂しい思いをしてるかもしれない!

 そう思ったら吉日、すぐに彼の部屋へと直行する。


「……うそ、熟睡してる」


 いつものように蒼にぃの部屋に忍び込んでみると、穏やかな寝息を立てて寝ていた。


「蒼にぃ、起きてよー」


 声をかけるが、反応はなかった。


「……起きないと、前みたいに迫っちゃうぞー」


 だが、ベッドの中から反応は一切なかった。


「よし、私は忠告したからね、私のモットーは有言実行だから!」


 私は着ていたパジャマを子供のように脱ぎ捨てる。

 私は生まれたままの姿……の一歩手前の下着姿になっていた。

 蒼にぃがその気になっちゃえばいつでも臨戦体制になれる!

 

 そして蒼にぃの布団をめくり、彼の上にまたがっていく。


「うぅ……」


 すると蒼にぃは苦しそうな声をあげながら薄らと目を開けていた。

 

「ふっふっふっ、今日は寝かせないよ!」


 彼の胸に倒れ込むと、蒼にぃは私をしっかりと抱きしめる。

 もしかして……蒼にぃも!


 ——私を抱きしめたまま、再び眠りについていった。

 

「寝ちゃダメだってー! 私が満足させろー!」


 ガッチリと抱きしめられているため身動きが取れずジタバタと手足を動かすが、それ以降蒼にぃが起きることはなかった。


 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

「ふわぁぁぁぁぁ、よく寝た」

 

 天窓から差し込んだ光が顔に直撃したことで俺の目が覚める。

 昨日は相当疲れていたのか、一度も目が覚めることはなかった。


「さてと、朝飯でも作るか……」


 腕を伸ばそうとするが、毎度のように左手に重みを感じていた。

 原因は妖怪腹減らしなのはわかっているので、どかせようと視線をそちらに向ける。

 そこには俺の腕にしがみつくながらくの字で眠る咲耶の姿が。


 ——下着姿で。


「うわああああああああああああ!!!」


 自分でも驚くぐらい大きな声をあげていた。


「むぅ……朝からどうしたの、蒼にぃ」


 俺の声に反応して、咲耶は目を擦っていた。


「な、何で下着だけでここにいるんだよ!」


 俺が指を指して話すと、咲耶は自分の体を見ると、ニヤッとした表情で俺をみていた。


「覚えてないの……? 昨日の蒼にぃすごかったんだよ」

「す、すごかったって何がだ!?」

「何て言うか男らしいと言うか……思い出しただけでドキドキしてくるよー」


 そう言って咲耶は体を起こして、ベッドから出ると床に落ちていた自分のパジャマを着ていた。

 

「昨日はすごかったせいか、お腹すいちゃった 蒼にぃ朝ごはんつくってよー」


 咲耶はお腹をおさえながら話すと、そのまま俺の部屋を出ていった。

 階段を降りる足音がしたので台所に向かっていったんだろう。


 ——が、そんなことはどうでもいい!


「ま、マジで俺、咲耶に変なことしてないよな!?」


 そのことで頭がいっぱいになり、昨日の余韻がすっかりと無くなってしまっていた。


 ……俺と咲耶との不可思議な生活はまだまだ始まったばかりなのにこれから先、平気なんだろうか。


 俺は大きくため息をつきながら台所へ向かうのであった。


 1st Season Fin.


==================================


【あとがき】


お読みいただき誠にありがとうございます。 

この話をもちまして一旦終了とさせていただきます。

約1ヶ月の間、応援ありがとうございました!


まだ未定ですが続きを作っていき予定ですので

決まり次第Twitterや近況ノートでご連絡をさせていただきます!


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

最後に読者の皆様に作者から大切なお願いです。


「面白そう」

「続きが気になる」

「応援する」


などと少しでも思っていただけましたら、


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