〖起-6〗小型艇免許教習再試(241109改稿)
【宇宙空間】
・宇宙空間に、長さ10m幅7m高さ5m程度の大きさの教習用の小型宇宙艇が浮かんでいる。教習用の小型宇宙艇は、現役を退いた老朽宇宙艇を使用しているため古ぼけていて、教習所特有の派手なペイント塗装が似合っていなくて、チグハグな印象がある。メインクラスターには火が入っておらず、静かに停止して、ハザードを点灯させている。
・小型宇宙艇がいる場所は待機エリアで、その前に試験コースが広がっている。
規則正しく並んだ数々のランプが、点滅しながら立体的なコースを形作っていて、そのコースの所々に、直径30m程の小惑星が不規則に障害物として配置されている。
【小型宇宙艇コクピット】
・幅3m、奥行5mのコックピット室内。少し暗いオレンジがかった灯りに照らされて、操縦席にドリーが着座している。副操縦席に50代くらいの眼鏡をかけた愛想の無い試験官がクリップボードを持って座っている。その後ろの機関席には、《R-EOSPW》タイプの操船支援ロボットが着座している。
《R-EOSPW》
操船支援ロボット。現役では存在しないぐらい古いタイプ。
身長1m。ドラム缶のような胴体部に半円球型の頭部が載っている。広角・望遠・通常のレンズが頭部に埋め込まれている。腕部は、細い2本のマニュピュレーター、脚部は片足毎に3つの小型タイヤが三角型に取り付けられている。
・ドリーが、小型宇宙船舶の操縦桿を握りしめて、額に嫌な汗をかいている。ドリーの表情が、真剣で、引きつっている。
ドリー:「大丈夫。今度は大丈夫。いつも通りちゃんとやれば大丈夫…。」
・試験官がムスッとした表情で、クリップボードに挟んだ採点表を見ている。四角い眼鏡をくいっと指で持ち上げて喋る。
試験官:「2回連続で、一発失格。前回は…、前方不注意で障害物と接触ニアミスした…。失格したところ以外は、ちゃんと出来ているのにもったいない。もしかして…本番に弱いタイプ?」
・ドリーが、図星を突かれて、クラリと眩暈を感じたようによろめく。
・試験官が慌てて、フォローの言葉を掛ける。
試験官:「大丈夫、大丈夫、卒検3回落第した人は普通にいないから。2回目の落第だって、しばらくぶりだったから」
ドリー:「そのしばらくぶりって・・・、あたしですよね…」
試験官:「あれ? そうだね。…いや参っちゃうね。年取ると、色んなところの締まりが悪くなって。つい余計な事言っちゃうね。まぁ、普通にやれば合格するから、リラックスしてねって話だから。大丈夫!次も受けれるからね。落ち着いてね」
・ドリーは、もうダウン寸前のボクサーのような弱弱しい声で答える。
ドリー:「はひ…」
試験管:「…それでは気を取り直して、小型宇宙船舶運転免許実地試験始めます」
モノローグ:「私は、前回の卒検で、いわゆる一発失格をやらかした。試験に落ちた日は意気消沈して晩御飯が食べられなかった。昨日も、夢の中で、隣に座る試験官が凄い形相で緊急逆噴射ペダルを全踏みしていた。夜中に、何度も飛び起きた」
ドリー:「大丈夫。大丈夫…。きっと合格して、ぺリル号で一緒にレース出るんだから」
・ドリーは、教習用の小型宇宙艇を操り、ハンガーベイから滑宙路へ繋ぐ誘導路に見立てたコースを、管制と通信を取りながら、ゆっくりと移動させていく。通常は、誘導システムに任せるところを、管制がランプと音声で指示を出し、ドリーが声出し確認をしながら、手動で操縦桿を動かし操船する。小型宇宙船試験用滑宙路まで辿り着くと、一旦停止。
・ドリーが大きく息を付く。
・試験官は、横目でドリーを見るが何も言わない。
手にしたクリップボードに何か書き込む。
・ドリーが、試験官の持ったクリップボードを横目で見る。見たくはないんだけど、気になってしまい、顔は前を向いたまま、横目でクリップボードを見る。
試験官:「集中して」
・試験官が、厳かな表情で注意を促す。ドリーが、慌てて前方に視線を戻す。
ドリー:「機動操縦試験に入ります。」
・小型宇宙艇の前に浮かんだ複数のランプから光の線が伸びて、小惑星を模した正12面体がいくつも浮かび上がる。夫々の正12面体は、非常にゆっくりとバラバラな方向に動いている。
・小型宇宙艇のコクピット正面画面に、小型宇宙艇がトレースする航路が浮かびあがる。航路の線の所々に、青色・黄色・赤色の丸が打ってあり、その脇に数字が表示されている。夫々の色の点いた地点で、機体速度が設定されている。
・小型宇宙艇が、ゆっくりと動く正12面体の間を、機体各所のクラスターを噴きながら、すり抜ける。
・ドリーが、チラリと試験官を見る。
R-EO-SPW:「試験官、運航中ノ余所見アリデス。運航コース5%ズレ生じ修正のため、燃料無駄モ発生シテイマス。コノ集中力ノ無イ人間ハ失格デヨイト推察シマス」
・ドリーは、奥歯をギリリとの噛み締める。ボソボソと低い声で呟く。
ドリー:「なんでまた、コイツなのよ…」
