あこがれの女教師は娼婦(その9)
美祢子先生が殺された翌週の金曜日、家に奇妙な手紙が届いた。
白い縦長封筒に、住所と宛名が短い直線だけを組み合わせて書いてあった。
明らかに、筆跡をかくすために、定規とボールペンを使っていた。
封を切って開けると、同じように定規とボールペンで、
「ドヨウビノヨルハチジ二カブキチョウノバッテングセンターへコイ」
と書いた三つ折りのレポート用紙が入っていた。
土曜日とは明日の土曜日のことだろう。
封筒を裏返すと、差出人の名前はなかった。
黒い雲が藍色の東の空を流れていた。
その雲の間から、三日月が尖った顎を時折のぞかせている。
「パキン」
「パキン」
金属バットがボールを潰すような音が響いていた。
バッテングセンターの敷地はけっこう広い。
どこで待てばよいのか?
道路側なのか路地側なのか、それとも裏道か?
バッテングセンターの建物の中ということもある。
路地側の金網の前に立って、スポットライトを浴びてバットを振る若者たちをぼんやりと見ていると、遠くから救急車のサイレンの音が聞こえた。
その音は次第に近づい来る。
路地を挟んだちょうど真向いの、シティーホテルのような造りのラブホテルの前で救急車が停まった。
救急隊員がストレッチャーを下して、エントランスに入っていった。
警察官も続いて入った。
しばらくすると、救急隊員は空のストレッチャーを押してもどって来た。
パトカーがさらに2台やって来た。。
刑事らしき男たちが、エントランス近辺に進入禁止の黄色いテープ張り巡らせはじめた。
それまで静かだった歌舞伎町の奥地のネオンの光まばゆいラブホ街は、野次馬が押し寄せて来て騒然となった。
あの差出人不明の不審な手紙は、このシーンを見せるのにおびき出すためだったのか?
辺りを見回した。
先週の美祢子先生の事件の体験から、防犯カメラに映っている確率が高いと思った。
新聞記者たちだけでなく野次馬も、めったやたらと写真を撮ったので、あちこちでフラッシュが光った。
あわてて現場を離れた。
怪しまれないようにゆっくりと・・・。
「中で女が死んでいたらしい」
「デリヘルの女か?」
クラブのマネージャーなのか、肩を並べて先を歩くふたりの黒い服の男の会話が聞こえてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます