第4話


「蒼にぃといっしょにねるの!」


 小さい頃から俺と咲耶はそれぞれ自分の部屋が用意されていた。

 部屋には机や本棚など、必要不可欠なものは揃っていた。

 もちろん、各部屋には自分専用のベッドもあった。


 だが、咲耶は決められた就寝時間になると枕を持って俺の部屋にやってきては

 俺のベッドの中に忍び込んできていた。


 当時は鬱陶しく感じていた。

 けど、あの事故で咲耶がいなくなってからは1人で寝ることに寂しくなっていった。


 ——もうあのような日々は戻ってこないのだと。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「まぶし……」


 天窓から対象の光が差し込み、俺の顔に直撃したことで目が覚めた。

 目覚ましなどに頼らず、目が覚めることで気持ちいい朝を迎えることができるとテレビで言っていたような気がするが、俺は全くそうだと思えなかった。


 休みの日ならこのまま二度寝と洒落込みたいところだが、悲しいことに今日はまだ平日だ。

 早く休日がきてほしいと心の奥底で願いつつも、体を起こそうとする。


 ……起き上がる瞬間、左腕が重く感じた。

 昨日は体育がなかったから運動なんかしてないと思いながらゆっくりと布団をめくる。


「うわああああ!!」


 俺の腕にはTシャツにジャージのズボン姿の美琴、いや……咲耶が俺の腕にしがみついて寝ていた。

 よほど気持ちいいのか、一定のリズムで寝息を立てている。


「いつの間に入ってきたんだ……」

 

 俺は昔の出来事を思い出していた。

 本当に、彼女の中には咲耶の魂があるんだなと思い知らされる。


「……朝だぞ起きろ」


 俺はあの頃と同じように咲耶の頬を摘む。

 こうやると咲耶は目を覚ましていたのだが……。


「うーん……蒼にぃ……」


 咲耶は目を開けることなく、艶のある声でぶつぶつと寝言を言いながら

 夢の世界を彷徨っていた。

 にしても一体、どんな夢をみているんだ……。


 朝から色々やることがあるので、咲耶がしがみついていた腕をゆっくりと振り解く。


「……蒼にぃ」


 咲耶はムクリと体を起こす。

 目を開けて俺の方を見ているが、目は半開きで完全には目覚めていないようだった。


「やっと起きたか、洗面所行って顔を——」

「……おはよー」 

 

 だが、咲耶は力が抜けそうな声を発すると同時にそのまま俺の体に倒れかかってきた。


「いい加減に起きろぉぉぉぉぉ!」

 

 何で朝から俺はこんなに大きな声をあげなければならないのか……。

 誰か答えてくれよ!



「……まったく、いつ俺の布団の中に入ってきたんだ?」 

「たしか日付が変わる前だと思ったよ。 あ、蒼にぃジャムとって」

 

 昨日は色々なことがあり、風呂を上がって部屋でくつろいでいると睡魔が襲ってきたので

 布団の中に入っていった。


「はぁ……まったく」


 俺はため息をつきながら咲耶にジャムを渡す。


「昔はよく一緒に寝てたでしょ!」

「今の自分の年齢考えてくれ……」

「あ、もしかして……」


 咲耶はこんがり狐色に焼けたトーストにブルーベリージャムを満遍なく塗ると、何かに気づき俺の顔をじっとみていた。


「もしかしてパジャマ着てない方がよかった?」

「誰もそんなこと言っていない」


 俺は咲耶を睨みながら答える。

 ちなみにコップに注いだヨーグルトを飲もうとしていたところだったので、咲耶の言うタイミングが遅かったらヨーグルトをテーブルの上に撒き散らしていたかも知れない……。



 朝食を終え、歯磨きをしてから自分の部屋に戻って着替えを済ませた。

 家を出る前に台所の奥にあるリビングに置かれた神棚の前で手を合わせる。

 

 神棚には母親と幼い頃の咲耶の写真が置かれていた。

 母親はともかく、咲耶はすぐ傍にいるのに……と不思議な感覚になっていた。


 台所に戻ると咲耶が優雅に紅茶を飲みながらスマホを見ていた。

 画面を見ると、英語なのだろう、日本語以外で書かれたWebサイトを見ていた。

 そういえば、海外でずっと暮らしていたんだっけか……。

 

「あれ、蒼にぃもう行くの?」


 俺にいることに気づいた咲耶はスマホをホーム画面に戻しながらこちらに顔を向けた。

 

「ホントはもう少し遅いけど日直だから早く行かなきゃいけないんだよ、咲耶はどうするんだ?」

「私も、もう少ししたら出かけるかな」

「わかった、出かける時は鍵よろしくな」

「うん! 任せてよ!」


 咲耶は微笑みながら敬礼のポーズをする。


「それじゃ行ってくるな」

「はーい! いってらっしゃーい!」


 俺は咲耶に見送られながら家を出ていった。

 ……ずっと家を出るのは最後だったから誰かに見送られるのは久々でいいものだな。



 学校までは徒歩圏内で家から20分ほどで歩いたところにある。

 それを理由にこの学校を志望したと言っても過言ではない。


 学校に着くとすぐに日誌を受け取るために職員室に向かうと、いかにも生真面目そうな顔をした担任が椅子に座って新聞を見ていた。挨拶をして、日誌を受け取るとすぐに職員室をでて自分の教室へ足を運ぶ。


 朝が早いせいか、教室には誰もいない。

 何でこんなことをしなきゃいけないんだと悪態をつきながらもカバンを机に置き、専用のクリーナーで黒板消しを綺麗にしていく。

 

「えっと今日の日付は……」


 自分の席に戻り、先ほど受け取った日誌を開いてスマホを見ながら日付と自分の名前を記入していく。

 あとは帰るまでに必要なことを書いていくわけだが……。


「何でこれしかすることがないのに、30分も早く登校しなきゃいけないんだよ……!」


 俺は叫びたい衝動を抑えながら机に突っ伏していった。


 それから15分ぐらいしてクラスメイト達が教室の中に姿を現していく。


「おっす蒼介、ずいぶん早いな?」


 古い付き合いであり悪友の翔太もやかましい声をあげながら教室に入ってきて

 俺の席にやってきた。


「それよりもさ、知ってるか?」

「知らない」

「少しは興味を持ってくれよ!?」

「で、何だよ?」


 俺はスマホを見ながら翔太の相手をすると、翔太はコホンと咳払いをして

 俺に顔を近づけてきた。


「男の顔をアップでみても嬉しくないんだが」

 

 自分でもわかるぐらい嫌そうな顔で答えるが、翔太はお構いなしに話を始める。

 

「どうやらこのクラスに帰国子女の編入生がくるみたいだぜ!」


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【あとがき】

▶当作はカクヨムコンに参加中です!!

 

お読みいただき誠にありがとうございます。

次回もどうぞ、お楽しみに!

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