・ドリーは、自分の後ろの機関士席に鎮座するR-EO-SPWを振り返らず、試験官に苦情を言った。
ドリー:「試験官、後ろのロボットを黙らせてください。試験に集中出来ません」
R-EO-SPW:「基本、宇宙艇の運航には、パイロットとエンジニアの2名が必要になるため、パイロット試験では、試験の公平性を保つために、エンジニアの代わりをロボットが使われます」
試験官:「試験に集中しなさい。このロボットは、古くて口は悪いが優秀なんだ。あんまり、口が悪いんで何回か調べたんだが、プログラム・CPU・メイン基板、どれも問題なかった。不思議でしょうがないが。どちらにせよ、このロボットは古すぎるので、この試験で引退だ。来週の競売で払い下げられる」
R-EO-SPW:「ア~。ヤット年季明ケデス。ハヤク本当ノ主人様ニ会イタイ」
・R-EO-SPWは、夢を見るように呟いたあと、アンの方を向いて言葉をかけた。
R-EO-SPW:「タマタマ人間型ダカラダトイッテ、チョウシニノルナヨ小娘」
ドリー:「あたしが、アンタに何したって言うのよ! この鉄クズ!」
・ドリーが、思わず後ろを振り向いて、R-EO-SPWを怒鳴りつける。
試験官:「君!、前、マエを見て!」
・ドリーが、前を向いてスクリーンを見上げると、画面いっぱいに正12面体が映り込んでいる。
・ドリーは、凄い形相で絶叫する。
ドリー:「あ゛~ッ!!」
・小型宇宙艇が、もの凄い緊急逆噴射を行う。
【小型宇宙艇コクピット】
・ドリーと試験官が、ぐったりとしている。コクピット室内がどんよりとしていて、痛々しいくらい。試験中の声掛けは禁止なのに、試験官がドリーに声を掛ける。
試験官:「結果はどうであれ、…もう少しだから頑張んなさい。」
ドリー:「はひ…。」
・R-EO-SPWは、平常運転か、むしろ機嫌が良いくらい。
R-EO-SPW:「フン、フフン♪」
ドリー:「ロボットのくせして、鼻歌止めなさいよ!」
試験官:「まぁまぁ、君たち…まだ試験終わってないから」
・小型宇宙艇が、ハンガーベイに近づいていく。細かく、船体各所のクラスターを小さく噴かしながら、トラス状に組まれた鉄の太いパイプで出来た接岸部に、船体を近づけていく。
ドリー:「停留位置まで、後10メートル、9、8、7…」
R-EO-SPW「接岸部との平行出ていません。」
ドリー:「6、あっ…」
・船内にゴツンと大きく音が響く。
ドリー・試験官:「「あぁ…」」
・241109改稿
微修正のみ。
【神沢コメ-6】
いやぁ、教習所の卒検ってめっちゃ嫌ですよね。
試験だからって理由で、判るっちゃぁ、判るんだけど、試験中にそんなに無表情で黙る必要ある?って感じですよね。もともと運転慣れてなくてお金払って習っているのに、変なプレッシャーかけられたら。ミスするっての~って感じです。
ただ、今になって思うと、ロクに運転できないヤツの隣に乗るのって恐怖ですよね。神沢は、何度か教官に補助ブレーキ踏まれて、凄い怒られた記憶あります。あのとき神沢は、「補助ブレーキ踏むからびっくりしたわ。そんなに怒らなくて良いじゃん。」と思ってましたけど、教官側は「マジで死ぬかと思った。こいつの隣に座ると命が危ないかも知れん。」とか、命の危機を感じて怒っていたのかも知れないです。
現代に無いものについて想像するときは、現代の身近で何か近いものが無いか探すようにしています。それが、今回は自動車教習所の卒検でした。
ドリスシップやプラットフォームは、海上石油採掘を参考にしています。
人工コロニーや移民宇宙船やプラットフォームの組織は、工業プラントの組織(24時間操業4チーム3交代)を参考にしています。
宇宙と異次元の境界の表現は、空と海の境界を参考にしています。上から見ても、海の中って良く見えませんよね。けど、飛び込んでしまえば、そこは全く異なる様々な種類の沢山の魚が住む世界です。また、住んでいる次元も違います。私たちは、原則2次元の地面に暮らしていますけど、海の中は基本3次元の世界で生き物は地面に縛り付けられていません。
[記号凡例]
①〖〗 エピソード番号 起承転結に分けて採番する。〖資〗は資料編。
②【】 主に、場所を記載する。
③〈〉 氏名・固有名詞・用語。本文中に説明があることがある。
④《》 氏名・固有名詞・用語の説明。
本文中と資料編「登場人物・用語集」に説明がある。
⑤ ・ 主に、登場人物の動きや表情を記載する。
⑥ ・ アニメで言う背景・ドラマで言うセットの内容を説明する。
⑦ 名前:セリフを記載する。例)ドリー:「こんにちは!」
⑧ 説明:状況を説明する。
⑨[] :神沢メモ他を記載する。
⑩ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ :シーンとしての区切り。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます