第29話


「やっば、結構食べ過ぎたわ……ダイエットしとかないと」


 清算を済ませて外で待っていると、鶴嶺さんがお腹を抑えて店からでてきた。

 彼女が食べたのってカルボナーラとデザートに頼んだ4段パンケーキだったはず。

 ……あれ、そんなに食べてないような気がする。


 ちなみに高田さんは締切の日にちを間違えていたとかで、顔を真っ青にして帰り、その後に赤羽根さんもお母さんに呼び出されてブツブツと文句を言いながら帰って行ってしまった。


 私も帰ろうかと思ったけど、どうやら蒼にぃも静原くんと遊びに行って、家にはいないとのことだったため、鶴嶺さんと一緒にファミレスに残った。

 

「それにしても、みこっちは天城かぁ」


 店のドアを抜けると彼女はニヤニヤとした表情で私の顔を見ていた。


「だ、だから! そう言うのじゃなくて!」


 さっきからずっとこの流れだった。


「そこまで否定しなくてもいいだろ、別に恥ずかしいことじゃないんだし」

「うぅ……」


 私の困る顔をみて、鶴嶺さんはまるで子供をあやすような手つきで私の頭をポンポンと叩いていた。

 反撃したいけど、150センチ前半の私の身長では160センチ台の彼女の頭へと届かせることはできなかった。

 ……今日から牛乳たくさん飲もうかな。


 

「そういや天城って意外とモテるの知ってた?」


 ファミレスから駅に向かう途中で思い出したかのように鶴嶺さんが話しかけてきた。


「そ、そうなの……!?」

「ってすごい食いつきだな、やっぱ気になっているじゃん」


 彼女は私を指差しながら微笑んでいた。

 

「去年も天城と一緒のクラスで、それなりに話をしていたんだけどさ」

「そ、そうなんだ……!」

「話すと言っても、隣だった時にな、たまたまバイクの話で盛り上がったんだけど……」


 鶴嶺さんは天城ってほとんど静原とわけのわからない話してるじゃん?と付け足していた。

 

「その時に女子から天城について色々聞かれたよ」

「そ、それで……!」

「ってすごい食いつきだな」


 そんなことはどうでもよかった。

 

「思ったことを伝えたら何人か告白したしたみたいだな」


 こ、告白!?

 さすが、私が長年にかけて想ってきただけはある

 けど、今はそんなことを言っている場合じゃない!


「それで、そ……天城くんはどうしたの?」

「全部断ったみたいだな、何日かして食堂で愚痴聞かされたし」


 告白した人には申し訳ないと思いながらも、私はそっと胸を撫で下ろしていた。

 

「ってか天城には神崎ママがいるから並大抵の女じゃ満足はしないよな」

「え……?」


 ホッとしたのも束の間、鶴嶺さんの言葉がグサリと私の体を貫いていった。


「転校してきたばかりで他のクラスのやつのことは知らないか」


 正直、同じクラスでも未だに名前と顔が一致していない人もいる。


「1組に神崎千智ってのがいるんだけどさ、たしか天城とは付き合い長かったはずだよ、それにバイト先も一緒だし」

「そ、そうなんだ……!」


 もしかして蒼にぃがバイトの時張り切っていくのはそれが目的……!?


「たしかに神崎ママに勝てる女はいないよなぁ」

「その人ってどんな人なの?」

「ママって呼ばれるぐらい、おっとりしてて包容力があるんだよ、男女共に頭を撫でられたら幼児対抗されるって言われるぐらい」

「な、なんかすごい人だね……」

「あと、胸がでかい」


 その一言は私には致命的すぎるほど衝撃だった。

 おそらく1人だったら聞いた人がドン引きするぐらいの雄叫びをあげていたに違いない。


「ママも色んな男子から告られてるけど全部断っているみたいなんだよな。 大半の男どもはあの胸目的らしいけど」

「それってもしかして……」

「可能性としてはありえそうだよなぁ」


 鶴嶺さんは腕を組みながらうんうんと頷く素振りをしていた。

 

「そ、そんな……」


 私の気持ちを察したのか、足がそれを表現するかのごとく力が抜けていった。


「うわ……みこっち大丈夫か?」


 大丈夫だけど、大丈夫じゃない……。

 今はどこかのアーティストが歌う歌詞のようなセリフしか出てこなかった。


電車通学の鶴嶺さんとは駅のホームで別れると、すぐにスマホでLIMEを起動して、蒼にぃにメッセージを送る


 Mikoto.K

 「今日は帰ってきたら家族会議するから早めに帰るように!」


 メッセージと一緒に相手を問い詰めるている黒猫のスタンプを送った。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

「ごちそうさまでしたー!」


 長蛇の列に耐え続けて、やっとの思いで目的のラーメン屋に入り10分ほど前。

 久々に頼んだ『たっぷり九条ネギ味噌ラーメン』を完食してゆっくりしようと思ったが、まだまだ行列はなくならないらしく、気まずくなったので早々に店をでた。


「でさ、そいつが偉そうに指示出すくせにすぐにペロりやがってさ!」


 翔太は店に入る前からネットゲーの話を1人でずっと語っていた。

 最初のうちは補修とかで色々と積もり積もっているのだろうと思って軽く流しながら聞いていたが、さすがに聞くだけも辛くなってきた。


「男キャラには厳しいくせに露出の高い女キャラにはめちゃ甘でさ!」


 翔太の話を左から右に流しながらスマホを見ていると、LIMEのメッセージ受信画面が表示された。

 差出人は咲耶からだった。


 内容を見られたくなかったので、翔太の方に背を向けてメッセージを開くと……


 Mikoto.K

 「今日は帰ってきたら家族会議するから早めに帰るように!」

 

 そしてすぐにアニメか漫画で見たような相手を問い詰めるようなポーズの黒猫のスタンプが送られてきた。

 ……家族会議って何かあったのか?

 もしかして……!


「どうしたんだ、スマホ画面なんてじっとみて、まさかまた女の子からの呼びだ——」

「すまん、家に帰らなきゃならなくなった!」

「お、おう……」


 翔太にそれだけ伝えると俺は家の方に向かって走り出していった。


「……珍しいな蒼介があんなに慌てるなんて」

 

=================================


【あとがき】

▶当作はカクヨムコンに参加中です!!

 

お読みいただき誠にありがとうございます。

次回もお楽しみに!


今日を乗り越えたら明日からは……ぐふっ

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