フラワーパラディン ~花の叙勲~

春野 一輝

第1話 天から落ちた花

 ここは、地上の戦争から離れた高い空のかなたの国。誰もが笑顔な幸せな天上界。

 空には花の形をした島がたくさん浮遊している。

 その中でも一番大きな花の島の中央には、この天上の偉い人たちが集まる大理石の塔があった。

 大理石の塔は、政治、信仰、軍事を統括しており、元老院が裕福なものたちを集めて会議を開く場でもあった。

 ここで仕事を行う者たちは、一室を貰って家族と一緒に住みながら仕事を行っている。


 第4層と呼ばれる。星々が煌めく世界の天上界は、今日も地上を視察する業務を行っていた


「地上の様子はどうだ?」

「はい、地上のフラワー達は、戦争から逃げるために、天上界への脱出を試みている現状です」

 透けるような銀髪の長いポニーテールを揺らすのは、天界騎士の銀銭花だった。

 部下を立たせ、胸に銀の花を咲かせ、あごに手を当てて紙の資料を見ている。

 資料には地図が書かれており、第1層である平坦な大地が敵の赤い色で塗りつぶされている。

 その地図の二枚目、第2層は円錐型の浮遊島であり、ここのマップの南部分が赤く書かれているのみであった。

「みたところ、状況はあまりよくないな。敵が第2層に未だ進行しているではないか」

 神妙に眉を顰め、凛々しい瞳で視線を部下に向ける。

「はい。老師たちも、この現状を打破するべく、地上に使者を送る算段をしています」

 なるほど、と相槌を打ち銀銭花は席を立った。

「わかった。私もその老師たちの算段の話を聞いてみよう。ありがとう、さがっていいぞ」

「はっ」

 部下が敬礼をして、退室する。

 銀銭花は、部屋の隅で遊んでいた人物に声をかけた。


「ローズ」

「はーい! ししょー?」

 少し幼げな表情で、まん丸の赤い瞳を背の高い銀銭花に向けてくる。

 胸にはガーネットのバラを咲かせている。

 ローズは、母である銀銭花の従騎士を務めていた。

「(ローズには、地上の視察の業務を教えていなかったな……丁度いい、教えておこう)」

 まだ腰に下げている剣のサイズも合わなさそうなローズに、銀銭花は修行のための同行を求める。

「地上に視察に出る。お前も社会勉強だ。ついてくるといい」

「はーい! ししょー!」

 銀銭花は手を差し出す。

 ローズはがばっと大きな口を開けて、笑顔を浮かべる。

 そして、がぶっと差し出した銀銭花の手にかみついた。

「やめんか! もう貴様も子供ではないのだぞ!私の部位にかみつくな!」

「ふぇも、ふぃふぉー!」

 笑顔でもごもごと口を動かすローズ。

 嚙みつき癖は小さいころからであったが、だいぶ大きくなっても時々噛みつかれている銀銭花は、未だに手を焼く子供のようにローズに接していた。

 ローズは銀銭花の子供で、夫の青薔薇との子供であった。

 同じ、騎士としての血を持つ青薔薇は、夫としてなんの不足もない存在だった。


「しかし、こうも手の焼ける子供が生まれるとはな」


 ふっと笑い、ローズの歯を引きはがすと、重くなったローズの体をフンと抱きかかえて、自身の執務室を後にした。


・・

・・・


 二人は、大きな装置の前に来ていた。

 円柱状の不可思議な青い光を放つそれは、いくつもの管が通り、植物のような機械のような外見をしている。

「ローズ。任務の説明だ。今回は、第2層に視察に行く。第2層は、フラワー達がこの天空に脱出するために大地をくりぬいて作った浮遊島の陣地だ」

 簡易な地図をローズに見せた。


 第4層 ー 天上界:平和・我々が住む場所

 第3層 ー 浮遊島2:特筆・王族が住む

 第2層 ー 浮遊島1:激戦区、塔によって大地に縛られている

 第1層 ー 地上:敵に陥落済み


「地上に行く前に、お前の花を防護が高い状態にしてやろう」

 銀銭花はローズの胸のガーネットの花に、手をかざす。

 すると、花はガーネットの石の花から、しなやかな薔薇のに戻り、ガーネットの宝石が浮かび上がって、薔薇の花の中に吸収された。

「こうしておくことで、我々にとって大事な宝石の部位を花の中にしまっておける。覚えておくように」

 ほーっと、大きな関心の声を上げるローズ。

「どうして、宝石を花の中にしまっておかないといけないのかしら? ししょー?」

「敵は、私たちの命の源である宝石を乗っ取る。乗っ取られると、意思を乗っ取られてしまうんだぞ」

 ひぇーと、怖がるそぶりを見せるローズ。

「だから、お前も誕生したときに教えられた真名を誰かに教えたりしてはいけない。それを教えたら、誰もがお前の宝石を取り出すことが可能になるからな」

「わかったわ! ししょー!」

 単純明快な納得の声を出すと、二人で手をつないで装置の中に入った。

 転送機械を通ると、二人の体は透過しウィンウィンと音を立てて、起動した。

 気が付けば、目の前には大きな、二人の背丈を越える草が広がり、転送装置らしき廃墟の中に二人はいた。

「ここが地上だ。私たちの姿は、現地のフラワー達には見えてないから気を付けるといい」

 森の外に出て、空を見上げるともくもくと煙が上がっているのが見えた。

「ねえ、ししょー!  あれはなに? 地上のフラワー達は何をしているの」


 少し間をおいて、深刻そうなトーンで答えが返ってきた。

「戦争だ」


 ごくり、とつばを飲み込み、ローズは銀銭花の顔を見上げる。

 遠くから悲鳴と、走り去るような人々の足音が聞こえてくる。

 その声はだんだんと近くに寄ってきて、村の人々と思える群衆がローズたちのいる道へと駆け込んできた。


「ししょー! 人が逃げてくる!」

 ローズが慌てたように、震えた大声を出す。

 透明化した二人をすり抜けて、群衆が逃げまどいながら走り去っていく。


 一人、おいてかれた子供が後方でこけた。

 こけた子供に手を伸ばそうと、ローズが駆け寄るが、通り抜けてしまう。

 子供は、後ろから来た自分たちフラワーに似た蝶の羽をはやした化け物に連れ去られていく。

 なき叫び声をあげる子供の手をとろうと、必死に走るローズだったが、遠くに飛んで行ってしまった。


「助けないと!」

「無理だ。彼らはこのような戦争を、もう300年はしている」

「どうして、助けてあげないの! ししょー!」

「どうにもならない。我々も敵との戦争を天界に持ち込まれたくはない。敵である、悲劇の怪物をな」


「悲劇の怪物なんてわからないわ!」

 そうローズが言うと、天の遠くを指さした。

 指先には、高いオベリスクが建ち、茶色の縞がある根が纏わりついていた。そこからは、蠢く虫のようなものがいる。

 オベリスクが雷鳴とともに光が輝くと、天空に蝶の化け物が次々と召喚される。

「あれが、悲劇の怪物の源となる根だ。あそこから、怪物の元となる虫が生まれる」

 先ほど子供をさらったのは、蝶型をした悲劇の怪物に他ならない。

「あれが……フラワーの敵、悲劇の怪物……!」

「奴らは、美しいものに寄生し、モンスターと化す。我々、フラワーたちの宿敵だ」


 高くそびえるオベリスク

 ローズはそれを見つめた。あそこに、さらわれて行ってしまった子供はどうなるのだろうか。

 悲劇の怪物たちは、何を目的として、フラワー達を襲っているのか。

 未だ謎の深い世界に、ローズは恐れを抱いた。



 視察を終えると、銀銭花はローズを連れて、天上界の城にある自室へと戻っていった。

「帰ったか。ほら、お風呂が沸いているぞ…♪」

 朗らかな表情をして出迎えてくれたのは、夫の青薔薇だった。

「ちちー!」

 抱きつくローズ。それを撫でる青薔薇。

「守護隊の育成の方はどうだ? 青薔薇」

「ああ、それだったらね。みんな君の指導書を読んで勉強しているよ。いや、百戦錬磨の戦略家の書いた本だ。敵わないね」

 ほめの言葉を銀銭花にかける青薔薇。

「いずれ、彼らも天界からの使者として、地上に派遣されることになるやもしれぬ。大事に育てていかねばな」

「ししょー、早くお風呂入りたいわ!」

「わかった。わかった。青薔薇、私はローズを風呂に入れる。家事の方は任せた」

「ししょー、家事出来ない……私知ってるわ」

「人を、なんだと思っているローズ? その頬をひっぱってやる」

「わー! ししょーが怒る! 怒る~~!」

 じゃれあう銀銭花とローズを見て、青薔薇は微笑む。

「じゃあ、僕は食事の準備でもしているよ。ごゆっくり……」

 青薔薇は風呂へと二人を見送った。


 夜。

 ベッドでうなされるローズの声がした。

 夢の中で、自分は悲劇の怪物に追いかけられている。

 大勢の老人や、まだ成年に達していない若者が走って逃げていく。

 ローズも、必死にみんなと道を駆けて逃げていく。

 しかし、足を取られて転んでしまった。

 後ろからは悲劇の怪物の手が迫る。

 いや、やめて――!! 泣き叫びながら、ローズの足は宙へと舞う。

 悲劇の怪物がケラケラと笑いながら、ローズを空へと連れ去っていった。


 はっとなってローズは夜中に、目を覚ました。

 横には母である銀銭花が、寝息を立てている。

 ゆさゆさと引っ張って、銀銭花を起こそうとするローズ。

「ししょー、怖い夢見たわ~」

 じゃれつきながら、ローズは銀銭花をおこした。

「なんだ……? 怖い夢を見た?」

 寝れないローズが不安そうに銀銭花を見つめてくる。

「仕方ない、何か一つ、お話をしてやるか」

 枕を元に戻し、整えると、ローズの方を向いて銀銭花は話し始めた。

「今日は怖いお話をしたからな。希望のお話をしてやろう。伝説の騎士、フラワーパラディンについてだ」

「フラワーパラディン?」

「地上で言われている、伝説の勇者の預言だ。騎士の階級で最も高い希望の戦士。その人が現れて、地上の悲劇の怪物を統制する魔王を打ち倒すといわれている」

「フラワーパラディンが現れたら、世界は救われるのね!」

「そうだな。フラワーパラディンは預言者が予言してくれる。きっと、いずれ生まれることが予言されるだろう……地上の者たちはみんな、それを待っているのだ」

 ワクワクと肩を揺らしながら、ローズは師匠でもある銀銭花を見つめた。

「いつ現れるの? 預言者はどうして予言できるの? ねえ、ししょー」

「目をつむれ、自分がフラワーパラディンになったと思って剣を取ってみるといい」

 ローズは布団の中に入ると、自身が気高い騎士、フラワーパラディンとなったイメージを膨らませていた。

 目の前には、悲劇の怪物を連れた魔王がいる。

 ひとなぎしては、前進し、また怪物を貫いては、魔王に近づくために前進する。

 強くなったイメージの中のローズは、最強であった。

 そう、立ち向かう自分の姿を思い浮かべると、うとうとと眠りの中にいざなわれるのであった。


 次の日、元老院の会議に銀銭花は招集されていた。

オベリスクの北の2本は地上のフラワー達によって占拠しており、残るは南の2本。片方はほぼ陥落しかけております。残りの東南だけが問題かと」

 紙を広げ、地上の丸い地図に線を引いて説明をする銀銭花。

「なるほど、その一本を落とせば、地上も天界へと昇ることができそうですな」

 納得の声が会議室から発せられる。

「この現状から、最後の一本を落とすために、天界から使者を下すべきではないかと提案を進言したい」

 銀銭花は、そう言って発言を〆た。

 ほぅ、と全体から感嘆の声が聞こえる。

「しかし、この天界の存在を、知らせてもいいのかね?」

「だから、地上の王族のみに使者を送る算段だ。このことは秘密裏にされ、表では新しく軍事顧問として、地上の地理の情報を持った有能な戦士が配属されるだけだ」

「地上と天界の関係をつなぎとめるためですね」

 がやがやと、元老院のフラワー達が相談しあう。


 ”地上に送るフラワーは一体誰がいいか?”という段階になった時。


「銀銭花、そなたが一番、地上の視察を行っている騎士だと見受けれる」

「はっ。この私、銀銭花は天界の平和の安寧のために視察に身を費やしてきました」

 銀銭花に白羽の矢が立った。

「幾人かの、君の夫が育てている軍略家たちを連れ、地上へと舞い降りよ。そして、この悲劇の怪物を倒す戦力となれ」

 銀銭花は頭を垂れると、膝をついて宣誓した。

「きっと必ずや、天界にとって良い報告を持ち帰ります」

 その決定が下されると同時に、今日の会議は終わった。


「ていやー! あたしが最強のフラワーパラディンよ!」

 剣を振り下ろしながら、庭で鍛錬をしているのはローズの姿であった。

 周りでは、同じく鍛錬に励む見習い騎士の姿が見れる。

 その指導を見守っているのは、青薔薇だ。

 カンッカンッと、木刀と木刀がぶつかり合い、相手を威嚇する掛け声が連呼する。

「そこまで! 今日の鍛錬はここまでとする!」

 父の青薔薇の声が響く。

 ローズは布のタオルで顔を拭き、水を浴びると、汗を流して気持ちよさげに首を振った。

「ねえねえ、ローズ知ってる?」

 こそっと、金の巻き毛の金仙花が、口元を手で隠して話しかけてくる。

「なーに? あたしに用?」

「それが、貴方のお母さんが、使者として決定したらしいのよ!」

「ししゃ?」

「鈍いわね。地上の作戦指揮をする人に選ばれたのよ。天界と地上界のつながりの使者よ!」

 金仙花は手を広げ、大きく仰ぐと、その手を頬にあてて、うっとりとした。


「地上の作戦指揮を執る高司令官になるに違いないわ~。あ、ローズは一緒についていくの?」

「えっと、それは~……」

「引っ越すんでしょう!? 寂しくなるわね! なんといっても、地上の王宮ですもの……うらやましいわ!」

 うっとりと王宮生活にあこがれを抱く、金仙花。

「全然聞いてないわ……」

 むくれつらで、噂が大好きな金仙花を見つめる

「私のとっておきの情報網ですもの。オホホホホホ! 残念だったわね」

「金仙花! こっちへこい!」

 青薔薇から呼び出され、びくっと背筋を正しくする金仙花。

「私と金仙花達は、このあと残ってさらに訓練をつませることとなる。」

「じゃあ、あたしも――!」

「いや、ローズ。これは、軍略課に配属されたものだけの課題だ。従騎士であるお前は家に帰るように」

 教官モードの青薔薇に進言して、断られるローズ。

 じゃあ、またね! と、金仙花に手を振られ、ローズは庭を後にした。



 日が経ち――、母の銀銭花が出立する時が来た。

 台の上で、それぞれの元老院の花達が、祝辞を述べる。

 青薔薇の軍略課の子達が、警備兵を務めているのか、兵隊姿の金仙花の姿も見れた。

 ローズと青薔薇、そして騎士の銀銭花は、地上へと行くための準備を済ませ。荷物を兵士に預けたまま、元老院の人々の祝辞を聞いていた。


「今こそ、地上の勝利を、天界と地上の同盟にて成し遂げよう!」

 そう、壮言が響き、祝辞が締めくくられる。

 出立の時を見に来ていた、他のフラワー達の歓声と拍手が鳴る。


「最後に、銀銭花。そして、その補佐となる青薔薇から一言もらおう」

「主賓ある銀銭花はおいておいて、私の方から先に一言いいでしょうか?」

 青薔薇が進み出て、台の上に立つ。


 台の上に立った青薔薇は、拳を降って演説を始めた。

「今、地上は悲劇の怪物によって、侵略されている!それは強き絶望であり、打ち砕けない絶壁である!」

 青薔薇の演説が、台の上から観客へと広がっていく。

「その絶望を打ち砕くのは何か? 地上の軍隊か? それとも、伝説のフラワーパラディンか? 否!!!!」

 先ほどまで静かにしていた、兵隊達が元老院のフラワーを取り囲み、その行動に動揺が走りはじめる。

「今! 地上を救わない元老院は粛清される! 地上を救うのは、ここにいる銀銭花ではない。我々、星々の軍隊であり、育てられた軍略課たちである!!」

 兵士が持つ剣と槍が、銀銭花を取り囲む。

「これはどういうことだ、青薔薇! 何をやっているのかわかっているのか!?」

 銀銭花が青薔薇に訴え出る。

「君はこっちに来る気はないのか、銀銭花! 僕たちは、まだ間に合うはずだ」

「まだ間に合う? 私は今この現状を弁明せよと言っているのだ」

「君はいつもそうだ。この星々の世界のことしか考えていない。あの夜のように――!」

 ぐぐぐ、とこぶしを握り締め、苦しそうな声を出す青薔薇

「まだ、弁明すれば、この状況は私が釈明をしよう。だから――」

「違う、これは僕の意思だ――!」

 そして、手を銀銭花の花に手をかざすと。言葉を発した。

「お前の真名は、結婚夜に聞いた……開け、銀銭花!汝の真名は清明せいめい!」

 花がキラキラと輝いて開いていく。そこから、美しい透明な銀色の水晶が浮かんでいた。

 青薔薇はその水晶を掴み取る。

「うぁあああ!!!!」

 水晶を掴まれ、叫び声をあげる銀銭花。

「ししょぉー!!」

 傍で見ていた、ローズが悲鳴を上げた。

「逃げろ……ローズ……!」

 意識がなくなるか、なくならないかの瞬間、銀銭花はローズに声を発し、そのまま倒れてしまった。

 駆け寄るローズ。

 銀銭花の魂でもある、水晶を掌に乗せて、台の上で勝利の宣言を青薔薇は発する。

「今、使者の魂はこの手中にある! 元老院の計画である地上の繋がりは断たれた! クーデターは成された! これからは、我々軍隊の時代だ!」

 物言わぬ銀銭花の傍で泣く、ローズ。

 語りかけても、揺らしても、もう二度と寝物語を語ってくれない銀銭花。

 その姿を、青薔薇が見下ろして、ローズに声をかけた。

「ローズ、お前は新しい統制時代の、王となる僕の子供として働いてもらう」

「嫌よ!」

 父の冷たい言葉に、ローズは反発する。

「いうことを聞くんだ!」

 手でローズを引き上げようと、青薔薇がつかもうとした瞬間。


 シューッ!


 と、球が転がり、煙が発せられた。

「煙玉か!?」

 煙が引き、気づけば、目の前にいたローズの姿がいない。

「逃げられた、追え! 私が鍛えた兵士達よ!」

 青薔薇は指令を出すと、兵士を出動させる。



「まさか、あたしがあんたを助けるとはね!」

 バタバタと兵士と、ローズが走っている。

 兵士の中身は金仙花。彼女が手を引いて、ローズと一緒に逃げていた。

「ぐす……ぐす……」

「あなたのお母さんは、まだ生きてるわ……! 宝石を抜き取られただけよ」

「でも、だってぇー!」

 泣きじゃくりながら、ローズは金仙花に訴える。

 王宮の端のほうまで行くと、遠くにまた別の浮島が見えた。

「あっちに飛びましょ」

「えっ」

 驚くローズを見て、金仙花も驚いた。

「もしかして、飛んだことないのぉ?!」

 ぶんぶんと、うなずくローズ。


 追い詰められた。下に飛び込めば、地上に落ちてしまうだろう。

「あなたも、天界の花なんだから、空は飛べるはずよ! 飛びなさい!」

 金仙花が、花びらの羽を開かせて、手本を見せる。

「ここは、私に任せて」

 後ろから、兵士たちが迫っていた。

「でも、どうして……?」

「友達のよしみってやつよ! あとで、たくさんお菓子買ってもらうからね!」

 ウインクして、金仙花は剣を構える。

 そして、ドカッと蹴られる音がした。

 ローズは足場を失い、そのまま落下していく。

「いやよぉおおおお!!」

 情けない声をあげながら、急降下していく。

 上で、金属の剣同士がぶつかり合う音がすると、金仙花が戦う気配がした。

 しかし、それも空の雲を突き破って落ちていく

 ローズは頑張って、花びらの羽を広げようと唸る。


 少しづつ、少しづつ、開いていく羽は次第に力をなくし。

 ひゅるひゅると、パラシュートが空気を受けるように開いて落ちていった。

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