【 其の二・承 】

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 マルクトから少し離れ、青々と茂る森の中を進み、片側には湖と、小さな川に掛かる桟橋を渡った先にぼくの家は存在する。

 電気水道ガス設備は問題なく、トイレに至っても最新な環境。中世都市のような世界観とは打って変わり、現代人のストレスにはならない空間に安心感を覚えられる。

 しかも一軒家だ。あまりの広さに手持ち無沙汰がすぎてしまった。


 マルクト内には外食施設もあり、一食一ポイント。商店街ではポイントに小数点が発生し、食材で買えば費用は浮くが、他の施設では計算されない単位なのであまり残すと用途が減る。

 衣服を買うには一ポイント。

 図書館で学ぶスキルには二ポイント。

 一日三食、最低三ポイントの消費で考えると、毎日一ポイントの追加を込みでも生活出来て一ヶ月半。

 そこから生き残るための術を学ぼうとしていけば、徐々に徐々に退路は閉ざされていく。

 この世界での暮らしは長くても一ヶ月前後が限度だろうか。

 シビアだと言わざるを得ない。

 ここでの生活を始め、ぼくはまず護身になるようなものは早め早めに身に付けておきたいと図書館へ通った。

 攻撃スキルとは、魔法のようなものだった。

 いずれも二ポイント以上、強いものほど倍に掛かっていくようで、どれがいいのか分からずに右往左往していると、どうやら攻撃スキルを探している、ということはイコールで危険人物に思われるらしく、生活スキルを見ている方たちに警戒されてしまうようだった。

 注意はしつつ、逆にその視点を真似するのはいいかも知れない。

 金髪の男性は攻撃スキルをよく見ていた。

 生活スキルにも様々なものがあった。主に娯楽に関してのものが多く、建築スキルなどもあったが、一ヶ月そこらの生活で活用する人などいるのだろうか。

 釣りスキルというものがあり、まことに蛇足だろうとは思ったがつい選んでしまった。

 言い訳をすれば、食材を自ら調達出来れば食費分のポイントは浮くだろう。

 二日目には早くもペナルティが発生したようで、深夜であるにも関わらず全参加者に通達が入った。

 その加害者の名は樋笠錬。灰色の保持者。その正体は、あの金髪の男性だった。

 そんな件があったため、マルクトでの人盛りは更に距離感を保たれるようになっていく。

【暗殺】はムーダーエッジによる殺害によって完了するためあまり目立たないこともあり、距離が近いことに抵抗を覚える人が増えたのだ。

 なので、商店街は少し歩きづらい。

 三日目。昨日から失敗続きの釣りに、勿体ない買い物だったかと悲しくなりながら今日はまた別の川辺へと移動して糸を垂らす。

 その時に、彼女はぼくの元に現れた。


「貴方の色はなんですか?」


 ――と。

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